9-2.コーンパン作り②


 全部入れ終わったら、今度は白パンで作るコーンパンの成形に取り掛かることに。



「今回は、水気を切っておいたトウモロコシの粒を練り込むタイプです」


「先にやってはいけないんだね?」


「他の野菜でも、粉状にしたものなら生地作りの時。湯がいたものなどを混ぜたい時は、練り込む方が生地に負担をかけないんです」


「うんうん。ちゃんと理由があると納得がいくね」



 練り込むのは、まず打ち粉をふった台の上で生地を伸ばし、トウモロコシを軽くひと握り分乗せる。


 両端の生地を少し引っ張って綴じ、しばらく何度も折っては綴じてを繰り返す。


 すると、最初から混ぜ込んだようにトウモロコシの粒は全体に行き渡った生地になった。



「最後に丸く整えて、真ん中をパン用のカッターなんかで切らないように深く凹ませます。これを、シェトラスさん達がずっと使って来た鉄板に乗せて」



 全部出来上がったら、日当たりの良い小窓の側で2倍に膨らむまで発酵。



「ここで、マヨパンの方に時間短縮クイック!」



 ▶︎▶︎▶︎をさっきと同じ三回押して時間を縮めさせる。


 ここまで完了してから、昨日から水出ししておいたハーブティーでひと息つける。



「そしたら、窯の方も少し予熱しておこうか」



 窯はまだ管理が私じゃ出来ないので、お任せ。


 常にコンロ部分から火が出せるように、炎の魔石が内側で埋め込んであるようだから、燃料不足の心配はないそうだ。魔石の交換は半年に一回程度。


『生』のあるものすべてが、微量ながらも魔力を持ってるこの世界では、大掛かりな魔導具でなければ魔石を扱うのは比較的簡単。


 前世のイメージしやすい感覚で言うと、電気のスイッチに近い。


 接触すれば魔力が自然と流れていくので、あとは使用者が送る魔力をコントロールするだけ。


 窯の場合、電子レンジのツマミに似たダイヤル式で魔力を送ります。



「これで15分かそこらで温まるよ」


「この気温と湿気なら、白パンの方は……余裕を見て30分タイマーをセットしておきますねっ」



 タイマー召喚はすぐなのでささっと終えて、冷たいハーブティーをひと口。


 これ、昨日摘みたてのハーブをたっぷり使ってもスッキリした後味で、自分で作ってなんだけどすっごく美味しい。



「美味しいですねー」


「ハーブティーだと、基本はミントが主流だけど……色々入れるとミントが気にならないね?」


「ミントだけだと匂いきついですしね」


「旦那様も、チョコはお好きでもチョコミントは苦手なんだよ」


「好き嫌い別れるお菓子ですし」



 実は、ミントを酵母にするパンもあるんだけど、カイルキア様がお好きじゃないのならやめておこう。


 趣味範囲ではいいかもしれないが、まだ酵母を育てる技量までないから。



「休憩されてたんですね? チャロナくん、また新しいパンを?」



 おかわりのハーブティーを飲んでいた頃にエイマーさんが戻ってこられた。


 ロティの発酵器を少し見ると、小窓のそばに置いてた白パンに気づいて、ささっと近寄っていく。



「これは……普通の白パンじゃないのかい?」


「ラスティ達からもらってきたトウモロコシを混ぜたんだよ。焼くと香ばしくなって美味しいそうなんだ」


「それは、楽しみですねっ。パンにも混ぜれるとなると、夕飯とかに出したらまた争奪戦が酷くなりそうだ」


「今回は、ラスティ達を呼んでおやつだそうだが……エスメラルダも呼ぶとなると、サイラと一悶着ありそうだよ」


「「あ、あはは……」」



 今日の朝ちゃんとエスメラルダさんと話せたんだけど……あの人については乾いた笑いしか出てこない。





 ちっちーち、ちっちーち





 発酵が終わったら、一度膨らみ具合を確かめて全部取り出す。


 ずぼらな人だとそのまま予熱モードにさせて焼くかもしれないが、私は元パン屋勤めだもんでしません。



「ロティ、焼く前にハーブティー飲む?」


『お願いちまふぅ!』



 焼き時間が短くても、時間短縮クイックをずっと使ってても、ロティには負担が少しかかるのは今朝わかった。


 AIでも、生きてる精霊と大差があるわけじゃないので、疲れとかは当然出る。


