23-1.別れと罰






 *・*・*







 悠花ゆうかさんと、可能な範囲でシュライゼン様をぼっこぼこ?にして。


 彼女?(いまだにどっち呼べばいいか聞いてない)と手を取り合って、お屋敷に帰る事になり。


 今回は、シュライゼン様の提案だから報告にも彼が必要なんですが。


 その運び方がもう雑過ぎて……。



「ほどいて欲しいんだぞ、マックスぅ〜」


「だーまらっしゃい! あたしの気持ち知っててエイマーにけしかけたんだから、これでもまだ許しがたいわ!」


「え〜、俺じゃなくて父上なのに……」


「あんたの親父さんにも、当然怒ってるわよ!」



 今どう言う状態かと言うと。


 シュライゼン様は、以前カイルキア様にやられたように、悠花さんと私の手によって縄でぐるぐる巻き。そこから、少し大きめのサイズになった虎さんレイ君の背中に乗せられてます。


 だから、ちょっとした罪人に見えちゃうのが可哀想。



(でも、悠花さんの事を思っちゃうと仕方ないよね?)



 幼馴染みの恋愛事情を知ってて、エイマーさんにお見合いを進めちゃうんだもん。そりゃ、悠花さんが怒って当然。


 シュライゼン様のお父様も、もし知ってたら……身分差関係なく、私も怒りそうだ。


 だって、まったくの赤の他人じゃないならなんでって!



「とりあえず、カイルんとこに報告行くまでそのままよ。レイ、先行ってて」


『ほんとにいいんでやんすか?』


「行きな」


『……あい。シュラ様すんませーん!』


「のおおおおおおおおおおお!?」



 てっきり、簀巻き状態のまま馬車に乗り込むかと思いきや。


 レイ君、ほんとに指示通りに器用に落とさないまま、シュライゼン様を背負ってダッシュしてしまった!



「い、いいの? いくら幼馴染みでもあれでいいの!?」


「あんなの、あたしがレイと契約してからしょっちゅうよ。親父さんに似て、シュラもシュラでいたずら好きだしね?」


「い、いいんだ……」



 常習犯なら、仕方ない?


 それに、これでも軽めって事は……想像しないでおこう。


 それよりも、まだお別れの挨拶が残ってた。



「お兄ちゃん、また会おうね!」


「ああ。店に通えとは言わないが、いつでも頼って来い」


「うん!」



 千里前世の記憶が戻らなかったら、無理にお兄ちゃんの側にいたかっただろう。


 けど、今の私は違う。


 流れに身を任せてただけのチャロナ自分じゃない。


 拾ってもらってからの、第二の人生でもちゃんと仕事を任されてる人間だ。


 自分勝手な思いで、離れてはいけない。多分、前世の就職についての考え方もあるけど。あそこは、居心地が良過ぎるから。



「お兄ちゃん達も、来る機会あったら言ってね? パンとかお菓子ならいっぱい作るから」


「ああ、わかった」



 そうして、私は自分の幼馴染みと別れ。


 ちょっぴり、シュライゼン様を心配しながらも馬車に乗り込んで、お屋敷に帰りました。


 最初はロティを抱っこしたまま悠花さんと話をしてたけど……初めて大勢の前で教室を開いたからか緊張が解けてしまったみたいで。


 少しだけ、リンお兄ちゃんの膝枕で寝てたのに、まだまだ眠いみたい。


 悠花さんが寝なよと言ってくれたので、お言葉に甘えて横になった。


 ロティも一緒に寝たいと言ってくれたので、辛くない姿勢で抱っこしたまま寝る事にした。









 *・*・*(シュライゼン視点)







 全く……俺、と言うより父上何がしたいんだぞ!



『飛ばすようには言われてないでやんすから、落とさんようにするでやんす』


「ありがとうなんだぞ!」



 安全走行してくれるのはありがたい。


 当然落とさないようにしてくれるのがこの精霊なんだが。


 俺も少し冷静になって、エイマーの件について考えたかったのだ。



(たしかに、俺や父上はエイマーも、マックスの気持ちは知っているのに……)



 あのバカ父上、いいからいいからと言いながら叔父上経由で知らせたとは小耳に挟んだんだが。


 マックスの耳にまで届いていると言う事は、カイルかエイマー本人か?


