58-1.メンチカツサンド、実食(サイラ/エスメラルダ視点)
*・*・*(サイラ視点)
「……いいかい、サイラ。今日の弁当はいつもとはまた違う」
「うっす!」
昨日から
だけど、だけど昨夜のメインはやばかった。
なにせ、旦那様もこの前のグラタンスープ以上に本気で参戦してきて、見事お代わりを獲得したくらいに。
「あの子の事だから、余裕なくらい用意はしてるはずだ。だもんで、その
チャロナは王女様でも、本人がそれを今は知らされていないし本人も知らないから表面上はただの新人扱い。
けど、知らなかったのって、多分俺だけだったらしいから少し恥ずかしかった。
いやだって、亡くなられた王妃様の姿絵見たのも随分前だし、兄上様らしいシュラ様が来るのも、チャロナがやってくるまでは回数減ってたし。
まあ、言い訳はここまでで。
俺は、厩舎の下っ端としてエスメラルダさんに重要な任務を言い渡されたんだ。
絶対遂行しねえとな!
「うっす! 戦ってきます!」
「その意気だ、行け!」
『行って来い、サイラ!』
「いってきやす!」
途中までは誰ともすれ違わなかったけど、使用人棟の廊下あたりに差し掛かると俺の横に誰かが並んできた。
「へへーん。負っけねぇぞ、サイラ!」
「ピデット!」
「俺も負けんわ!」
「げ、シャミー!」
いつのまにか、両側に挟まれてしまい、並んで走ってる状態。
ピデットは庭師、シャミーは
けど、どっちも俺とタメで休日にはよくつるんで出かけたりする連中だ。
が、今はそんな場合じゃねー!
「全員に行き渡るようにされてっだろ!?」
「けど、あの子はいっつも多めに作ってくれてる!」
「おこぼれを狙わん奴はおらん!」
やっぱこいつらも狙ってたか……。
ぎゃーぎゃーうるさいながらも、目的は同じだからまだやって来る他の部署の連中も駆け出してきて。
厨房の裏口に、先頭だった俺ら三人がほぼ同時に到着すると、タイミングよくエイ姉が出てきた。
「……まったく。弁当は逃げないんだ、全員そんな調子だと帰りにつまずくぞ?」
「「「だって!」」」
あの美味過ぎる揚げ物はマジでヤバかった!
見た目はコロッケよりも大きいだけなのに、中はハンバーグみてぇな肉がぎっしり詰まってて。
ケチャップをかけると、また更に美味くって。
二個じゃ全然足りなかった。
だから、昨夜は全員な勢いで、弁当にリクエストしたわけ。
「…………はあ。メンチカツの魅力はわかるが、チャロナくんの事も考えてやってくれ。まだ風邪が治りたてなんだからな?」
『うっ……』
たしかに。
見舞いに行った時は、咳とかはなくっても熱で結構辛そうだった。
本人は大丈夫だとは言ってたけど、夏の風邪も甘くみてはいけない。下手すると、死んじまう大病だから。
けど、無事に治って、仕事に復帰してくれて、しかも新しいメニューを出してくれた事で俺達は舞い上がってしまってたのだ。
あの子……いや、
俺以外の全員は最初から気づいてたのか、姫様だってわかってたし。
今エイ姉が注意してくれたことで、全員も勢いを引っ込めて、大人しく順番に並び出した。
「お待たせしました。メンチカツサンド…………なんで、皆さん落ち込んでるんですか?」
『でふ?』
「ああ、気にしないでくれ。チャロナくん」
「?」
今日の弁当を持って来てくれた
一番前に並んでた俺を見ると、ちょこんと首を傾げるだけだった。
「? 皆さん調子悪いんですか?」
「いいや。今少し注意しただけだよ。昨夜以上に争奪戦になるとこだったから、ちょっとね?」
「あ、あはは……」
『かちゅ、美味ちーでふ!』
そうして受け取りの時間になると、いつもよりは大きい弁当箱に少しびっくりして。
「これ、いつもよりでかくね?」
「ちょっと違うサンドイッチだから、箱を大きくしたの」
「「「ちょっと違う??」」」
後ろにいたピデットとかも当然驚いてたんで、こっちを覗き込んできた。
「うん。普通のサンドイッチもいいけど、そうすると肉汁が溢れて来ちゃうから……大きめのメンチカツを一個丸ごと丸いパンに挟んであるの。どんなのかは、開けてからのお楽しみ」
「うほぉ〜、おおきに、チャロナちゃん!」
「俺も楽しみにしてる!」
「はいはい。次の順番もあるんだから行った行った」
「「「うっす!」」」
たしかに、あとがつっかえてるのでさっさと人数分もらってから退散して。
ピデット達とも途中で別れてかつ急いで厩舎に戻り。
さあ、昼飯!と全員に弁当が配られて開けてみれば!
