13-2.ロティに確認







 *・*・*








 おやつから夕飯前までは、基本的に長い休憩時間をいただける。


 私が元冒険者でも、こう言った立ち仕事に現世では慣れていないのとロティのため。


 いくらAIな契約精霊でも、ロティにはステータスの中に『スタミナ』が存在する。要は、人間と同じ体力値だ。


 今は一緒にいるレイ君にも、疲れからの負担は基本ないが、何故か気疲れはあるんだとか。


 主にそれは、主人のマックス悠花さんからの無茶振りが原因らしい。と言っても、精霊関係なく働かざる者食うべからずって方針なんだって。



『魔力溜まりから顕現した俺っちらにとっちゃ、本来の食事は空気中に含まれる魔素で十分でやんす。けど』


『「けど??」』



 今はレイ君も含め、私の部屋にいます。


 部屋に入るなり、人型からやや小さめの虎さんサイズでちまっとラグの上に寝そべってるのが最高に可愛い。


 あんまり、抱っこし過ぎると距離置かれちゃうからしないけど。


 そんなレイ君が、若干黄昏るようにため息を吐いた。



『……マスターの料理。大雑把なんすけど、美味いんすよ! チャロナはん達みたいにパンは作れやせんけど、肉とか魚とかぁああ!』


「あ、それで」



 これは予想でしかないけど。


 私と同じように、日本人が前世だった悠花ゆうかさんは、主食はどうにもならない状況だったが『おかず』は工夫してたのかも。


 カイルキア様達と一緒にパーティーを組んでた時も、多分率先して炊事を買って出て……。例の女性錬金術師さんとかよりも、きっと美味しくご飯は出来てた。


 一人暮らしが長かったOLさんって言ってたから、少しだけでも自炊はしてたはず。


 今日のお手伝いも手際よかったもの。



「それで、悠花さんのご飯が美味しくて魔素だけじゃ足りなかった?」


『でやんす……。チャロナはんのパンも食べたら余計にぃ』


「あ、ありがとう……」



 高位の精霊さんに褒めてもらうと照れくさいが、私も一応はプロ。


 技術に関しては自信持たなくっちゃ!



『ユーカしゃん、まだでふねー?』


「そうねー?」



 カイルキア様達にパンを持っていくって言ってからまだそんなには経っていないけど。


 すぐ来る感じだったからどうしようか、少し悩む。


 結局、ハーブティーを人数分淹れてから、ロティに確認したい事を聞くことに。



「じゃあ、まず1個目。私の持ってる魔力量……知らない間に底上げされてたの?」


『あい! レイのおにーしゃんも知ってまふよ?』


「え、レイ君?」


『気づいてたと思ってたんで……』



 それは出来れば早く言って欲しかったです。


 あの時は、悠花さんが対応してくれたけど。一歩間違えれば、厨房大惨事だったもの。



『うにゅぅ? ご主人様のまりょく……ロティが出てちてから、しゅっごくしゅっごく増えまちたよ?』


『俺っちの眼で視ても……マスターと遜色ないくらいでやんすね?』


「え、ええ?」



 異能ギフトが付いたからって、急激にあっ……ぷするか、チートなら。


 すると、レイ君は前足をちょいちょいと動かしてラグの上に何かを落とした。



『すっごい古いでやんすけど。うちのマスターの魔法鞄マジックバックでやんす。これ使って試しましょ』


「試す??」



 魔法鞄マジックバックの場合、所有者の魔力に応じて容量が決まってるので私が元から持ってたのだと全然だった。


 錬金術師だった時だと、初心者セットと調味料の瓶数種くらい。それに比べてマックスさんである悠花さんのは古くても容量は桁違いなはずだ。



『今から、俺っちの権限を使って……マスターの魔力を一時的に繋ぎから外すでやんす』


「え……っと?」


『マスターはなんでか来ないでやんすから、今のうちに。きっと、マスターも確認したがるはずでやんす』


「か、勝手にいいの?」


『今念話テレパスで確認は取りやした』


「先に言ってよ!」



 主人も主人だが、契約精霊も実にマイペース。


 たしか、レクター先生が契約精霊とその主はリンクする箇所があるって言ってたけど、性格もだろうか?

 私とロティの場合、まだ契約したてだからか全然……。



(言うよりも、この子は普通の契約精霊じゃないもの)



