57-1.三色ジャムパン






 *・*・*









 次の日もしっかり休んで、風邪は完治!


 ロティも元気になったので!



「おはようございます!」


『はにょーございましゅでふぅううう!』



 仕事にも無事に復帰です!



「「おはよう、二人とも」」



 シェトラスさん達にも笑顔で挨拶されたので、まずは午前中のバターロールと食パンの仕込みから。


 午後に出す予定の、おやつのパンは既に考えてあるので。それまでは、ロティと無茶をせず、けど一心不乱に仕込みをしていく!


 食堂が開くと、一番乗りに来たカイルキア様からもほっとされたのか、私の頭をぽんぽんと撫でてくださった。



「また何か不調があればすぐに言うんだ」


「は、はい!」



 そんな感じでスタートした一日は少しドキドキしたけど、先輩方の配膳が始まってからはばたばただった。


 一人一人、治ってよかった!とお言葉をいただき、同時に出したバターロールに『来たー!』と歓喜の声を上げては男女問わず小躍り。


 落ち着いてからはお昼の準備、そして、おやつに出す予定のパンのある仕込みをしていく。



「ストロベリー、ラズベリー、ブルーベリー」


『でゅふ、ジャムパンでふ!』


「三色あんぱんならぬ、ジャムパンだけど」


『絶対じぇーったい、おいちーでふぅう!』


「頑張ろうね?」



 そう、作るのはジャムパン。


 けど、夏には色んなベリーが収穫されるから、せっかくなので三色あんぱんならぬ三色ジャムパンを作ろうとしている。


 作り方は、そこまで難しくないしね?



「さんしょく……? 中身が違うものが食べられると言うことかい?」


「そうですね。見た目は結構大きいんですが、ちぎった箇所によって具材が違うんです」


「それは面白い。私達もご相伴に預かるからもちろん手伝うよ」


「お願いします!」



 と言っても、少し甘めのジャムにコーンスターチでとろみを加えたのを先に作って、冷却コールドで粗熱をとっておくだけなんだけど。


 生地は、この間の苺あんぱんと同じ菓子生地で大丈夫なのでそれを仕込んで。


 分割、成形手前まで来たら、生地を一旦冷やしておく間に。


 銀製器具シルバーアイテムから、ある道具を取り出します!



「このちっちゃなケーキ型に、油を塗ります」



 見た目、黒のメッキみたいなのでコーティングされてる15cmサイズのケーキ型。


 これをあるだけたくさん取り出して、食パン型と同じように油を塗っておく。


 結構な数があるので、途中から参加してくれたレイ君も一緒に塗り塗り。



「ジャムはしっかり冷えてから、あんぱんの要領で包んでいきます」



 ただし、市販されてたジャムと違い、漏れ出ないように気をつけなくちゃいけない。一応、コーンスターチのでんぷん質でとろみをつけても、熱で溶け出しやすいから、ここはしっかりと。


