54-1.ほぼ回復①






 *・*・*








 嵐のような昨夜ではあったけれど!



「熱なし!」


『おねちゅなし!』


「寒気なし!」


『ちゃむいのなしでふ!』


「元気回復!」


『でふぅうう!』



 皆さんの看病のおかげもあり、夏風邪がほぼ完治したのだった!


 と言っても、病み上がり1日目なので、まだまだお仕事はお休みだけども。



「ご飯は食堂で食べていいって許可もらえたし。行こ?」


『行くでふううう!』



 メイミーさんにいくつか譲っていただいた普段着の一つに着替えて、ロティを抱っこしてからゆっくりと向かう。


 魔法陣を使わずにゆっくり行ったけれど。


 まだまだ使用人の先輩方が多く出入りする時間だったので。


 顔を出したら、何故か全員目が点になったような表情に。



「「「「「ちゃ、チャロナちゃああああん!」」」」」


「うぇ!?」


『でふぅうう!』



 いきなりの大声と、何故か大半の人の号泣姿にびっくりしてロティをぎゅっと抱きしめてしまったが。


 ロティも気にならないくらいに、びっくりしちゃったみたい。


 先輩方は私達に抱きつきはしなかったが、それはもう感涙したかのような表情で迫ってきたので、びっくり以上に気迫に押されそうになった。



「やっと治ったんだね!?」


「夏風邪引いたって聞いた時はびっくりしたけど」


「君のパンが食パン以外食べれないの、辛かった!」


「いつ復帰出来るの!?」



 などなどなど。


 主にパンの事ばかりだったけど、すっごく心配してくれてたみたい。


 お兄さんやおじさんはなかったけど、お姉さん方にはロティと一緒に頭をなでなでしてもらっちゃった。



「メイド長から、もうだいぶ良いとは聞いていたけれど」


「元気になって良かったわー。お姉さん達、あなたのパンをずっと待ってたの!」


「最近おやつに増えたあのパン達が恋しいの!」


「おやつ……ですか?」


「「「ええ!」」」



 どうやら、食事もだけどおやつに出してたパンが全員食べたがってたみたい。


 それは申し訳ないなぁと思ってたけれど、体が第一!と釘を刺すように言われたから謝罪の言葉は飲み込んだ。



「まだ明日も休みですが、おやつに出せそうなパンは考えておきますね?」


「「「「「「お願いします!!!!」」」」」」



 全員息ぴったりに言い切るからまた驚いちゃったけれど、『頑張ります』と笑顔で私も言い切ってから朝ごはんをもらいに行く。


 すると、エピアちゃんにサイラ君が駆け寄ってきた。



「も……もう大丈夫ってほんと?」


「顔色悪くないし、大丈夫みてえじゃね?」



 何回かお見舞いに来てくれた二人にも、もちろん笑顔を向けた。



「もうほとんど大丈夫だよ。体がなまっちゃいそうだけど、レクター先生が明日まではお休みだって」


「うん、妥当」


「風邪は甘くみねえ方がいいもんな! 出掛ける日はまたいつでもいいんだし、もっと元気な時に行こうぜ?」


「うん!」


『でっふう!』



 ただ、二人ともちょうど食べ終えた後だったようで、ご飯はロティと二人で食べる事に。


 ロティも元気になってきたので、私達のテーブルの近くで食べてる先輩方からはほわほわした笑顔をいただいちゃった。


 ロティは元気で可愛いのが一番だもんね。



「チャロナくん。気分がいいなら軽く散歩にでも行くといいよ。メイミーには言っておくから」


「いいんですか?」


「体がなまってるって話が聞こえたからね。1時間も歩いていなければ、きっと大丈夫さ。部屋でずっとレシピの勉強をしてても退屈だろう?」


「あ、あはは……」



 トレーを返しに行く時にそう言われてしまうと、乾いた笑いしか出てこなかった。



(実は、結構退屈だったり……)



 ロティはずっと眠りっぱなしだったけど、私の方は早い段階で落ち着いたから。


 ずっと読書しっぱなしだと、なんだか逆に疲れてきちゃって。


 エイマーさんにはどうやら話が聞こえちゃったみたいで、なんだか気を遣わせてしまったが。笑顔で言っておいでと言われたから甘えておこう。


 ロティも少しは飛びたいと、肩の上で浮かんでもらい、あちこちを散策することにした。


 この間のパーティーの日は、使用人棟くらいしか言ってないので、他を回ってみよう。



「どこ行こっか〜?」


『ぶらぶらダメでふ?』


「ダメじゃないよ? あ、タイマーって使える?」


『でふ?』


「1時間以上歩いてたら怒られるでしょ?」


『でっふ!』



 なので、ロティの中でタイマーを作動させることにして、とりあえず1時間のんびりと歩く事にした。


 そして、なんとなくこの前カイザークさんと話した裏庭を歩いてみようという事になったんだけど。




 シュッ シュッ!




