49-3.誓い(カイルキア視点)
*・*・*(カイルキア視点)
夜半より少し前。
俺は寝る前に、一度様子を見に来ただけだったのだが。
「……むにゃ。かいりゅきあしゃまぁ」
枕元に寝かせている
別に、鍛えていない女性の手を振りほどくのは然程難しくはないが。
……少なからず、想っている女性となれば話は別。
ならば、すぐに離す必要はないなと、ロティを潰さないように枕元の近くに腰かけた。
さながら、構図だけなら家族で並んで寝てるように見える。
(姫が見つかるまでは、このような温かな風景も避けてたんだが)
幼き頃から抱いてた使命感が報われてからは、こんな温かな気持ちになれるとは思わないでいた。
ひと月前の雨の日に、任期を終えてだがやっと念願だった姫を見つけ。
療養させてから本来は、王城へと帰還させるべきだったが。
目醒めた
シュラにも事前に伝え、自分の目で確かめてもらってその事についてはわかってくれたようだ。
俺達の前で、毅然とした態度で受け答えは出来ても、王族として育ってない彼女は表情の変化を相手に悟られやすい。
王族としての教育を受けていないがゆえに、強固派と渡りあえるような技量を持っているわけではない。
いくら、前世と今世で育った精神年齢は俺達よりは上でも。
ふとした時に気が緩んでしまい、気力を保ってはいられない状況にもなる。それは、リュシアの孤児院に訪れた時のように。
だからこそ、彼女の心の安定のために、今はまだ俺の使用人として扱わなければいけない。
が、満足に休養も出来ずに体調を崩させた事については、俺の采配も不十分だったのだが。
マックスが言うには、二人の前世の世界では、休みを押してまで相手のために動こうとする傾向が強いらしい。
姫の場合は、今回は友人になれたエピアとその恋人となったサイラを祝うためだったようだが。予想外に、マックスとエイマーもうまくいったので、祝う人数が増えて仕事も増えて。
そして、昨日の昼間の授賞式だ。
前日に休ませてやりたかったが、付け焼き刃な礼儀作法の特訓もあったためにこれ無理で。
立て続けにいろんな事があり過ぎた結果だ。
が、姫自身は充実とした日々を過ごせているようで満足気ではいるらしいが。
「……もう少し、自分の体を大事にしてほしいものだが」
真面目で勤勉で。仕事も出来て、
が、俺を含めて屋敷の皆にその美味い料理……特にパンを喜んで食べてもらいたいと日夜励んでくれているが。
多少マシにはなったが、まだまだ技術が遠く及ばないシェトラス達では無理だと。そのせいで疲れを溜め込んでしまい、今回のようになった。
空いてる手で髪をまた撫でてやると、緩み切った笑顔を見せてくれて心が少しずつ温かくなっていく気がした。
「今度は米だが、まさかマックスが成功させるとは……」
夕飯時に、試しに食えと、無理やり食わされた米の粥のようなものを出されたが。
パンとは違う柔らかくもつぶつぶとした優しい食感。
伸びるチーズ。
程よいコンソメの風味と塩気。
まさか、冒険者時代以降であれの料理を再び口にするとは思わないでいたが。どうも、すべて姫と話していくうちに前世の記憶をいくつか思い出したのがきっかけだったようだ。
姫の方も、米をさらに美味く食べられる
が、美味い飯が食べれても、それだけでよくない。
今日一日で思ったが。
朝からずっと、ちょこちょこ動くあの健気で愛らしい姿がないとなると。
出来立てではないとは言え、温めてもらった彼女手製の食パンを食べても味気ない気がしたのだ。
確実に美味いとはわかっていても、あの温かな笑みが見えないだけでこうも気落ちするとは。
昼間に寝ぼけて抱きついてきた時は、咄嗟に手が動いてしまい……思わず抱きしめてしまった。
それだけで、心がいくらか満たされてしまうとは思わず。
マックスに盛大にからかわれたが、今の状況も悪くない。
むしろ……。
「義務感以上に……俺はこの方に惚れてしまったのか」
アクシア様のお若い頃に瓜二つ以上に。
ただの一人の女性として、惹かれてる自覚は少しずつ持てるようになってきた。
そして、どうやらそれは姫も同じようで。
ただ、彼女自身は本来の身分を未だに知らないので諦めてる傾向があったようだが。
病になっている時は、正気がある以外は子供のように甘えたがりで。それが俺に向けてでなら、もう俺も迷わない。
この部屋にあてがったのは、一番使い心地が良さげだからとあの時はレクターに言っただけだが。
今は、違う。
将来的に、彼女を受け入れるために、ここに住んでもらいたい。
そう、素直に思えるくらい、俺は自分の気持ちにはっきりと自覚を持てた。
「……貴女に皆が告げてから、きちんと言わせてほしい。今はまだ俺も貴女も時間が必要だ」
ロティには少し申し訳ないが、体を乗り越えて、姫の髪に少しばかり口づけを贈った。
『ぼくが、ひめのいちばんになります!』
候補だった時に、アクシア様の前で宣言した誓い。
あれを、本格的に動くためにもと、俺は姫にもう一度口づけを贈ってからゆっくりと手をほどいたのだった。
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