幸福の錬金術ハッピークッキング』のナビ兼AIだから、一緒にしちゃいけない。


 そこはさて置き、鞄の持ち主である悠花さんの許可が下りているのなら遠慮なく使わせてもらおう。


 疑問は早く解決したいし、私の鞄もあるが自分のじゃよくわからないから。



「どうすればいいの?」


『繋ぎは切ってありやすんで、普通に受け取ってくだせぇ。魔力の量が少ないなら、中身が溢れるか……くらいでやんす』



 見た目、普段使い用にしか見えない革製の魔法鞄マジックバック


 きちんと床に置かれてるのを確認してから、私は重いものを持ち上げる覚悟で両手を添えた。



「せー……のっ、え、え、えええ?」


『でっふぅうううううう!』


『……た、魂消たでやんすね』




 なんて事だ。


 絶対持ち上がらないつもりで構えていたのに、私はいとも簡単に持ち上げられたのだ。


 しかも、勢いが余って頭の上くらいまでに。



「ち、チコリョの羽根持ち上げたかと思ったよ……」



 チコリョはこの世界で言うスズメサイズで、同じくらい繁殖率の高い野鳥。


 色は薄茶とグレーでフォルムもスズメに似たくらいに可愛らしいが、羽根は錬金術師の錬金アイテムに使える基本的な材料。


 いくらポーション錬成を失敗しまくりでも、必死に集めた材料の一つだ。


 さて置き、あの羽根数枚分の重さしか感じてないのだ。


 慌てて床に下ろしてから、もう一回持ち上げても重さは変わらない。



『こりゃ……ほぼ魔力が無尽蔵なマスターにやっぱり匹敵するかそれ以上か……ひょっとしたら魔力適正だけだとマスターくらいでやんすね?」


「んなバカな⁉︎」


『けど、実際こうでやんすよ。元に戻すんで試してくだせぇ』


「あ、うん。…………ちょっと重くなった」



 まさか、と首を振ってたらレイ君が魔力の繋ぎとやらを元に戻してしまい……感じたのは数キロ程度の重み。


 悠花さんのリンクを戻しただけで、この重みってことは……チャロナってどれだけのチートが付いてしまったのだろう。



「たっだいま〜〜! あら、その様子だととんでもない結果が出たの?」



 悠花さんが戻ってきたので、実験結果を詳しく伝える。


 でも、別にそこまで驚きはしなかった。



「あの時も言ったでしょ? 異能ギフト持ちになったんなら別におかしくないって。無くて損しないわよ、それだけの能力持ってんなら」


「そ、そうかなぁ?……ひょっとして、カイル様に見つけてもらえなかったら、街で大騒ぎになってた?」


「なってるどころで済まないわよ。ここのギルマスはいい奴だけど、保護名目で監視付きはあり得るわ」


「ひぃえ!?」


「それくらい、チートもだけど異能ギフトは神がかってんのよ。あんたの場合は食事特化だけど、食文化が一度崩壊したこの世界じゃ重宝されておかしくないわ」


「……うん」



 運が良かったとしか言えない。


 あの落下事故は良かったか悪かったか、今では複雑な気持ちになるけど。


 今朝もお昼も美味しそうに私のパンを食べてくださった、カイルキア様に拾われて良かった。


 でなきゃ、ロティ以外にも皆さんに出会えてないし、こんな穏やかな生活を迎えられなかったから。



「シケた話はこの辺でいいでしょ? カイル、あんたのパン横取りするくらい食べてたわよ。シュラを押しのけてまで」


「ほんと?」



 いつもよりは甘くないパンだけど、気に入ってもらえたら嬉しい。


 思わず、顔がぽっぽと赤くなり、胸がキューっと締め付けられる。なんだろう、くすぐったい。



『にゅふふぅ〜』


『……マスター、この人』


「しっ! この空気を壊しちゃダメよ!」



 いえ、あなたが一番壊してます。


 ちょっとだけこしょばゆい気持ちにはなれたけど、まだまだロティには確認しなくちゃだからお茶を全員分淹れ直した。



「ロティ。あの天の声?が知らせてくれる、PTなんだけど。今日は味見でPTの数値がバラバラだったり……一度食べた物でも、そのあと食べたら全然PT化されないのはなんで?」



 ついさっきも、まだ残ってたフィナンシェを食べても何も音声が届いて来なかったのだ。


 ロティがくぴくぴお茶を飲んでから、こてんと首を傾げた。



『ちょっちょじゅつでふが……ナビレベルに応じて、色々変わってりゅんでふ。そのタイムラグでふね』


「「タイムラグ??」」


『学習能力が少しずつ上がってるせーでふ』


「ああ。そんな事言ってたわね?」


「じゃあ、色々変わり始めてたせい?」


『でふ』



 まだAIレベルが低いせいで要対応とまではいかないが、少しずつ変わっていってるらしく。


 味見と食事は同じにして、一度食べた物は次にPT化されないんだって。


 説明が増えてきたのも、ナビのレベルアップの効果だそうだ。



「チーちゃん、シュラの管理してる孤児院に持ってくの。その日までもうちょいレベル上げしたら?」


「え?」



 納得したとこで、悠花さんがそんなことを切り出してきた。



「昨日も言ったじゃない。無闇にそこいらでレベルアップの状態にならない方がいいって。シュラのとこでも何があるかわかんないでしょ?」


「そ、そうだね」



 何かあってからじゃ遅いから、出来るだけ対策はした方がいい。


 ひとまず、お茶をしながらまたロティにステータスをコピーしてもらい。


 四人でお茶会をしながらコロンを振り分けることになった。

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