 けど、我が妹まで知ってたと言うことは……エイマーが彼女に話したのだろう。


 それともう一つ、マックスの態度だ。


 俺を身代わりに痛めつけるのにしたって、この程度。いつもなら、レイバルスの保有魔力で『雷帝』を俺に落としてもいいくらいなのに。


 チャロナの前だからと、加減したにしては不自然。


 つまり、エイマーの気持ちも知ったに違いない。



『考え中のとこすまないでやんすが』



 風が少し緩やかになったところで、頃合いを見計らってたのかレイバルスが声をかけてきた。



『マスターは、あれでもカンカンに怒ってるでやんす。一応は、自分の持ち店とチャロナはんの前なんでこれくらいでやんすよ』


「うん、すまない。が、提案者はうちのバカ父上だ。あれは、何か企んでるんだぞ」


『と言うと……わざと、うちのマスターを煽らせて?』


「その可能性がある。少し急いで構わない。カイルにも確認を取るんだぞ」


『あいー』



 そうして、思考を巡らせるのは中断してカイルの屋敷まで駆けてもらい。


 身動き出来ないまま、壁抜けを繰り返して彼のいる場所まで運んでもらった。


 時間的に、少し気晴らしをしてたのか中庭で鍛錬をしてたんだぞ。



「ただいまなんだぞ!」


「…………何をしたんだ、今度は?」



 素振りをやめてこちらに来てくれて、カイルじゃなきゃほどけない縄の結び目を外してもらった。


 数時間ぶりの解放とは言え、体のあちこちが少し痛かった。



「一つ、うちのバカ父上が発端。二つ、君の父上、つまりは叔父上が関わってるんだぞ」


「それに加えて、マックスが怒る……と言うことは、エイマーのか?」


「そうなんだぞ。マン……チャロナも知ってたが、例の見合いの件だ」



 危うく、チャロナの本名を口にしそうになって言い直す。


 正体に気づいている人間が多くとも、不用意にマンシェリーの名は口にしない方がいい。


 本人達も、あの馬車を使ってるからいつ帰ってきてもおかしくないからだ。



「あれは、俺も父上からエイマーに話しておけといわれたからな? マックスの気持ちも、エイマーの気持ちも知ってて何をしたいかよくわからない」


「こっち側もなんだぞ。その見合い、多分マックスを逆に煽りたいだけだと思うんだぞ」


「今なら、俺もそう思う。奴は、何故知ってる……いや、チャロナか?」


「エイマーにとっては、唯一の部下だしね? おそらく話したんだと思う。で、マブダチだから伝えた」


「…………チャロナとあれの関係については、父上達にも報告はしたが」


「けど、見合いの件は彼女が来る前なんだぞ?」



 そこまで、あのバカ父上も計算はしてないが……多分、嬉しい誤算だと思うはず。


 とは言っても、マンシェリーもめちゃくちゃ怒ってたから。



「…………伯父上、正体を明かした後に怒られるで済まないと思うが」


「あえて、黙っておくんだぞ」


「マックスのためか?」


「いちおーね?」



 年下で生意気でも、あれも一応幼馴染みだからだ。


 見合いまで、日はそんなにない。


 先に、感謝状の使者として対面するだろうが。


 直接話すとは限らない。使者とは言え、あれでも一応国王だから。



「……お前がこのくらいで帰って来ると言うことは。チャロナ達も、あと少しか」


「また色々報告があるんだが、彼女の口から聞いてほしい」


「帰るのか?」


「いや、今回の提案者は俺だから。少しの間はいるさ」


「なら、手伝え」


「へ?」


『シュラ様……あの仕事量増やしたの、そちらでやんすよ?』


「oh......(´・ω・`)」



 たしかに、その通りなんだが。


 けど、従兄弟の頼みなので断れず。


 チャロナ達が戻って来るまでビシバシと働かされたんだぞ!



「カイル、シュラ様。姫達戻ってきたよ!」


「今行く」


「疲れたぁ〜」



 そして、今日もう一つ驚く出来事があった。


 馬車の中でも眠ってしまった、我が妹を抱え出たマックスから受け取った時の、カイルの表情が。


 母上や叔母上にしか見せたことのない、貴重過ぎる微笑みを向けてたんだぞ!



(俺の妹だから、とか。母上の生き写しだからとは思っていたんだが……!)



『氷雪の守護者』と冒険者時代から異名が高い従兄弟の心が、少しずつ溶かされているのではないかと思えた。

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