63-2.パスタパンと麺パンの実食(シュライゼン視点)
*・*・*(シュライゼン視点)
わくわく、わくわく。
なんなんだぞなんなんだぞ、この美味しそうなパン達は!
両方……いや、片方はマンシェリーが育ったホムラ特有の……たしか、『
それは、話に聞いた通り、一昨日食べさせてもらった黒茶のソースを使っているはずなのに、全体的に茶色一色。
仕上げには、マヨネーズをかけてあるらしい。どんな美味なのか、実に興味深い!
「これは、どの
爺やもすっごく楽しみにしてたからか、積極的にマンシェリーに質問している。
マンシェリーも嬉しいのか、笑顔で答え出した。
「えっと、サンドイッチの一種です。ナイフもフォークも用意してないのは、手で持って食べるからなんですね」
「ほぉ。これを素手で」
「具材が落ちにくいようになってますので。お行儀が悪いかもしれませんが。私や
「なるほど。郷に従えばともいいますしね」
「チャロナ、チャロナ、食べていいかい?」
「はい。食べましょう!」
では、と皆で食事の祈りを簡単に済ませてから食べることに。
どっちを先に食べようか迷ったが。先にまたマンシェリーからの説明が入ることになった。
「赤いのは、パスタをケチャップで味付けしたナポリタンドックと言います。ナポリタンがパスタの名前で、ドックは今回のコッペパンに挟んだサンドイッチの一種です。茶色いのは先程も言いましたように、ホムラの麺を使用した焼きそばパンと言います。炒めると言うよりは、焼いた麺なので」
では、どうぞとも言われたので……俺はせっかくだから茶色のヤキソバパンから食べてみるんだぞ!
(匂いは……この間も嗅いだソースの匂いと同じようで少し違う)
よく見ると、肉や野菜も入っているから少し複雑だけどいい匂いがして堪らない。
これは、せっかくだから大口を開けて食べよう。
昔だったら、爺やに『いけませんぞ』と言われるだろうけど、こう言う食べ方らしいから爺やの方も少し口を大きく開けてナポリタンの方を食べようとしていた。
「ん、ふぉ」
なんなんだい、この不思議な食感は!?
パスタよりも柔らかいのに、噛むとぷちんぷちんと弾けていく。
ソースは少し濃いめだが、その分柔らかくも噛みごたえのあるパンとよく合って。
肉はジューシーだし、キャベツもしんなりとしてるが、少し甘さがあっていい舌休めにもなる。
そこにマヨネーズのまろやかさが加わると、もう止まらない。
一個しかないけど、しっかりと味わいながら食べ進めてたら、あっと言う間になくなってしまったぞ!
「う……うんまいんだぞ、チャロナ! メンは面白い食感だし、初めて食べるのに美味しくて止まらないんだぞ!」
「ありがとうございます」
「ふっふっふ。日本でも西国に位置する地域での名物料理だもの。家庭のもよし、屋台で売ってるのもよし、定番の定番よねぇ〜、これ少し濃いめだけどパンにはちょうどいいし。チーちゃんの前世だと、向こうのお母さんが関西人だったかしら?」
「うん。お母さんはお好み焼きとかたこ焼きが得意だったけど」
「関西人らしいわね」
「「「「「「っ」」」」」」
そうだ、今の
亡くなってしまった事も知らない、現在の生を受けてからの
育ての親だったマザー以外に、自分の母親を覚えているのは、前の世界での母親。
打ち明ける時期がまだなので、俺達の口からは何も言えないのが歯がゆくても。
ここは、堪えて聞き流すしか出来ない。
「そうでしたな。チャロナ嬢の記憶の中には、以前の母君のものが」
「はい。今のお母さんもですが、両親がどのような人なのかはわからないので……」
「……そうですな」
そのきっかけとなったのは、本当はここにいる爺やが事を進めたことでも。
それも、今は言えない。言えないんだ。
俺は思うんだ。孤児院に案内した直後の、マンシェリーのあの時の涙が。
母上の事をいきなり伝えたら、同じかそれ以上になるんじゃないかって。
いくら成人はしてても、まだ幼さが残るこの妹が。
戦争のせいで、実の母親を赤ん坊の頃に目の前で失ったと知れば。下手すると、あの時絶望感に囚われた俺と同じくらいになるんじゃないかって。
だから、今はまだ言えないんだ。父上ともきちんと決めたんだし。
誰も言う気配がないのを確認してから、俺はナポリタンドックの方を手にした。
「んふぉ、こってりしてるんだぞ!」
こちらは馴染み深いはずのケチャップの味付けのはずなのに。
濃いめに味付けてあるケチャップに何故かコクを感じて。
途中苦味のあるピーマン(昔は大嫌いだったんだぞ)で、濃厚さが和らいだりなど。パスタも冷めてることで伸びてるはずが、少しもちもちしてて歯に心地よく。
俺個人としては、ヤキソバよりもこっちのが大好きだ。玉ねぎもシャキシャキだし、ベーコンの脂身も程よく絡んでてやみつきになりそう!
