第3話 友達と相談する

 午前中の授業が終わって昼休み。ミリエルはクラスメイトで仲の良い少女ネネと学食で食事をともにしていた。

 ネネはほんわかとした雰囲気を纏った気の優しい少女で、友達が出来ずこのまま誰とも付き合いのないままこの学校を卒業するんじゃないかと思われたミリエルに初めて出来た同じクラスの友達だった。

 今の学年になって近くの席になって話しかけてくれた。それ以来の付き合いだ。


 貴族の通う名門校の学食は落ち着きのあるシックな装いで立派な建物だ。味も一級品。

 ミリエルは初めてこの食堂を訪れて一口食べた時はその庶民とは格の違う美味しさに驚いた物だが、今となってはすっかり口に馴染んだ味になっていた。

 王都で名を知られた一流のコックの作った食事でも、今のミリエルの気分を払拭できるものではなかった。さっきの授業のことを思い出して唸ってしまう。


「この学校の授業って難しいよー。わたし来る学校を間違えたのかもしれない」

「ううん、ミリエルちゃんは凄いよ。さっきの問題あたしも全然分からなかったのに解いちゃったもん。先生は聖少女に期待してわざと難しい問題を当ててるんじゃないかな」

「聖少女ね」


 何度聞いても慣れない言葉だと思う。親は天から力を授かって魔王を倒したほどの選ばれた勇者でもミリエル自身は特別な才能なんて何も感じたことは無かった。

 親は魔王を倒した功績が称えられて王様から今の地位と名誉と土地を授かったらしい。その結果が今のミリエルの感じている疎外感だ。

 先祖代々の由緒正しい貴族子女の多く通うこの学園において、ちっぽけな平民が紛れ込んだようなそんな雰囲気を感じていた。


「ミリエルちゃん、才能あると思うけどなあ。勉強が出来てスポーツも出来るし。あこがれちゃうよ」

「そう?」


 ネネは友達としての優しさから励ましてくれているのは分かっているが。それでもちょっと嬉しい。照れてしまう。

 ミリエルは行儀よく紅茶をすすってから訊くことにした。相談するならやはり同じ現場にいた友達がいいだろう。


「さっき授業中に不思議な声が聞こえてきたの」

「まあ素敵。それってきっと神様の声だよ。さすがは聖少女だねー」

「…………」


 前言撤回。話す相手を間違えたかもしれない。でも、他に話す相手もいないので続けることにした。


「それにしては威厳が無かったような」

『この俺の声に威厳が無いとはな。そう言われたのは始めたぞ』

「また聞こえた。誰? 姿を見せなさい!」


 ミリエルは立ち上がって周囲を見るが、魔力を使っていたずらを仕掛けている様子の生徒の姿は見られなかった。

 いきなり立ち上がって声を上げたりして周囲の生徒達から何事かと注目を集める中、声が再び聞こえてくる。


『フフフ、ご期待に添えれば良かったのだがな。あいにくと今は見せることは出来ないようだ。騒ぎを起こして構わんのならいかにようにもやりようはあるがな』

「くっ」

「どうしたの?」


 ネネが不思議そうに見上げている。周囲の生徒達も何があったのかと見つめている。ミリエルは諦めて座ることにした。


「何でもない。誰かが魔法でいたずらを仕掛けてきてるの」


 ミリエルが座ったことで周囲の人々もそれぞれに自分達のやることに戻っていった。昼休みは貴重なのだ。他人の事で無駄にする時間は無かった。

 ミリエルは考える。きっとからかわれてる。戸惑っては相手の思う壺だ。今は気にしないように食事を進めることにした。

 そんな彼女にネネがある提案をしてきた。


「魔法のトラブルなら魔法研究部の先輩に見てもらわない? 先輩、噂の聖少女に会いたがっていたし、きっと喜ぶよ」


 そう言えばネネは魔法研究部に所属していると前に聞いたことがあった。

 ミリエルはこの学校自体に馴染めない物を感じているので、まだどこのクラブにも所属していなかったが。

 ネネの提案に乗るかどうしようか迷ったが、他に訊ねる相手はいないしせっかくの友達の勧めだ。

 放課後に付き合うことにして承諾することにしたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る