第62話 奴隷と神官(試作)
※暴力的表現があります。
奴隷は憤った。
二度も主を奪われた事ではない。
主が心から願っていた平穏を断たれたからだ。
口から血を吐いて、床に滑り落ちた主を奴隷は見下ろした。奴隷が医師を呼ぶ間もなく、激しく震えた後、息絶えた。毒を盛られたのだろう、木のコップが石畳を転がり、石柱にぶつかるのを虚しく見つめる。
主は、頭のてっぺんから爪先まで、石膏のように白い肌に、黒い衣に身を包んだ男だった。苛烈な性格に似合わぬ美貌により、多くの欲望の捌け口とされてきた。
主が恐怖心ゆえに敵を作り続けても、奴隷は関心がなかった。いつか報復にあって命を落とすだろうとさえ思っていた。
戦いさえもたらしてくれたら、主がどうなろうが奴隷は興味がなかった。主は奴隷に戦いを与える、そういう契約だったから。
けれど、主の言葉が頭から離れなかった。
死んだあとも、肉体を弄ばれるのが恐ろしいと主は言った。何かの間違いで、魂が身体に舞い戻ってしまったら、耐えられないと――
ただ奴隷の脳裏に、何の表情も浮かべずに話す主の横顔が思い出された。両の指先が小刻みに震えていたことも、夕日に照らされた肩が岩のように強ばっていたことも、よく覚えていた。
奴隷は、部屋の外からの殺気に、腰の剣を抜いた。
主が死んだ後に遺骸を回収するために、何者かが嗅ぎ回っているのだろう。
主や奴隷のような、肌白く異様な色目の人間は、より効果の高い呪術の犠牲に喜ばれる。
呪術者の犬どもにくれてやる肉など無い。
赤い目が暗闇に光る。かつん、と硬質な足音が襲撃者を威嚇する。
私はこれから、主の葬儀を行わねばならない。
主の魂が肉体に戻らぬように、主の信ずる神の元へ送ってやらねばならないのだから――
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