73-2.小倉あんぱん作り②
「……卵を入れる生地は、これまでも作っていたけれど。わざわざ冷やす発想はなかったなあ」
「夏場は特に冷やしておいた方がいいと思いますよ」
「えっと……生地が緩む?」
「はい。伸ばす工程もやりにくくなりますし」
私は、私が来る以前のパン作りについては。
初日の時に、思いっきりガス抜きをしようとしてた部分しか見ていない。
そのほかは、彼らが作ったものを食べさせてもらったくらい。
そこからだいぶ改善されても、まだまだ焼きの工程は任せられない。
せめて、生地の分割と丸めるところくらいだ。
今もやってもらっているが、最初の頃と比べてもはるかにマシと言える。
シェトラスさんも、最初は片手でだったのが、今では両手で丸めることが出来てるもの。
さすがは、元宮廷料理人さん!
「うん。こんなところかな? チャロナちゃん、どうだろう?」
「はい。見てましたが、だいぶ生地を引き込めてますね?」
「( ´ω` )ホッ」
最初の頃は、それはもう大変だった。
お団子を転がすようにとか。
力み過ぎて、表面がグチャっとなったりとか。
その他諸々。
レイ君が加わるようになってからも、それは同じで。
けど、それだけ【枯渇の悪食】による被害は今も続いているのだ。
それは、ここよりも庶民の方が酷いはず。
早く、彼らにも伝えてあげたいが。いつになるやら。
「チャロナ〜〜〜〜!」
「へ?」
ちょっとだけぼーっとしてたら、いつのまにか目の前にシュライゼン様が立ってて。
しかも、隣にはカイザークさんまでご一緒だった。
「ちょっといきなりだけど、パン作りを習いに来たんだぞ!」
「すみませぬ、先触れもなしに」
「い、いえ」
そう言えば、シュライゼン様達への指導日って特に決めてなかった。
何も言われなかったから、ひょっとして今日はお暇が出来たからいらっしゃったかもしれない。
けど、少し残念。
もう二時間ほど早かったら生地作りまで出来たのに。
まあ、そこは仕方がない。
「では、せっかくなので。餡子の包み方からやりましょう」
「「アンコ??」」
「先日召し上がっていただいた、苺のあんぱんと似たパンを作ってるんです」
「おお! あれはとっても美味しかったんだぞ!」
コンコン。
さあ、始めようと言う雰囲気になった途端、どなたかの来訪を告げるノックが。
私が開けに行くと、そこにはフィーガスさんとカレリアさんが!
そう言えば、来られるんだった!
「よっ。こいつの料理特訓出来ないか、この前のパーティーじゃ聞きそびれちまってたからな?」
「えっへへ。お願い出来ないかなあ?」
「え、えーっと」
これは、大変な大所帯になってしまった。
少人数の厨房を、フィーガスさんの魔法で大改造されてもまだまだ手狭なので。
今で6人もいるのに、これで8人になると。
「ここじゃ狭いだろうから、食堂を使うかい?」
「シェトラスさん」
話が聞こえてたのか、シェトラスさんがやってきてくださった。
「なんだ? 厨房は満員か?」
「今さっき、シュライゼン様とカイザークさんがいらっしゃって」
「え、シュラ様?」
「んで、うちの爺様かよ。なんで……いや、確かパン作り習いに来るとか前に話してたな?」
「まさにそれです」
なので、材料を全部持って、食堂のテーブルを繋げてクロスを剥がして台にして。
即席だけど、お料理教室風にご指導を頑張らせていただきます!
『あんぱん〜あんぱん〜!』
ロティはあんぱんが好きだからか、可愛くきゃっきゃしてます。
「まずは、生地の伸ばし方からです」
「最初は軽くガス抜き、次に軽く伸ばして。いっぺんに広く伸ばさずに、例えば五個おきに順番に伸ばしていきます」
「へー。俺今までならすぐに伸ばしてたけど」
「ものによれば、それも正解ですが。こう言う包むタイプは時間……生地のベンチタイムを置くごとに生地が程よく緩んでいくんです」
「なるほど。包みやすさもですが、それが生地に負担をかけにくいと言うことですかな?」
「それも正解です」
カイザークさんは飲み込みが早い。
「う、う〜〜ん。よくわかんない」
「お前さんは、実践しても難しいからとりあえず見とけ」
「う、うん」
逆に、カレリアさんには説明が難しかったかもしれない。
「そして、程よく伸ばしたら。このアンベラを使います」
「ほ〜ぉ、面白い棒なんだぞ」
「一種のヘラだと思ってください。ここに、
「なんだなんだ? こんな薄っぺらいので重さが量れるのか?」
「私と
「「「へえ〜〜」」」
「異世界の道具は不思議なモノが多いのですな?」
生地が50gに対して、餡子も50g。
誤差プラマイ1gはご愛嬌。
一度生地を左手に乗せ、少しずつ少しずつ餡子の土台を作るように乗せて。
量りで微妙に調整しながら、餡子を乗せて仕上げに包んで行く。
これを見せると、何故か皆さんから拍手が。
「手際が良過ぎるんだぞ!」
「すごいすご〜い!」
「お見事ですな」
などなど。
ちょっと照れちゃったが、せっかくなので皆さんにも少し手伝っていただこう。
「アンベラと量りはまだあるので、包む前の状態まで皆さんにも挑戦していただきます」
『はーい』
人数分道具を配ってもまだまだ余裕のある
それぞれスタートしてもらったら、慣れてない人からもう大変だった!
「あ、あれ? 生地がぐちゃぐちゃ?」
「おっ前、ほんと料理は下手だな?」
フィーガスさんとカレリアさんチーム。
フィーガスさんは出来てても、カレリアさんはまだ持って一度餡子を乗せただけなのに見るも無残な状態にさせてしまった。
けど、修復はまだ可能だったので、それは私が受け取って修正。
仕方なく、カレリアさんは生地を持たずに乗せてもらうことになった。
そうすると、まだマシな光景に。
「楽しいんだぞ!」
「シュライゼン様、お早いですな?」
「じいやこそ」
シュライゼン様とカイザークさんチームは、一度見ただけで覚えたのか。もう包んでもいいくらい手際が良かった。
なので、試しに包むところをもう一度見せてからやってもらうと難なくこなせた。
「じゃあ、あとお願いしますね?」
「任せるんだぞ!」
予想以上の戦力を得た後、最後にシェトラスさん達。
こちらは、シェトラスさん以外餡子を乗せるのに、ふつうに苦戦していた。
『む、難しいでやんす〜』
「がたがたになる……」
「ほら、めげずに頑張ろうじゃないか」
『「はい……」』
とりあえず、私は回りながら包めるものは包んで鉄板に乗せ。
別のテーブルでスタンバイしてくれてるロティのオーブンに入れて入れて。
全部完了してから、
「お疲れ様でした。ひと息つきましょう」
そして、終わった後は一部を残して死屍累々の光景となりました。
「……な、なんで嬢ちゃんそんなにも動いて平気なんだよ」
「つ、疲れた〜〜」
「俺も流石に手が疲れたんだぞ〜」
「ほっほ。皆さん精進ですぞ」
「なんで爺様が一番平気なんだ!」
「体が鈍っているのではないかな。フィーガス?」
「ちっ」
ほんと、一番疲れそうなご年齢のカイザークさんが一番元気でした。
とにかく、皆さんに冷たいハーブティーの常備してるのをグラスに注いで配り。
全員二杯くらい飲んでから、落ち着くことが出来たのだった。
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