 だから、ひと息つける時は一旦元に戻してから水分や食料で補給はさせてます。



『ぷひゃー、ごちしょーさまでふ!』



 ハーブティーを飲み終わったら、もう回復して再びオーブンに戻った。



「焼く前に……マヨネーズで追いマヨをします!」


「「追い??」」


「マヨネーズを焼くと、すっごくいい匂いになるのとトウモロコシに非常によく合うからです!」



 マヨネーズのチューブとかはないから、スプーンで格子状に乗せるだけ。


 ロティが予熱モードに設定してくれてたので、蓋を開けて再び天板を中に入れていく。



「時間は15分くらい……かな?」


『でっふぅ、低温にさせてまふのでお任ちぇくだしゃい!』


「はーい、お願いします」



 そして、白パンの方はまだなのでエイマーさんも一緒にハーブティーを飲んでいると……。


 マヨネーズの焼ける香ばしい、いい匂いが!



「これは……?」


「少し酸っぱいような匂いもあるが、実に香ばしい! チャロナくんが最後に乗せてたマヨネーズのお陰かな?」


「はい、焼くとこんな感じになるんです」



 マヨネーズは存在してても、サラダ目的でしか使わないのがこの世界。多分、【枯渇の悪食】の影響が大きい。


 実にもったいないのと、前世の記憶を有効活用して今回はマヨコーンにしたんです。


 時間短縮クイックはあえてこっちにはかけず、次に慎重に取り掛かる白パンの方を温まった窯に入れていく。



「こちらも焼き時間は向こうと同じですが、少し熱いので12分目安にしましょう」


「なら、タイマーと言うのを借りてもいいかな?」


「はいっ」



 全部を窯に入れて蓋を閉めてから、タイマーを召喚してセット。






 コンコン、コンコン






 さあ、他の仕込みや片付け……と思ったら、廊下に出る通用口からノック。


 私が行こうと思ったけど、エイマーさんの方が近かったため彼女が対応してくれました。


 ただ、扉を開けてから変な声が聞こえてきたんだよね?



「え、エスメラルダ先輩、そ、その掴みあげてるの……っ」


「見ての通りさ、エイ。うちんとこの厩舎きゅうしゃ付近でぶっ倒れてたんで、連れてきたよ」


「は、はぁ……今度は、あそこで?」


「エイ姉、チャロナのパン出来てんなら食わせてやってよ!」


「そうは言っても、ついさっき焼き始めたばかりだ」


「昼とかの残りも、あの子のパンじゃ残ってなさそうだしねぇ?」



 どうやら、エスメラルダさんやサイラ君もだけど、他にももう一人いるみたい。でも、ラスティさん達じゃないようだ。



「ゼーレンには一応洗ってもらったんだが、見ての通り腹空かして起きやしないんだよ。いつもの威勢の良さはどこ行ったんだか」


「ふむ。とりあえず、すぐ出せるとしたら昨日作ったフィナンシェくらいですよ」


「それでもいいさ。数個出してくれないかい?」


「わかりました。チャロナくん、すまないがフィナンシェを5個ほど皿に入れて持ってきてくれないか?」


「あ、はーい」



 貯蔵棚の端から言われた数を皿に乗せ、皆さんのとこに持っていくと少しだけ問題の人物が見えた。


 カイルキア様以上に筋肉が凄そうな、屈強の戦士!ってタイプの男の人。


 短い銀髪だけしかわからず、顔とかは首根っこを掴まれてるので俯いてて見えない。



「やぁ、チャロナ。サイラに聞いたよ、美味いパンをまたご馳走してくれるんだって?」


「こ、こんにちは」



 そんな大柄の男の人を片手で持ってる人は、褐色な肌と左目の黒い眼帯が特徴の、南国風美人なエスメラルダさん。


 昔、見習い時代にコカトリスの光線を目に浴びて石化しちゃったらしく、隻眼になっても頑張って飼育員になった人。


 今はコカトリスを含む飼育員のトップで、サイラ君直属の上司さんだ。



「フィナンシェありがとさん。サイラに持たせてやってくれよ。あたいはこいつ引きずってかなきゃだし」


「ど、どちら様で……?」


「ああ、そうか。あんたはまだ入り立てだからこいつ見た事ないか? ぐーすか寝てるけど、少し前までカイル様やレクターと旅してた冒険者さ」


「え?」



 例の、カイルキア様達と旅してた冒険者?

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