第54話 三姉妹って大体個性があるよね
冬の風も通り過ぎてだんだんと温かくなってきた今日この頃。
我が家も暖房器具を仕舞って新しく内装を変えていた。
そのついでに子供たちとアルが一緒の寝室で寝ることになった寝室の拡張も行っている。
以前は付いていなかった窓も設置したことによりカーテンを開くことで子供たちを起こすこともできる。
その結果かは分からないが以前よりもぐっすり眠ることが出来るようになったし、何故かアルの機嫌もいい。
いいこと尽くしである。
僕が季節の変わり目で体調を崩している町の人に頼まれて風邪薬を調合しながらそんなことを考えていたそのとき、僕の方へと小さな足音達が迫ってくる。
向こうから走ってきたのは我が家の3人娘だった。
「「 わーっ! 」」
「二人ともー!走っちゃ駄目ー!」
「そういうエミリアも走っておるがのぅ」
先頭を走っているティアとコン。
それを追いかけるようについてきたエミリアとアジダハ。
ドタドタ走り寄ってくるので机上のフラスコが倒れそうなのをひょいと拾うと、置き場に戻しておく。
「どうしたんだみんな?」
「はいなのです!お日様が気持ちいいから一緒にお昼寝がしたいのです!」
「お母さんと一緒にお昼寝したいなって」
「エミ姉もそう言っているのです!」
「私は言ってないわよ!」
わいわいと言い合っている2人とその間で慌てているティア。
要するに3人で昼寝をしたくてここに来たようだ。
何とも可愛らしいお願いに頬が緩んでしまうが、うちの娘たちのお願い事を聞くにはこの薬作りをさっさと終わらせなければならない。
可愛い娘たちを待たせるのもあれなので、さっさと済ませてしまうこととしよう。
「『
あまり多用すべきではないが今回は特例だ。
指を鳴らしゆっくり作っていた薬の製作過程を省略して結果を錬成する。
少し品質が落ちてしまうが…別に完璧な薬である必要はないのである。
多少効果は落ちるがそこは風邪を引いた町の人に頑張ってもらおう。
そしてもう一度指を鳴らして『創世の至言』によって並列発動した転移魔術を発動して薬を町の人の郵便入れに入れておく。
もともと夕方、郵便入れに入れておく約束だったのでこれで問題ないだろう。
これでやるべきことも片付き椅子から立ち上がる。
「よし、じゃあ一緒に昼寝するか」
「「 わーい! 」」
ぴょんぴょんと跳ねて喜ぶコンとティア。
その後ろでこっちを見ているエミリアにも視線を送る。
さっき「私は言ってない」と言っていたのでどうするか悩んでいるみたいだ。
「エミリアも一緒にお昼寝するかい?」
自分からは言いにくいだろうからこちらから誘ってあげると、少しもじもじした後にこちらに近寄ってきた。
「…うん、お母様とお昼寝する」
普段少し意地っ張りだったりするエミリアだが僕の前では素直になる。
それだけ慕われているのは嬉しいな。
◆●◆●◆●◆●◆
さて僕に抱き着いている娘3人を連れて外に出てきた今日この頃。
ちなみにもう一人の母…娘たちは「ママ」と呼んでいるアルは最近上手く寝付けていないらしくソファで眠っているので不在である。
ルクスも「子供たちの新しい服つくるんご!」と謎の語尾を残して家(仕事場)に帰っていった。
よって今現在このお昼寝の会に集まっているのは娘3人と、娘たちと一緒にいたアジダハと僕の計5人。
流れで家事仕事も片付いているアジダハも一緒に昼寝をすることになった。
「それでそのあたりの草むらでよいのかの?」
「ん~…まだ春になったばかりで横になるのはあまり適していないな」
まだ草の絨毯は生まれていないので別の案を考えながら娘たちを撫でていた僕の隣でアジダハが何やら背中に羽を生やしている。
「何しているんだ?」
「いやのう…羽の天日干しでもしようかと思うての」
「布団じゃああるまいし……待てよ?」
気持ちよさそうに羽を広げているアジダハを見てとあることを思いついた。
「…そうか、布団か」
「………?」
――それから30分後。
無事妙案を思いついた僕たちは今現在家族4人横に並んで昼寝をしている。
気持ちよさそうな表情で僕に抱き着いて眠っている娘たちを撫でながら太陽を浴びる至福の時間をゆっくりと堪能することとしよう。
閉じそうな瞼を上下させつつ僕は欠伸をするのだった。
◆●◆●◆●◆●◆
我は黒竜アジダハーカである。
名前はさっき言った。
……日の光を浴びながら何とも言えない気持ちで主たちを見やる。
竜の身体になった我の羽を敷物代わりにして気持ち良さそうに横になっている。
これは何気に竜虐待ではないだろうか?
何とも言えない複雑な心境ではあるが、だからと言って気持ちよさそうに眠っている3人娘たちを起こそうとも思えない。
最近はティア様の「アジ」呼びにより何やら愛称が「鯵」になってきている気がするが、やはり嬉しそうな子供たちの笑顔に釘を刺すこともできず結局「鯵」。
呼称が魚類になったことで竜から魚に変わる怪奇現象が起きないことを祈るばかりである。
どうしようもない理不尽を忘れるため陽光で思考を溶かしていたそのとき、ふと空の彼方に覚えのある魔力を感じ取る。
『……あー…アレか…。面倒じゃのう…とりあえず子供たちが起きぬように遮音結界を張っておくかの』
子供たち…と、ついでに主を囲って結界を張っておく。
多分無駄じゃろうがの。
と、そんなことをしていると空の陽光が途絶え、太陽の代わりに光を反射している銀色の鱗が視界に入ってくる。
…やっぱりか。
『見つけた!悪竜アジダハーカっ!』
『やはりお主か。懲りぬのぅ』
悪行ばかりしていた我に向かって竜族が放った追手。
我に対抗できる光龍が上空に迫って来ていた。
まぁ対抗できると言っても我の闇の魔力と相性が良いだけで、別に我よりも強いわけではないのだがの。
何より今この時に襲い掛かってくるなぞ、運の悪い奴よの。
『あー…ゼニスよ。忠告しておくが今はやめた方が良いぞ』
一応知り合いとして最低限の忠告をしておく。
どちらかと言えば敵だが今この場において我に攻撃をしようとするのが無謀であることだけははっきりしている。
結果が見えているだけにさすがに止めようとはしたが。
『…そうか!貴様、今は動けないのか!ならば好機!貰った!』
淡々と残念な方向へと進んでいく。
そして我が家の主が起き上がったのを感じた。
…残念、時間切れである。
既にあのインチキ魔術を展開している主が光龍の眼前に転移している。
『…へっ?』
「『
何やら見たことの無い魔術が光龍の身体に巻き付いていく。
すると先ほどまで光龍の身体に満ちていた力が霧散していくのを感じた。
…主め…いつの間に竜族無効化魔術なんぞ作ったのじゃ…。
突然の無力化に戸惑う光龍だがその相手は待ってはくれない。
「…子供がまだ昼寝してるでしょーがっ!!!」
馬鹿げた魔力の籠められた拳骨が光龍の頭部にクリティカルヒット。
憐れ無力化されていた光龍がそのまま垂直に叩き落とされ地面にめり込んだのであった。
『………あちゃあ…』
もう一度主と戦ってももう勝てる見込みはないのぅ…。
地面に埋まった知り合いを見ながら我が胸中に抱いた感情はこんな感じである。
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