87-2.ちゃんちゃん焼き②
ちゃんちゃん焼きは、下ごしらえさえしてあればそこまで手間はかからない。
まず、
油にも熱が加わったら、大きめのシャケの切り身を皮面からそっと置く。
途端、じゅわっと音がたつが、気にしてはいけない。
この皮もしっかり食べちゃうから、よく火を通しておかなくてはならないからだ。
「皮にしっかりと焦げ目をつけてから、このコテと言う銀製のヘラで慎重にひっくり返しますね」
「普通のフライ返しじゃダメなのかい?」
「出来なくもないですが、切り身が重いのでこう言うのが一番なんですよ」
「へー」
切り身の下の部分が少しピンク色になってきた頃合いを見てひっくり返せば、綺麗に皮に焦げ目がついていた。
これを、次はひっくり返した部分に焼き目をつけさせてから一度大皿に取り出す。
「ほう。一度火から下ろすのですかな?」
「後でまた戻します。次は野菜ですね」
焦げ目のつきやすい、固めに茹でたジャガイモにも焦げ目をつけてこれも別の皿に置いて。
その後に、火の通りやすいようにカットした野菜達をコテで炒めて。火が通ったら、シャケ、ジャガイモも順に鉄板の上に戻して。
ここでついに、味噌ベースのタレのご登場だ!
「ここに用意しました調味料が、ヌーガスさんにいただいた味噌をベースにしたものです」
「んで、仕上げにバターだろ?」
「ねー?」
「この茶色いソースみたいなのに、そんなにもバターが合うのかい??」
「論より証拠。食ってみりゃわかるって」
蒸らしも兼ねて、鉄板とセットになってた大きいフタを被せて。
念のため、タイマーで6分程煮込んだら。
今度はカットしておいたバターを散らしてさらに数分フタをして。
出来上がったら、切り身を取りやすいようにコテで切り分ける。
「お待たせしました! ちゃんちゃん焼きです!」
「おおおおお! 香ばしくもバターの濃厚な香りで食欲をかき立てるんだぞ!」
「ええ、良い匂いですな?」
「お皿に取り分けるので、お待ちください」
ここで、ロティの炊飯器でセットしておいた炊きたてのご飯も皿に盛り付けて。
魔石コンロの火を止めてから、全員で用意しておいたテーブルについて食べることに。
「これは……どちらかと言えば、野営向きの料理に見えるな?」
カイルキア様の分を置くと、そんな事をおっしゃいました。
「そうだな。この世界の感覚じゃ、わざわざ遠出してまでピクニックとかする時とかにやる料理だ。冒険者だと、ちょっと豪華だがな?」
「けど、いい匂いだねー? あれだけ仕上げにバターを入れてたから、結構しょっぱいのかな?」
「それと、調味料に砂糖も入れてますので少し甘いです」
「そうなんだ?」
「説明はいいから、食おうぜ!」
「俺もお腹すいたぞ!」
「……では、いただくか」
カイルキア様の言葉が合図となり、全員で手を合わせてからいただきますをした。
少し冷めたはずなのに、まだシャケから湯気が立ってるので。ロティの皿のシャケを小さく切り分けてあげてから食べることにした。
「「「「「『「んん!」』」」」」」
「うっめ! 前世以来だ、この甘じょっぱいの!」
「なんなんだい、このクセになりそうな後味! 濃いのに、そんなすっごく塩っぱくなくて!」
『むぐむぐ……美味ちーでふ、ご主人様ぁ!』
「美味しい!」
シャケには、程よく味噌とバターの塩気が移っていて。
砂糖とお酒を少量混ぜただけでも風味を損なうことがなく。
野菜も甘く、塩っぱく、ホクホクの部分はクセになりそうで。
前世以来の鉄板料理の完全再現が出来ました!
【PTを付与します。
『ホクホクちゃんちゃん焼き』
・製造2キロ=2500PT
・食事1皿=500PT
→合計3000PT獲得
レシピ集にデータ化されました!
