第26話 森の入口
町外れには森があって、(前に狩りに行ったのとは別の森だ。森は町外れの各所に点在している)、その森に入って少し行ったところの岩山のふもとに目指す目的地である洞窟がぽっかりと黒い穴の入口を開けている。
天気のいい木漏れ日の差し込む道を森林浴を楽しむように歩きながら、ミリエル達は目指す目的地へと歩いていく。
そううっそうと茂った深い森では無いので、歩きやすい道があるし、頭上の葉の隙間からは明るい太陽の光がよく差し込んでいて辺りは明るかった。
森の生きている音がよく聞こえる。さっきからリンダが静かになっていた。
『何か、静かになったな』
「きっと緊張しているんだよ」
「緊張なんてしていませんわああ!」
ミリエルは中の人に言ったのだが、リンダは自分が言われたと思ったかのように吠えるように答えた。
まあ、緊張しているってリンダのことを言ったんだけど。
すぐ傍で腕を取ってひっつかれてヒソヒソ声でも届く距離にいられて正直面倒くさかった。
リンダってこんな人だったっけ。学校ではもっとしっかりして陽キャで気品と自信のあるお嬢様のように感じられたが、人の素なんてこんなものかもしれない。
ミリエルが彼女の事を迷惑に思っていると、後ろからニーニャが話しかけてきてくれた。
「リンダお嬢様、あそこに誰かいるみたいですよ。しっかりと恥ずかしくない態度を示してください」
「あなたに言われるまでもありません。わたくしはいつでも準備万端ですわ!」
<本当かよ……>
ニーニャが聞こえないように呟いたのをミリエルの耳は拾っていた。
リンダがやっと腕を離してくれて、ささっと自分の手櫛で身だしなみを整える。
ミリエルはやっとリンダから離れられる、やっとニーニャと話が出来ると喜んだのだが……
「さあ、ミリエルさん。わたくしを案内してください!」
「ええっ!?」
何とリンダはミリエルの背後に回り込んで両肩をぐいぐいと前に押し出してきたのだ。その上とんでもない事を言ってきた。
ミリエルの大切な妹に向かって。
「ニーニャはここで待っていなさい。一歩も近づいてはいけませんわよ。さあ、ミリエルさん! 行きましょう!」
「ええ!? ちょっと、リンダちゃん! ニーニャちゃんを置いていっちゃ駄目ーーーー!!」
ミリエルはぐいぐいと押されていく。緊張と興奮に高ぶったリンダの力はとても強くて、浮足立つミリエルに逆らえる物では無かった。
ニーニャはしばらくお嬢様とその友人の様子を伺うように見送り、
「このままじゃ、あの友達にもアルトにも嫌われるだろうな、あいつ……」
ミリエルがニーニャを置いていくなと言った理由は聡い彼女には分かっていた。それだけリンダと二人きりになりたくないとミリエルは訴えていたのだと。
それは正確では無かったのだが、ニーニャはそう推測してため息を吐いて決めた。前に向かって歩くことに。
「来いと言ったり来るなと言ったり、迷惑なお嬢様だが、後で屋敷に帰ってから失敗したって泣かれても面倒だしな。付き合ってやるか」
ニーニャは二人の後について歩いていく。一応来るなと注意された手前、少し距離は開けるように意識して。
前で二人がわめいている。
「ちょっと、リンダちゃん! そんなに押さないでよ歩けるから!」
「善は急げですわ!」
お嬢様にぐいぐいと押されながら、友達はとても迷惑そうにしている。
リンダがそれに気づいて気配りが出来るようなら苦労は無いかと思うニーニャだった。
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