第45話 ピクニックって準備に手間がかかるけどいいよね
空から雪が降る期間が終わりを告げてようやくただの冬へと移行された。
まだ周りには少し雪が残っているが人間の生活を邪魔するほどではない。
日も出ていることだしいつの間にか解けて消えていることだろう。
特に最近は家の中にこもりっきりだったこともあり今日は一家一同でピクニックを予定している。
無論外は雪が降っていなくとも寒いのでそのための準備を怠ってはいない。
丁度長い間うちに居候していた服屋の主人がいるので冬用のコートなどを準備させたところである。
フワフワかつモコモコで可愛らしいコートが我が家の一員に配られている。
子供達にはそれぞれイメージに合った色のコートが配られている。
ティアは薄緑色、コンは白色、エミリアは水色。
それぞれぴったりで首までしっかりとモコモコしている。
普段の姿でも可愛らしい3人だがこういう格好も可愛いな。
勿論僕やアル、そしてルクスも同じようにコートを羽織っている。
アジダハだけ「メイドの嗜みはメイド服のみじゃ!」と謎のこだわりを発揮しコートを着ていないので普段の恰好のままであり、見ているこっちが寒くなるのだが本人が気にしていないので仕方ない。
早起きして準備した弁当箱を空間魔術でしまい家の戸締りを確認をして歩き出す。
生まれて初めてのピクニックがとても楽しみなティアとコンは楽しそうに移動中もはしゃいでいる。
エミリアは「落ち着きなさいよ!」と二人の後についているがいつもより若干歩幅が広く感じられる。
口ではああ言ってはいるが内心それなりに楽しみにしているのかもしれないな。
そんなこんな子供たちを見守っていたそのとき、僕の隣で少し眠そうなアルが僕の肩に彼女の肩をぶつけてきて「あっすいません」と謝ってきた。
「なんか眠そうだけど大丈夫?」
「す、すいません…。生まれて初めてのピクニックがあると思うと上手く寝付けなくて……ふぁぁ…」
「あれじゃの。次の日に楽しみなことがあるとそればかり考えて眠れなくなる奴じゃのう」
「魔王だった頃はピクニックなんてしてなかったので…。せいぜい軍の遠征程度です」
「「 その二つを同じ棚に並べるんじゃない! 」」
元魔王の何とも言えない感覚に呆れながら僕とアジダハはツッコミを入れるのであった。
……えっ?ルクス?涎を垂らしながら自分手製のコートを着ている僕たちを鑑賞しているので放置で。
◆●◆●◆●◆●◆
移動することしばし。
それなりに見晴らしのいい場所まで動いた僕たちは足を止める。
「…このあたりが丁度いいかな?見晴らしいいし。あんまり森とかに近寄って魔物がいっぱい来ても困るからな」
なかなかの場所を発見し満足気にしていた僕の肩をアルが叩く。
「確かに見晴らしがいいですが…ここはまだ雪が解けていないですよ?」
「確かにね~。これじゃあシートを地面に敷いてもお尻濡れちゃうんじゃない?」
アルとルクスから当然のツッコミ。
しかし僕だってそれに気づいていないわけではない。
「わかってる。だから先にこの雪を溶かしておかないとな…わっ!?」
有限実行をしようとする僕の肩を何やら焦った表情の大人3人が止めている。
「ティオさん!ストーップ!」
「それ以上いけないのじゃ!」
「ティオがそれやったら一面焼け野原になっちゃう!」
「僕をなんだと思ってるんだぁーっ!」
大変失礼なことを言われた。
…確かに以前やらかしたことは…ある、多々ある。
しかし僕だって同じことを何度も繰り返すほど愚かじゃない!
「…別に僕自身でやるわけじゃあない。雪解けの魔術…なんて都合のいい魔術もないしな」
「珍妙な魔術を作るのが大好きな主なら作っていそうなものじゃがなぁ…」
「失礼過ぎない?ない?」
親しい家族から言われると何やら悲しいものがある。
「じゃあどうするんですか?」
「うん。以前地下で研究していた際に知り合った精霊がいるんだ…複数な。だからその中で炎を使う奴を呼ぼうかなとね」
そう言いながら空へと向けた人差し指から魔力を放出する。
別にビームを指から出しているわけではないよ?
いうなれば川に水を流すようなもの。
ただただ魔力を垂れ流しているだけである。
このほうが向こうも僕を見つけやすいだろうし。
「来てくれ!アグニシャイン!」
読んでから約4秒。
中空に突然、火炎が集まったかと思うと人とも獣ともとれる炎の化身が現れる。
炎の精霊のアグニシャインだ。
「来るの早くない?」
『やぁっ!ティオじゃないか!もう地下でのボッチ暮らしはやめたのかい?』
「誰がボッチだ!今はそれなりに友好関係がある!それはそうとこの周辺の雪を溶かして地面を少し乾かしてくれないか?そう言うの確か得意だって言ってただろう?」
『ああ、それくらいならお安い御用だ。…そういえば前よりも可愛くなった?』
「気のせい気のせい」
適当に雑談を混ぜながら要件を言うとアグニシャインの身体から吹き上がった炎が周りへと広がっていく。
周囲は蒸発する水分で曇っていくがそれすらも焼かれて消えていく。
その真っ只中にいる僕たちだが、こちらは熱すら感じない。
やはりこういう魔力の操作は精霊とか妖精とかが得意なんだな。
作業をやり終えたアグニシャインは「じゃ、またなー!」と言って消えていく。
「今度、研究でもさせて貰おうかな」などと考えながら背後に振り返る。
そしてさっきまで僕を疑っていた3人にドヤ顔をする。
「「「 ・・・・・・・・・・ 」」」
口を開けたまま固まっている3人。
どうだ!僕だって成長しているんだぞ!伊達に230歳くらい生きてはいない!
僕の成長に驚き固まっている3人を他所に持ってきた敷物を取り出しティアたちの方へと渡す。
「じゃあシート広げるからそれぞれ四隅を持って散開だ!」
「「「 おーっ! 」」」
ピクニックにテンションの上がっている子供たちが元気にシートを広げていく。
なかなか楽しんでくれているようだ。
――その後ろ。
ティオと子供たちが地面にシートを広げている中、少し離れた位置からアルとアジダハ、ルクスがティオを見ている。
成長をしているティオに驚き……ではなく大変頭痛を覚えるような表情で眉間を押さえている。
「…確か精霊との契約は選ばれた術師にしかできない筈なのですが…世界中の精霊術師は涙目ですね…」
「というかアレは契約すらしておらんの。世界に溶け込んでいた精霊を魔力を餌に呼び出して小間使いにしたのじゃ…非常識じゃのぅ…」
「…あれ?…ていうか…あれっ?アグニシャインって確か今代の炎の精霊王…だったような…?」
…成長した姿を見せるどころかさらに非常識認定されていることにティオが気づくことはないのであった。
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