 だから、包むのは全部私が担当する。


 伸ばす作業は、なんとか他の皆さんも様になってきたので、練習も兼ねてどんどん伸ばしてもらう。



「適量アンベラですくって、生地に乗せて……包んで。種類別のバットに分けて」



 伸ばしては包んで……をひたすら繰り返していけば、1時間後にはなんとか終わりが見えて。


 途中、生地がダレないようにバットに乗ったらロティのホイロ……冷蔵の方に入れて固めておく。


 これが三種類出来たら、型に詰めていく作業に移ります。



「ブルーベリーには、少し凹みを入れて。ラズベリーには仕上げの時にケシの実を乗せるから。いちごはこの間使ったのと同じ、ドライフルーツをカットしたのを乗せましょう」



 見分けがつくように、乗せたりするものを準備したりしてから順番に型に敷き詰めて。


 ロティにはオーブンに変換チェンジしてもらってから、天板に乗れるだけ型を乗せて中に入れ込み。


 発酵が完了するまではお片づけだけど、ほとんどすることがなく。


 パン作りも結構な時間がかかったので、全員でお茶休憩に。



「三種類も違う味のパンとは、実に贅沢だね。ひとつであれだけ大きいし」


「一個一個は小さいんですが、焼くと結構膨らみますしね?」


『お茶に合いそうでやんすねー』


「実に楽しみだよ」



 ロティだけ会話に参加出来ないのは残念だけど、今は大事な仕事を頑張ってもらってるから、あとで一番に味見してもらわなきゃ。



「あ、あと四日後に先生達のお祝いだそうですが。……この間のようなメニューじゃない方がいいでしょうか?」



 悠花ゆうかさんはお貴族様はお貴族様でも、彼?彼女?らしいモノがいいだろうとピザにしたんだけど。


 同じお祝いの席でも、おそらく今度は大旦那様のデュファン様達もいらっしゃるだろうし、ジャンクフードじゃいけないと思う。



「そうだな。完璧な程でなくとも、あの方はドレスの正装でいらっしゃるだろうし。汚れやすい物は避けた方がいい」


「ピザでもピザトーストでも同じだろうね。アイリーン様は気にされないだろうが……せめて、つまみやすいサイドメニューで工夫しようか?」


「はい!」



 いつもは高級料理を召し上がっていらっしゃるだろうけど、私が前世で作ってきた……このお屋敷にきてから作ったものでも大丈夫とシェトラスさんが言ってくれたので、色々作ってみようと決めた。



「唐揚げ、フライドポテト、ひと口メンチカツにコロッケ……お野菜にはディップとか」


『……メンチカツ?』


「それはなんなんだい?」


「揚げ物なんですが……例えるなら、ハンバーグに衣をつけてあげたものです」


「「ほう」」


『う、美味そうでやんす!』



 あ、これはもう先に試食したいコース決定かな?


 夕飯のメニューはまだ決まっていないので、メインをメンチカツにするのは決定になりました。





 ちーっちっち、ちーっちっち





 そして、タイミングよくアラームの音がこっちにも響き渡り。


 では、ドリュールとかを塗る作業に移ろうと戻ったら。



「うひゃー。こりぇ、なーに?」


「あ、あれ。サリーちゃん?」


「おねーしゃん!」



 どこから入ってきたかはわからないけど、二日連続でメイミーさんの娘さんことサリーちゃんが厨房に立ってて。


 しかも、ロティの変換チェンジしてるオーブンを下から見上げていたのだった。



「ど、どうやって入ってきたの?」


「う? ドア空いてちゃ」


「あー……」



 見られちゃったけど、まだ機能とかを見られていないから、大丈夫なはず。


 とりあえず、後からやってきたエイマーさん達もちょっと苦笑いして、エイマーさんがサリーちゃんを抱っこした。



「皆のおやつを作ってるんだ。サリーも食べたいだろう? いい子にしていないともらえないよ?」


「にゅ、おやちゅ!」


「うん。お母さんの言いつけを守っていないと、ひょっとしたら食べられないかもしれないぞ?」


「! やー!」



 お見事。


 子供の扱いに慣れているのか、むやみに叱るのではなく優しく諭す事でサリーちゃんの興味をおやつに集中させました。


 それから、エイマーさんがメイドさん達の控室まで届けにいくと言い、ドリュールなどの仕上げは残りのメンバーでやる事に。



「全体的にドリュール塗ったら、ケシの実を麺棒の片側につけて、軽く押すように貼り付けば全部ひっつきます」


『俺っちがするでやんす』


「うん、お願い」



 手分けして取り掛かったら、ロティのオーブンに入れて焼き、焼き上がったらこれは全部取り出して自然に粗熱を取る。


 あまり冷却コールドをかけ過ぎると、せっかくのパンもパサつきやすくなっちゃうから。


 その間に、ロティにはお茶をたっぷり飲んでもらいながら休んで。私達は片付けの方へ。


 粗熱が取れたら、アンベラで型の側面を剥がすようにぐるりと一周すれば。



「取れた!」


『「おお!」』


『出来ちゃでふぅ!』



 見た目は、ちょっとしたケーキにも見える三色ジャムパンの出来上がりだ。


 冷めてるし、ジャムの風味も損なわれていないはずだろうと、ロティにどの部分から食べたいか聞いてからちぎってあげる。


 ロティの希望は、ブルーベリーだった。

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