次のレベルまで、あと3016200PT
】
『ジャガイモがすっげーうんまいでやんす。固めに茹でて焼いたのはこの食感のためでやんすか?』
「うん。ふつうに茹でちゃうと、煮崩れちゃってこうはならないの」
もちろん、煮崩れても美味しいは美味しいけど。
私としては、前世の実家でお母さんが作ってくれたこの味が好きだ。
いわゆる、家庭の味だけど。カイルキア様にも喜んでいただけたみたい。
気がつくとあっという間に食べ終えてしまってた。
「米ともよく合うな。これは……このミソと言うのを使っているからか?」
「はい。味噌は味噌汁というスープにするとより一層お米との相性がいいんですが。ベースとなる味の決め手が、このお屋敷以外でもおそらくないので作れないんです」
「む。何が必要なんだい?」
「え、と。昆布と言う海藻を乾かしたものや、カツオと言う魚の身を干したようなものです。この二つもしくは、どちらかがあるだけでコンソメの代わりになるんですが」
ヌーガスさんにもう少し詳しく聞ければよかったが、今ご実家の都合で帰省されてるそうなので。
鯖の味噌煮を作る日には帰ってこられるらしいが。
「ん、んん〜?」
「俺もカイル達と回ってた頃でも見たことがねー。日本の和食文化には欠かせないダシっつー調味料になる。これがあると、ほんと米が美味いんだよなぁ……」
悠花さんも日本の和食を思い出して、ヨダレをこぼしそうになっていた。
「しかし、そのふたつがあれば。食卓がまた豊かになるかもしれないのか?」
「はい。今日召し上がっていただいたちゃんちゃん焼きも、ある意味でその和食になります。家族で囲む料理なので、今日使った調理器具があると簡単なんですが」
「……これらを、仮に宮廷魔法師団に調べさせる事なら可能かもしれない、が」
「やめといた方がいいんだぞ。あれらに任せたら、限界までそのカセットコンロを分解するはずさ」
『ダメでふううううううううう!』
「うむ。させないんだぞ」
それは困る。非常に困る。
使い方を知ってても、私には組み立てとか無理だろうから。
「ま、そこはいいとして。おかわり欲しいんだぞ!」
「……俺もいただきたい」
「俺も!」
「僕も!」
難しい話は強制的にシュライゼン様が終わらせてしまったので。
一度目のが空っぽになったら、第二陣を焼いたりしてパーティーを続けました。
「チーちゃん〜。余ったタレって、前世だとどーしてた?」
皆さんが満腹手前になる頃に、悠花さんが聞いてきた。
「うーん。茹でうどん絡めて締め?」
「そうね。米よりはうどんよねー?」
「ホムラにあった……きしめんのような麺なら」
「アリね! 今度取り寄せましょうよ!」
「あー。麺つゆ作れれば、おうどん以外にも色々作れるのに」
「ねー」
「げっふ。面白そうな話かい?」
「やっぱ、昆布が欲しーっつー話」
「ふむ。コンブってどんな見た目なんだい?」
「えっと、ですね」
気になり出したシュライゼン様が、魔法で紙と羽根ペンを出してくださったので。記憶を頼りに昆布の大体の絵を描いてみたけれど。
「……こんな大きな海藻?」
「なんか、根っこんとこ違くね?」
「前世の記憶でも完全に覚えてるわけじゃないもん……」
とりあえず出来た図を見せれば、当然わからないシュライゼン様は首を傾げた。
悠花さんには少し違うと言われたけど、ほんと実物がどうだったかも記憶がおぼろげだし。
「これをどう使うんだい?」
「適当な大きさに切った、干した昆布を煮出して湯にダシの素となる部分を溶け込ませるんです。これと、カツオの切り身を干した鰹節を削ったのを加えて……スープや調味料の素となります」
「ふむ。【枯渇の悪食】によって失われた文化の一つなのか、完全にチャロナ達の世界の食文化か。けど、今日のミソとか、クスティのショーユが実在してるのなら。前者の可能性が高い。きっと、世界のどこかで埋もれてるかもしれないんだぞ!」
「そ、そうかもしれないです! お酒もありましたし!」
「酒?」
「米を原料にした、辛味のキツイ酒だ。小豆を分けてくれたユリアやフィルドが先日持ってきたんだ」
「ふーむ。そのふたりも気になるが、俺の信頼の置ける調査隊を各地に派遣しよう! 海辺の街を中心に回ればあるかもしれない!」
「ヒャッホーウ! 味噌汁に煮物ぉ!」
「あ、それかマックス。お金出すから依頼しようか?」
「アホか! ギルドはともかく、俺は今チーちゃんの護衛だ!」
「あっはー?」
とにかく、ダシの素になる調味料探しが始まるかもしれない。
いにしえの口伝の再現の協力になれれば嬉しいが、時間はきっと予想以上にかかるだろう。
ちょっと、ユリアさん達に伺えればいいんじゃと思ったが。それはまた後日の事だ。聞ければ、にしよう。
そして、満腹になるまで食べ終えてから、シュライゼン様とカイザークさんはカイルキア様と少し話されてからご帰宅されるという事で。
ちゃんちゃん焼きパーティーは、和やかに終えることが出来ました。
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