「うっわ、でっか!」
丸いパンに一個って言ってたから、てっきり朝のパンみたいな小さいのかと思ってたら。
マジで俺の顔より少し小さいくらいの丸いパン。
しかも、一個でデカイサンドイッチにさせてあるそれには、チャロナの言った通りでかいメンチカツに細く切ったキャベツ、あとピンクのソースが挟んであった。
「ほー? こりゃ面白いサンドイッチだね。サイラ、なんか聞いているのかい?」
「いや……開けてからのお楽しみってだけ」
「たしかに驚かされたねぇ。んじゃ、いただこうじゃないか?」
他にも、パーティーの時に食べた揚げたジャガイモとか小さなトマトとか色々あったけど。
全員で、迷わずメンチカツのサンドイッチを口にした。
『うっめ〜〜〜〜!』
そして、ひと口食べた直後、厩舎中に響き渡るくらいでかい声を出してしまったのだった。
*・*・*(エスメラルダ視点)
美味い。
美味過ぎる。
なんなんだい、このメンチカツは。
でかい以外にも、昨日の晩飯とは違うピンクのソースがとにかく絶品だった。
昨夜はケチャップだけだったのに、今日のは酸っぱいながらもまろやかで食べやすくって。
特にこれを、細切りにしたキャベツと食えば、いつまでも食べ続けたくなる衝動に駆られる。
一個丸ごと挟んであるので、肉汁が逃げる事はないがデカイパンも食べ応えがあって。
付け合わせの、この前も食べた揚げたジャガイモも美味いが、とにかくこのサンドイッチが美味くて美味くて。
全員、一個ペロリと食べちまったよ。
「あ〜〜、俺これ毎日でも食いたいっす!」
「「「同感!」」」
「ちと重たいが、あたいらの仕事量を思えば一個じゃ足りないねぇ?」
『(●゚ェ゚))コクコク』
あの姫様の持ってる知識は、まだまだ底が計り知れない。
この揚げ物だけでも、まだまだありそうだ。
とりあえず、あたいがサイラの代わりに明日の弁当について提案をしに行くと。
姫様達が面白い会話をしているのが聞こえてきた。
「醤油があれば、メンチカツ以外にももっと活用出来るんですよね……」
「ショーユ?か。私も聞いた事がないなあ」
ちと、懐かしい言葉にあたいは厨房の小部屋に顔を出す事にした。
「醤油なら、あたいの故郷の調味料じゃないか?」
「え、エスメラルダさん!」
「先輩、それは本当ですか?」
「ああ。正確にはあたいの故郷のクスティに隣接してる、ホムラの港街の特産品でねぇ? 同じホムラでも、チャロナが知らないとなればあんたは都に近い孤児院で育ったんだろう?」
「は、はい。その通りです!」
ちょっと疑問に思う事はあったが、この方が知らないとなれば地域が違ったのだろう。
けど、醤油があればもっとメンチカツが美味くなるのが少しわからない。
あれは、結構塩辛くて魚の揚げ物に向いてるだけなのに。
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