第87話 滅星の大魔導師になります
案内されて辿り着いたのは大きなステージ。
…サーカスでもやるのかな?
「それではレスティオルゥさん!お上がりください!」
「…はいはい、知ってましたよ」
鮮やかのステージの中心に移動するボク。
気分は若干見世物小屋なんだけど忘れるとしよう。
これから魔術を使うからか、やたら広いステージを囲う客……いやあんたら今回の件の協力者でしょ?ホントの物見遊山できている村の人達はともかく…。
「がんばえ~!がんばえ~!」
「…………」
何故だろうか視界の端に幼児退行した獣国の王の姿が見えるが、いったん…いや永遠に忘れたい。
現魔王は部下たちに「応援しています!」と書いてある大型看板を持たせてボクの顔の描かれた団扇で扇ぎこちらを見守っている。
この国の王妃に至っては頭に「大魔導師LOVE!」とあるハチマキ、手には光る棒の魔道具を持って挙動の大きな謎の踊りを踊って応援している。
「ウリャオイ!ウリャオイ!」
本人が楽しそうだからいいか。
魔族以外の国の未来が心配だなぁ…。
そんなことを考えているうちにボクと同様にステージに立ち拡声魔道具『マイク』を持ったアンキさんとセレスさんが話しを進行する。
「これを見て。空間魔術で映し出した黒い星。これが私たちの住む星に落下してくる。それで……やばい」
「アンキさん途中で説明やめないでください!」
「嘘は言ってない。だから大魔導師がこれからあの星を攻撃する。その際に破壊しきれなかった星の破片を壊すのがここに集まった他のやじ馬たちの役目」
「野次馬って言っちゃ駄目!……え、えーっと…それではレスティオルゥさんおねがいします!」
「進行下手!」
「ふ、普段は研究室に籠っているので
「言わんとすることは分かる」
そも魔術師なんて部屋から出ない引きこもりの親戚みたいなものだし。
こんな騒動でもなければ部屋で研究していた生き物である。
ただバトンが投げ渡されたのは確かなのでボクは空間魔術によって見えている星を見る。
まっくろなその表面は特殊な物質で出来ており、光などを飲み込む性質があるということ。
そしてボク達が対策を練っている間に一つ判明した内容。
おそらくあの星は魔力なども吸収してしまうということ。
普通の魔術では威力が足らずに半端に破壊して危険な星の欠片が世界中に降り注ぐ…なんてことにもなりかねない。
要するに普通の魔術じゃないとても威力がある魔術をあの星に叩きこまないといけないということだ。
理論は作ってきた。
ただそんな魔術をその辺で練習できるわけもなく今日が来た。
既に母さんに魔力の制限も解いてあるので嘘偽りなく全力で魔術を行使できる。
失敗さえしなければ。
そう思い周囲のみんなに目を向ける。
うちの娘たちに妻とメイド達+居候
魔族の王とその部下たち。
あんまり親しくないけど獣人の王。
踊り過ぎて汗まみれの王妃。
うちの村の人や近隣の村の人達。
魔塔の協会長と賢者達とその弟子たち。
沢山の人達がこちらに笑顔と声援を送っていくれている。
「失敗しても大丈夫だ!」「獣人の腕力をなめるなよ!」「新しい魔術の肥やしにしてやる!」などなど背中を押す声も届き、
「「「 頑張って~っ! 」」」
アジダハ指揮の元子供たちの応援も聞こえてくる。
きっとあのとき。
地下から出てティアと出会った時、繋がった絆がボクを導いてくれた。
暗闇の底で出来上がったボクの真理『創世』。
その本質はボクの願いをかなえる事。
…今思えばきっと闇の底で願ったもう一つの願いは今ここで叶ったんだと思う。
【誰かと一緒に】
目的もなく意図もせずただ寂しかったボクの願い。
その願いを叶え終えたボクの真理は【
だから今、新しい願いをボクは願う。
【未来に一緒に】
その願いを聞き入れたのかそれとも本当はその形だったのか。
『創世の至言』はその形を変えたのを感じる。
その力を信じてボクは空を仰ぐ。
「
膨大な量の思考を創世の至言に混ぜ合わせて処理する。
そして力を行使するのに最も適した形に修正した術式がボクの身体を駆け巡る。
体の隅々まで蒼色の魔術回路が刻まれていく。
形を変えて出来上がった創世の至言…いや新たな魔術を体に纏った僕は星を滅ぼすための魔術を宇宙の彼方に映る星目掛けて唱え始める。
「『
ボクの指示に従い空間いっぱいに術式が浮かび上がり、その上に魔力の塊が臨界状態で生成される。
世界を作り変える性質を臨界状態にすることで無理やりひっくり返して『破壊』の性質を産み出す。
物理的にではなく概念的に破壊する臨界した魔力をボクは一箇所に集めて重ねる形で集めた。
このまま放置すれば破壊の魔力がそのまま爆発して全部消えてしまうが、裏を返せばその爆発に方向性を与えて撃ち出せばいい。
「全術式を積層、合成。
――概念否定!距離否定!存在否定!星を穿て!『
灰色の極光が空へと打ち上がっていく。
そしてそれと同時に周りから歓声が上がった。
そのまま進んでいくかと思われたその光は途中でガラスのように砕けて視界から消えていき、完全に視界からその光が消えてなくなった頃には宇宙に漂っていた星もいつも間にか消えていた。
距離概念も否定しているので途中から見えなくなってたなぁ…。
でも空間魔術に映っていた星も消えていたから周囲の人間たちも、理解は出来なくても結果は把握し始めた。
「やってやったぞー!」
「「「「「 うおぉぉぉぉぉぉぉーーーーっ!!! 」」」」」
ボクの勝鬨に反応してみんなが手に持っていた物を投げて喜ぶ。
破片もなさそうだし問題もないだろう。
ボクは嬉しそうにしている子供たちの元へと行く。
「母さんすごい!」「流石母上なのです!こんこーん!」「ありがとうお母様!」
ボクに飛びついてくる子供達。
これで問題なくまたいつもの日常に戻れるだろう。
「主よ、喜んでいるところ悪いが月が半分くらい欠けておるのだが…」
「ティオさん!あの星の後ろにあったいくつかの星も一緒に消えてませんか?」
…新しい問題が聞こえたような気がしたけど…聞かなかったことにしよう。
問題が片付いたはずの僕たちはそのまま周りの馬鹿騒ぎに混ざるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます