第2話「アウトロー勇者」


 いつものギルド。


 陰鬱いんうつな空気が漂うそこに、闖入者ちんにゅうしゃが現れた。


 そいつは──。


 バァン! と、勢いよくスイングドアを開けると、ズカズカと無造作に進み。

 迷いなく、一直線にギルドの中央に進み出ると──何気なしに、


 軽~く言った。


「いよぉ! 皆さん、お元気かな?」

 バサリと、埃っぽいローブを払いのけると姿を見せる。


 その陽気な声と共に登場したのは──。


 東海岸の冒険者ギルドの刻印を鎧に刻んだ精強な顔つきの男。


 自信に満ち溢れた顔は不遜ふそんそのもので、

 そして、あまりにも有名に過ぎるその人物。


 そいつは、かの高名なる勇──……?



 ガタ、ガタガタッ!



 突然の闖入者に思わず立ち上がった何人かの冒険者と、ギルドの職員。

 彼らはその人物を知っていた。

 そして、驚きと恐怖の混じる声で、口をそろえて言う──。



「「「勇者アレス!?」」」

 

 その声を皮切りにしたように、街の方で悲鳴が上がった。


 「ご名答!」と陽気に言ってのけるアレスの表情とは打って変わって、

 キャー! という悲鳴が街のほうで響きわたり──たちまち不穏な気配が立ち込める。


 それと同時に、どこかで何かの魔法が炸裂している音と、鈍器による破砕音。

 そして、逃げ惑う人々の声と同時に、神経を逆撫でするような高笑いが外から響いてきた。


 しかし、そんな様子など知っている──とばかりにくだんの勇者アレスは陽気な様子を崩さない。


「やーやーやーやーやー……中央部ウェストワールドにお住まいの蛮族さん、ゴブリン退治にお困りのようで──」


 懐から出したギルド発行の依頼書を見せつつ、


「──そんなこんなで、ゴブリンごときに困っているカモ・・…………もとい、哀れな人々がいると聞いてさんじてあげたよ」

 ピッと、依頼書を投げ捨てると、


「そんじゃ、ま──」


 チョイチョイ、と手で合図。

 ドカドカと入り口から入ってきたのは、街でかっぱらってきたと思しき食料や酒、それに少女を担いだ戦士風の偉丈夫。

 そいつはオリハルコン製の斧に、竜麟の鎧を身に着けている。


 よっこらせっと大儀そうに入り口から入ってきたのは、家禽にわとりやら、住人剥ぎ取ったらしき衣服と若い女性を腰に抱えた魔法使い風の老人。

 世界樹の幼木から作った杖に、リッチ死霊術師の衣を仕立て直したローブを纏っている。


 「ねーねーねー」と宝石やら金貨の入った袋を抱えたながら勇者アレスにしな垂れ・・・・かかるのは僧侶風の美少女。

 神聖魔法の祝福を受けた錫杖しゃくじょうに、フェニックスの羽を織り込んだ神官服を着こんでいる。


「全員揃ったところで……はい、皆さーん。ギルド中の有り金を全部──よ・こ・し・な」

 ニカッといい笑顔。


 そして、シュランンン! と『聖剣』と呼ばれる業物の大剣を引き抜いて威嚇する──。


 だが、

 当然ながら…………。




 ふ──────、


「「「「「ふざけんなぁ!!」」」」」




 とたんに蜂の巣をつついたような騒ぎになるギルド内。

 ここには無防備な町人だけがいるわけではない。なんといっても冒険者ギルド。町一番の荒れくれ者がつどう場所だ。


「アレスぅ……面倒だから2、3人やっちゃえばー」


 物騒なことを言う神官少女にアレスは、

「あっはっは。メリー……ほっといても向こうからくるよ、っとぉ──ベルン!」

「オデ、……戦う」


 いきなりの闖入者に驚いたとは言え、腐っても冒険者ギルドだ。武装した冒険者の巣窟である。

 その中でも動きのいい数名の冒険者が得物を引き抜いて、4人に一斉におどりかかった。


 しかし、

「ふん!」

 ベルンと呼ばれた戦士が斧を一閃。

 ──ブッシャァァァ! と、鮮血がほとばしったかと思うと、斬りかかった冒険者が爆発したように、真っ二つに胴を叩き切られて床と天井にぶち当たる。


「あんまし殺すなよーベルン……」

 興味もなさそうにアレスは言うと、

「次、ファマック」

「ほいほい……呪印結界!」

 ドン! と杖で床を叩くファマックこと、魔法使い。


 叩いた杖を中心として、ジワジワと文字のようなモノが広がっていったかと思うと、


「な!?」「ま、魔法が──」「火球! 水球! な、なんで!?」


 近接職の援護のため、魔法を放とうとしていた冒険者たちが焦りを見せている。そのうちの数名は突然気分を悪くしたかのようにガクリと膝をつくと、ブクブクと泡を吹き始めた。


「お! おいどうした!?」

 近くの冒険者が助け起こすが──、


「カカカカ! 呪印発動時に無理に魔法を使うからそうなる……呪いで地獄の苦しみを受けておるよ……そして死ぬ」

 ドサリと力の抜けていく数多の魔法の使える冒険者。


「もういいかい? 面倒なことはしたくないんだ。さっさと降伏しな──」

 言い終わる前に、

 シュパン! と切り裂く勇者アレス。……何を?


「ぐぁあああああ!」


 血を吹き出し倒れたのは、死角をたくみにって接近していた副ギルドマスター。

 元は凄腕の盗賊だったらしいが……「カハカハッ」と息も絶え絶えになり血だまりに沈んでいく様子を見ていると、その片鱗などうかがいようもない。


「おや? おやおやぁ、このギルドの偉いさんだ。メリー」

「はーい──……神聖回復ホーリーヒール!」


 パアァァァァア! と光の粒子が副ギルドマスターに集まったかと思うと、


「な? ああ!? き、傷が──」


 副ギルドマスターの切り傷が見る見るうちに回復し、……し? モリモリと傷口がふさがり────更に膨れ上がっていく。

 それはもう、どんどんどんどん……。


「なななな!? ひ、ひぃ! ヒデぶ……やめ! ブハッ!」

 ボン!!!


 ベチャベチャベチャ……と、回復した傷口から盛り上がった肉の塊が副ギルドマスターを吹き飛ばした。



「「「「「ひぃぃいぃいい!!」」」」」



 たった数瞬の戦闘で、全ての冒険者とギルド職員が戦意を失った。


「──……はい。しゅーりょー……。じゃ、サクサクお金を吐き出してもらおうか」



※  ※



 ひー、ふー、みー……。


 ガチャガチャと積み上げられた冒険者の装備。

 その幾つかは、ベッタリと血が付着しているが全く構う様子のない勇者アレス一行。


 逆らった冒険者は、残らず武装解除されていた。


「おー見ろよ、薬草しかねぇぞ」

「あんじゃこりゃ……マジックポーションSしかないわい……」

「ねーねー、コイツいいものもってるよ! ──って、さっさと手ェ離しなさいよ!」

「チッ……湿気しけてやがんな…!」


 冒険者の装備をまきあげるだけにとどまらず、

 ガチャン、パリーン──と騒々しい音を立てて、ギルド内やら近くの民家を漁りはじめる。


 遠慮なんぞありません。──とばかりに武器屋に並んでいた銅の剣やら、革の盾、ヘッドギアなんかも洗いざらい異次元収納袋アイテムボックスに放り込んでいく。


 あらかた街の商店やら民家を漁りつくすと、盗品とさらってきた少女たちをドカドカとギルドの広場に積み上げる。


 当然、そんな狼藉ろうぜきが見逃されるはずもなく、

 冒険者だけではなく、街の自警団も途中で反撃してきたようだが──あっと言う間に返り討ちに会い殲滅されてしまった。



「これじゃ、交通費馬の餌代にもなんねー……」



 不機嫌そうに盗品を鑑定しているアレス。

 その一方で、最初は抵抗していた冒険者も、今やボッコボコに顔をらして、酒場の方で大人しくちぢこまっていた。

 運のいい冒険者は、反抗さえしなければ当面は無視されているようだ。


「チッ……ガキどもを見繕みつくろって奴隷商人に売り飛ばすしかねぇな」

 ズカズカと少女に歩み寄ると、無造作に髪を掴んで見定める。

 グィっと、持ち上げ「はぁ、痩せっぽっちばっかりだな……」そう言ってつまらなそうに、足蹴あしげにする。


「あー……マジで湿気しけてんぜ! おらぁ! 酒と食いもん準備しろぉ!」


 一通り盗品を確認し終えたアレスは、仲間をともなって酒場に乱入する。

 逃げようにも、行き場のない冒険者とギルド職員はビクビクするばかり。

 一応、平静をよそおうつもりなのか、普段通り酒を飲んだり盤上遊戯を楽しんでいるようにも見せている。いるが……、全員体をガタガタと震わせていた。


「(ど、どうする……!)」

「(どうもこうもねぇよ! 大人しくしてるしかないさ)」

「(こ、殺されるぜ! 他の連中みたいによぉ)」

「(オメェら黙ってろ。奴らは平均レベル30越え。ここの誰が束になってもかなわねぇよ!)」


 ヒソヒソと、顔を寄せ合い身の不運を呪う冒険者とギルド職員たち。


 歯向かわなかった冒険者も、目立つ武器は没収され──ほとんどが非武装。

 ナイフ程度は見逃されていたが、軒並み……剣や盾は没収されていた。


 そんな冒険者にアレスは、

(けっ、腰抜けどもが──!)

 青めた顔で震えている冒険者連中を眺めて、満足そうな笑みを浮かべるアレス。


 アレスは内心雑魚を見下みくだして随分気分が良かった。だが──。


 …………。


「ん?」

 いつもの手慣れた強盗。そんな中の見慣れた光景。

 だが、少し違う点が一つ。


「グオー、ゴオー……」「ンカー、カー……」


 違和感の正体は、すぐ近くのテーブルで眠りこけている二人。


 臆病な冒険者どもの様に、狸寝入りウソ寝でもしているのかと思ったが……。

 どうも本当に寝ているらしい。

 ──さすがに深い眠りではなさそうだが、ガタガタ震えている冒険者とはどこか違った。


(なんだ、こいつら?)


 この辺では珍しい恰好をしており、武装もロクなものではない。

 パッと見で、剣や杖を持ち合わせていないのだ。

 その軽装過ぎる格好ゆえ、冒険者ではなく……もしかして、ただの放浪者かもしれない。


「へ、危機感のねぇ野郎だ」


 肩をすくめて気にしないようにすると、アレスはふんぞりかえる。

 そして、酒場を経営する一家に大声で、飯と酒を持ってこいと命令した。


「アレスぅ、ここで一泊ぅ?」「オデ腹減った」「ヒヒヒ……うずくのぉ」


 アレス以外の仲間も集まり、酒場の中央のテーブルを占拠して威圧感を振りまく。


 ほどなくして、

「ご、ご注文の品……です」


 ヨチヨチと歩きながら、盆にのった水と匂いのキツイ酒を配膳してきたのは獣人の少女……とういうかまだ幼女だ。


 可愛らしい尻尾がピンと立って緊張しつつも、存外しっかりとした足取りである。

 パッチリとした目が可愛らしい、将来有望な幼女である。


 それを、ひどく心配そうな目で見送っているのは、獣人の中年女性……母親らしい。


「ありがと」

 ニコっと笑いつつも、表情に暗い影を纏ったメリー。


「あっ!」


 突如ヨロリと姿勢を崩す幼女。

 ニヤリとわらった表情のメリーが、どう見ても隠す気のない様子で足をかけていた。


 イチャモンを付けて、幼女をいじめる気満々なのだろう。


 幼女は転倒。あわや、水と酒をブチ撒けて大惨事────。




 かと思いきや、



「──ヘイ。気を付けな、……小さな女神ちゃんリトルヴィーナス

 トトトンッと、器用にも空中でそれら全てをキャッチして見せた男がいた。


 不思議なバランス感覚で、水、酒、料理……それらが入った容器を盆の上へ。

 足の先や肩も使って、残りのカップも危なげなく掴んで見せた。


 その早業はやわざにアレス一行も目をく。


「すげぇ……」

 アレスの呟きは、自然と口をついて出た。


 勇者をうならせるほどの凄技を見せたのは……さっきまでもう一人と眠りこけていて、アレスに「危機感のねぇ野郎」とひょうされていた男だ──。


「お嬢さんも大丈夫?」


 トンッと、メリーの前に水の入ったコップを置き、ゼロ距離に等しいところで目をあわせて笑顔を一つ。

 ──キランと歯が光る。


「あ、あぅ、あああありが、と」

 予想外の出来事に、アウアウと返事を返すメリー。

 

 早業にも驚いたが、

 何より……その男が物凄く美形だったからだ。


 中性的な顔立ちに、少しだけ褐色肌。深く黒い瞳にサラサラの黒髪。

 まるで、宗教画にでてくる神に祝福された少年のような美しさだった。


 ポーっと見とれるメリーの頬に軽く触れて離れると、

「はい。気を付けなよ、小さな女神ちゃん」


 盆と料理を獣人の幼女に返すと、同じように見つめて頬を撫でる。

 とたんに真っ赤な顔になってうつむく幼女に、メリーはムッとした感情を覚えた。


(何よあれ!)


 自分が美しい女性だから、彼のような美形が目を向けてくれたのだと思ったメリー。だが、男の軟派な様子を見て途端に機嫌が悪くなる。


 フン! と鼻をならして水をガブ飲みする。


(いいわよ! 私にはアレスがいるもん!)


「ビリィ……大人しくしてろ」


 深くしわがれた声がメリーの思考をさえぎる。

「お!? なんだなんだぁ? ギャハハハ……オッサン──ひでーざまだな!」


 ヒデ―ざまと笑われた男は、深く腰掛けて居眠りをした格好のまま、

「チ……」

 舌打ちを一つ。頭にかぶっていたつば付きの珍しい帽子を脱ぐと、……そこに乗っている料理の入った皿をどけて中身を払った。


「オメェがこっちに投げたんだろうが……──」


 バレてんだよッ! と、凄んだ声を上げる男にビリィと呼ばれた少年は悪びれることもなく、笑い続けている。


「うひゃははは! 不可抗力だよ、不可抗力。うひゃははは!」


 そのうち笑うのに飽きたのか、「メンゴメンゴ」とか言いながら、びのつもりなのか酒を注ぎすすめる。


 男は少年をジロリと睨み付けるのみで、それ以上追求しなかった。


 全員がビビりまくっている中、コイツらの態度と来たら……




「おい、テメェら───」




 と、アレスが言葉を発する前に、「きゃーーー!!」と悲鳴が上がる。

 何事かと見れば、ファマックの奴が、酒場の中年の女将を引き倒していた。

「ヒーヒヒヒヒ! ええの、ええのー……熟女で人妻! たまらんのー」


 いやらしくも、首元をベロベロと嘗め回していた。


 娘を見ても分かる通り、中年とは言え酒場の女将も美しい女性だった。


「ほれほれ、ひょほほ~……!」

 やたらとハッスルするファマックは、彼女に高度なプレイを要求し始める。

 彼女は犬の格好を取らされ、口だけを使って酒を作れと命じられていた。


 ファマックが氷魔法で作った粗末な氷を渡され、それをカップに咥えて入れるというもの。

 さらには同じく口で咥えた酒の入った瓶で給仕……。

 だが、たっぷりと酒の入ったそれが簡単に口だけで持てるはずもなく何度も倒しては床に零している。


「ひひひ! 粗相そそうじゃのー、ほれほれ綺麗にせんかっ!」


 下品に笑い、それを舐めて綺麗にさせるのだ。


「元気な爺さんだ……」

 アレスの呆れた声。

 冒険者連中はうつむいて我関せずを貫く──。それを見て、アレスは気分の高揚を感じるが、少し違和感も覚えた。


 違和感──チラリとさっきの二人組を見ると……まったく興味がなさそう。


 二人とも、安い酒をちびりちびり舐めつつ、うつらうつらと酩酊めいていしている。


(チッ……)

 

「お、お母さん……」

 ブルブルと震える獣人の幼女が、床に這いつくばる母親の酒瓶に新しい酒を注ぐように命じられた。


「も、もうやめてぇぇ!!」

 ただ、酒を舐めとらせているだけでは飽きたのか、老人とは思えない膂力でファマックが女将を担ぎ上げる。

 「キャー!」という鋭い悲鳴もスパイスとばかり、──ファマックは女将をテーブルに押し付けた。


「ひゃひゃひゃ! もう、辛抱たまらんわい!」


 悲痛な声を上げる女将の姿に、周囲の冒険者が顔を歪めるも、アレス達の視線を恐れて下を向く。


 相も変わらず空気を読まないのはさっきの二人組だけ。


「ふわぁー……ビリィ、注げ」

「んあっ? へーへー御代官さま、なんなりとー」


 ビリィは適当に片手酌で、ドッポンドッポンと酒を注ぎつつ、自分はローストしたナッツをポリポリ。


「オッサン、その干し肉とって──」「オッサンは止せ」


 オッサンはオッサンで、コン──と、干し肉の入った器を弾いてビリィに寄せる。


(こ、コイツら!)


 あからさまに無視する態度を見て、顔を歪めるアレス。


 ビビりの冒険者とは違い、アレス達を恐れない様子に流石さすがのアレスも苛立ちがピークに達しようとしていた。


「や、やめてぇぇぇ!」

「ひゃっひゃっひゃ!! 回春じゃ回春!」


「げ、元気なじいさん……じゃ、お、おおオデは、」


 ファマックの様子を窺っていたベルンがニタァと下卑げびた笑みを浮かべる。


 「お母さん! お母さん!」と、あられもない恰好になった母親を呼び続ける娘。

 そのいたいけな・・・・・様子に……、


「お、お嬢ちゃん……ヘヘ……いくつだい?」

 ニチャアアとした笑みで、ベルン股間をギンギンにさせて母親に縋りつく幼女に迫る。


「ひ……!」

「何ちゃい?」


 気持ちの悪い赤ちゃん言葉を、ガチムチの男が喋る……実に醜悪だ。


「い、…む、むっつ……」

 それでも、両親の教育がいいのか気丈にも礼儀正しく答える幼女に「ギヘヘヘ」と、いやらしい笑いを上げるベルン。


 さすがに、冒険者のうち何人かは止めようとするも、仲間に押しとどめられる。

 酒場にたむろする娼婦が慌てて仲裁に入ろうとするも、ベルンに弾き飛ばされてしまった。



 中年美人女将にも、妖艶な娼婦にも、誘拐した少女達にも、美少女神官にも欲情しないベルンは──……、


 実に哀れな性癖を持っていたらしい……。



「おい!!」

 そこで初めて仲間に声をかけるアレス。さすがに、やり過ぎと判断したのだろうか──



 …………。



「ベルンほどほどにしとけよ」


 


 全然違いました。


「大丈夫だぁ──ご、壊ざないよ……あ、壊れるかも?」

 首を傾げるベルンに、


 ──って、それじゃダメだろ!


 酒場中の誰もがそう突っ込んだ時、ベルンは幼女に魔の手を伸ばす。


「いだぐない、いだぐないよ……あ、ちょっどいだいがも?」

「ひ……ぃ、ぃや!」


 獣人の特徴である尻尾と耳をペターンと引っ込めて、全身で怯える幼女。



「や、やめて! 娘にはぁ!! あああ!」



 悲痛な母親の叫びに、厨房の奥で肉切り包丁を手に今にも飛び出しそうな父親──。


 歯噛みする彼の様子と、今まさに悪徳勇者達の毒牙にかけられようとしている親子。


 貞操の危機ッ。

 ──それでも、誰も助けない。……助けられない。


 仲間の様子と、哀れなギルド内部の様子を見て、ゲラゲラと笑う勇者。


 それは、まさに────、











「……やめろ」





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