「ふー。爺には少し量がありましたが、どちらも素晴らしかったですぞ」
「お口に合って何よりです」
爺や、ちょびっと嘘ついてる。
爺やは今でもめちゃくちゃ鍛えてるから、普通の成人男性くらい食べるんだぞ。
多分、もっと食べたいのを堪えて誤魔化しているんだぞ。
カイル達も知ってるから微妙な顔をしてるし。
「チャロナ、俺はどっちも美味しかったんだけど。これのどっちかを孤児院の差し入れに考えてるんだっけ?」
「ええ。ピザもいいんですけど、焼いてすぐに食べた方があれは美味しいので、冷めると塩っぱくなるんです。少し別の方法もあるんですが、カレーパンのような感じだと、この二つのどちらかを候補に入れればなと」
「ふむ。たしかにそうなんだぞ! 子供達には、これともう一品で腹はふくれてしまうはず。なら、片方で十分だぞ」
「……それを俺達で決めるのか」
「うむ。カイル達の意見も聞きたい。一度でも多数決しようと思うんだぞ!」
そうして、ヤキソバかナポリタンかを選択制で決めたら。
ナポリタン 7
ヤキソバ 3
になったので。
差し入れはナポリタンに決定したんだぞ。
「ヤキソバも悪くないんだが、甘辛さを考えるとケチャップならマザー達でも作り方をわかれば、彼らだけでも作れるしね!」
「味付けは、ケチャップと塩胡椒以外にバターを入れてるんです」
「「「バターだけで??」」」
思わず、カイルとレクターと同時に聞いてしまったが、マンシェリーは嬉しそうに頷くだけだった。
「最初に具材を炒める時と、ケチャップを絡めた後に隠し味程度に入れるんです。そうすると、少しコクが出るので」
「ふむふむ。あまり多くない方がいいのかい?」
「そうですね。一人分なら、ほんの一欠片ですが」
なら、父上にもナポリタンだけは作ってやれそうなんだぞ。
どうも、今日のパーティーには不向きのメニューだから入れてくれないようだしね。
肝心のパンの方は、城で普段食べてるのだとナポリタンの方が勝ってしまうから却下だ。
「あともう一品だが……これだけ濃い味付けのに、合わせるパン……うーん、どうしようか」
カレーパンの希望は多かったが、水をたくさん飲んでしまいそうだから少し心配だ。主にトイレの関係で。
すると、マンシェリーが突然手を叩き出した。
「少し趣向を変えた、ピザに見立てたパンなら作れます!」
「あら、チーちゃん。ピザパンだけど、具材を変えるとか?」
「うん。ハーブの収穫期だし、ジェノベーゼでいこうかなって」
「「「「「「ジェノベーゼ??」」」」」
またもや、異世界の知識だろうが。
二人の顔の輝きから、またとんでもない美味が出てくるんじゃないかって期待が高まるんだぞ!
「ハーブのバジルをソースにさせた料理の事を言うんですが。見た目は少しびっくりしますけど、味の保証はします!」
「チャロナ〜、それってすぐに出来るのかい?」
「いえ、ちょっとソース作りだけで一時間以上かかるので……今晩のパーティーにはちょっと」
「おおう(*´Д`* )おうふ」
それは非常に残念なんだぞ。
「けど、イタリアンっぽいメニューになるわね。今度の差し入れ会」
「なんだ、それは?」
「ピザ発祥の国と言われてる、国名をもじった料理の総称だ。トマトやチーズが主流だけど、バジルもめちゃくちゃ使うからな?」
マックスは、とりあえずカイルと向き合う時だけは男言葉なんだぞ。
まあ、俺はどっちでも慣れたしマックスはマックスなんだぞ。隣に座ってるエイマーの前でも、きっと男言葉だろうが、それはそれだ。
カイルは純粋に、マックスのオカマ言葉が嫌なだけだし……なんでだっけか?
単純になよっとしてるのが嫌で……ああ、そんな感じで言い寄ってくる淑女達が嫌いなんだった。
マンシェリーは、相変わらずカイルの隣に座ってても少しにこにこしてるだけだし。
想い合ってるのに、お互い恋愛に関しては控えめな性格だから、見てて歯がゆいんだぞ。
これは一度、マンシェリーに聞くべきか。
その前に、どっちもの事情を知ってるマックスに聞くべきか。その方がいいかもしれない。
(あーあ、もうなくなっちゃった)
少し物足りないが、夜はいっぱい食べるし、俺も手伝おうと思ってるから頑張るんだぞ!
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