 あと少しで裏庭に突入となった時に、素振りの音が聞こえてきた。



(まさか……!)



 ちょっと……ちょーっとだけ淡い期待を持ちながら角から覗き込むと。


 スミレ色の髪が目に飛び込んできて、当然ドキッとしてしまう。



「か、カイルキア様だぁ……!」


『でふ。おにーしゃんでふぅ!』


「しー!」


『でふ?』




 思わず小声になっちゃうけど、今日も素敵過ぎる!


 愛刀、と言うのか。


 この前悠花ゆうかさんと稽古をしてた時と同じ剣を一心不乱に素振りしてて。


 髪は少し汗で湿って。


 悠花さんとは違い過ぎる細身ながらも、思わず抱きつきたくなるような筋肉達が、使われるたびに素敵に動いて。


 真剣な表情には、思わずポーッとなっちゃうくらいときめいてしまって。


 ああ、これまた熱がぶり返してきそうになっちゃうけれど、いつまでも見てちゃダメだ。


 せっかくの訓練なんだから、邪魔になっちゃいけない。


 と思ってたんだけど。



「…………そこにいるのは……っと、チャロナにロティか」


『おはにょーございますでふぅ!』


「お、おはよう……ございます」


「ああ、おはよう」



 気配にはさといようなので、すぐにバレてしまい。


 ロティは元気に挨拶をしていたが、私は少し乾いた笑いを交えながらのだった。


 けど、カイルキア様は気にされずに剣を腰のベルトにつけてた鞘にしまい込んで、こっちに来ました。



「出歩いていて、もう平気か?」


「は、はい! 体調もほとんど良くて、エイマーさんにも散歩に出たらどうかと言われまして」


「そうか。それは良かった」



 あ、まただ。


 昨日の時みたく、安心しきった時の表情になってくれる。


 その心情が、ただの使用人を思いやるのかそれ以外か。


 わからなくなるので、どうしても胸がざわついてしまう。


 けど、私は臆病だから前者の方だと思ってしまうのだ。


 そして、話題を無理やり作ろうとする。



「しょ、食堂に行ったら、皆さんにもご心配をおかけしてたようで。早くパンが食べたいとも言われちゃいました」


「そう、だな。お前のパンは病みつきになってしまうから、皆も食べれなくて辛いはずだ」


「か、カイル様も?」


「ああ。今日までお前の食パンは食べていたが、お前がいないと味気なく感じた」


「そ、そうですか」



 ああ、この言葉にも期待しちゃう。


 でも、過大に期待しちゃダメ。


 あくまでも、『私が作るパン』についてなんだから。



『でふ。ご主人様のパンは美味ちーんでふ!』



 ちょっと空気になりかけてたロティが、えっへんと言いたいばかりに腰に手を当てて。


 私の事を一生懸命褒めてくれた。


 可愛かったので、頭を撫でてあげた。


 すると、カイルキア様も、何故かぷっと吹き出した!



「そう、だな。チャロナとお前が作るパンは美味い。世界一と言っても過言ではないな」


「そ、そんな!」


『しょのとーりでふ!』


「ロティ!」


「だが、お前達の異能ギフトはお前達しか所持していない。ならば、世界一とも言えよう」


「あ、ありがとうございます」


『でふ!』



 なんだか誉め殺しされた気分になっちゃったけど、その通りかもしれないと受け入れそうになる。


 たしかに、『幸福の錬金術ハッピークッキング』は、私しか所持していないから。



「1日でも早く、と言いたいところだが。あまり無理はするな。散歩も適度に済ませてから戻るように」


「あ、はい。ロティの中にタイマー……えっと、時間を決めてアラームがなる技能スキルを動かしてあるので、それが鳴ったら戻ります」


「そうか。では、引き止めて悪かったな」


「い、いいえ! この間カイザークさんとお話した辺りとかをぶらぶらしようかと思ってたので」


「カイザーク卿か……そうか。この辺りで」


「実は、使者の代表さんが、シュライゼン様のお父様だと気付いて……」


「! そう、か。まあ、変装しててもわかりやすかったが」



 色々話す事になるだろうと、カイルキア様とちょうどその時のベンチに座る事になり。


 ロティを膝に乗せてから、あの時の事をかいつまんで話しました。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る