ちゃっちゃと撃て──

 ところかわって──。



 カッポ、カッポ……と、蹄の音も滑らかに、隕石孔の縁に整列した騎兵隊。

 

 カポポポッ!

 一騎が馬を寄せて女将校に話かける。


少尉ルテナン! 煙です! 爆発があった模様」

「見えてるわよー」


 双眼鏡を構えた女将校は、しかとフォート・ラグダを視界に収めていた。


 彼女の視線の先──。

 煙が出ているのは、正面の門付近。


 おそらく、ダイナマイトで爆破して突破したのだろう──と、当たりをつけた。


 そして、要塞周辺に散らばる複数の遺棄死体の様子から、戦闘があったのはついさっきのことだとわかった。

 なにせ上空を舞っている禿鷹はげたかどもはまだ餌にあり付いていない。

 死体をチラリと一瞥し、再び要塞内部を観測する。


「あらー? ……見た顔ね」


 視線を走査していくと、

 要塞の中心付近で、外の武装集団を率いる男と──一人の少年が向かい合っている。


 確か……あの男の表情には見覚えがあった。

 同時に女将校の部下も気付いたらしく、

「あの男は……──例の酒場にいた?」


「そうねー」


 酒場で軍曹と呼ばれていた男が『ガルム』を見付けた。


「まんまと出し抜かれたわー。ま、荷車引っ張ってちゃ牛歩になるからしゃーないんだけどねー」

「なるほど、内偵か何かで潜り込んでいた保安官か賞金稼ぎですかな」


「多分ね。──あらやだ、人の話を盗み聞きするなんていやらしいわね」


 まったくです。と軍曹は肩をひそめる。


「それに、懐かしい顔だわー……ビリィったら、最近活躍してるのは聞いていたけど──」


 ──ここで会うとはねー。運命って奴?

 「なーんてね」と、一人で納得している女将校。


「ビリィ? ……例の賞金首ですな。たしか昔の──孤児仲間とおっしゃいましたね」

「そんなとこ……さて、」


 出し抜かれたという割に、特に悔しがる様子もなく、女将校は双眼鏡にて全てを確認する。


「ま、いいわ。どの道同じこと────ちょ~~っとばかし死体が増えるだけね」

「準備しますか?」

「お願いねー。小隊主力は私が直率するから、軍曹はパーティの準備を」

了解アイサー!」


 バシと、敬礼を決めた軍曹はすぐに背後に下がると、後ろに控えていた荷馬車や荷車隊に指示をし始める。

 全員軍人で総勢30名ほど。


 青い制服の、アメリカ陸軍騎兵隊。


 馬車の数は3つ。それぞれ2頭立てで曳いている。

 そして、更に馬車というより──荷車が2つ。それは布で覆われているが……なんだろう?


 妙な出っ張りの突き出した……あの形状は──。


 その荷車に兵を取りつかせつつも、テキパキと指示をしながら二つの梱包を解いていく軍曹。


 部下の動きに満足げに頷くと、それを尻目に女将校は騎兵を呼び集める。

 軍曹ら馬車の行者やらを除いて、女将校を含めて約20騎が彼女の下に集結する。


 カッポ、カッポ──と危なげなく整列する隊列を満足そうに見た女将校は、



傾注アテンション!」



 ガガガン! と、将校の号令に意義を正す兵士たち。

紳士の諸君ジェントルメンさぁレッツ、お仕事しましょうか・パァリィー?」


「「「了解、隊長イエス、マム!」」」



 バババババ、ビシィィ!


 と揃った敬礼を受けると、それはそれは一層綺麗な笑顔をもって返礼。


「軍曹の準備が整い次第、突撃開始────らっぱ手は号令の準備をして。さぁ……盛大に行くわよー。捕虜は──」

「「「必要なしジェノサイド!」」」


「……よろしいグッドメェン


 ニッコリ──。


 キラキラと輝く金髪が風に泳ぐ。

 まだ若いというのに、この女将校……凄まじい統率力である。


 更に見事な馬術で、カポポッと馬首を正面に巡らせると、一気に駆け降りんとばかりに眼下を見据え──。



 軍曹の準備・・・・・とやらを待つ。



 すると、場の雰囲気が整ったのを見計らったように、

 ビュウゥウウゥウ~……と一陣の風が抜けた──。


 そこに、

 ヨロヨロと巫女シャーマン装束の老婆が女将校達の下へ近づいてくる。


「やはり戻ったか……白き悪魔たちよ──」


 その様子に、兵の一人が銃を構えようとするが──女将校は手で兵を制すると、

「あらまあ、お祖母ちゃん……なにか用かしら?」


 話せと促す。

 非武装であることはチラリと確認していたようだ。


「あの要塞が欲しいか? 悪魔ども。大地の精霊グレートスピリットは猛り狂っておるよ。男どもの犠牲では足りんと、な」

「あらー? 先住民の予言って奴? ふふふ、これから何が起こるのかわかるのかしら?」


 さも興味深いと、女将校は言うが、


「浄化よ──貴様らのけがれた魂と穢された大地は、大地の精霊グレートスピリッツにより、浄化されるのよ」


 ハハハハハハハハハハハハ、とガラガラヘビの尻尾の様に耳障りな声で笑う老婆。


 しかし、女将校は特に気にした風もなく、


「浄化ねー……」


 フ、と顔をほころばせると、


「その言い方なら、元の大地は清浄で、住んでいた貴方達も清浄だったという事かしら?」

 女将校の言い分に、「あぁん?」と怪訝な顔をする老婆。


「くっだらないわねー……この世はすべからく・・・・・クソなのよ……綺麗もけがれもないわよー」


 そうよ、全てがクソまみれ。

 み~んな、クソまみれ♪ フフフフフ──と、乾いた笑みを浮かべる。


「な……にを、言うておる?」

「私達がけがれていて貴方達が清浄だなんて……誰が決めたの? 神? 大地の精霊? ……それともアナタ?」


 ウフフと、口元を歪めた女将校は、意地が悪そうに詰問する。


「もちろん大地の精霊グレートスピリッツじゃ」

「あらそー? なら大地の精霊さんとやらは──」

 

 随分と美醜・・・・・の感覚がおかしい・・・・・・・・のねー、と締めくくる。

 

 そして、

「人間は総じてクソなのよ。この世界も、──私もアナタも、ね」


 シュランッ! と、腰のサーベルを抜くと頭上に構える。

 斬られると思ったのか、老婆は身を固くするが……。


「見てなさい、これから人間に何が詰まっているのか──教えてあげる」


 スっと、

 剣先をフォート・ラグダに向ける。


総員オールメン突撃準備・シャルウィダンス


 ブワリッ! 闘気と殺気が高まる──。

 そして、その介添かいぞえたる準備が出来たと軍曹が告げる。


少尉ルテナン! 準備完了タリホー!」


 あら? イイ子ね──。


 バシっと敬礼をした軍曹が報告。


 それに対し、

 答礼してから、ニコっと微笑み返すと、





 じゃ──。




ちゃっちゃとトゥインキィ撃てっファイア










 ──ずどぉぉぉぉおおおおおん!




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