エクストラエピソード

ディスタービングトゥルーパー

「アンドロイドだっけ? どいつもこいつも無個性だな」


 男はモニターを眺めながら言う。


「当然だ! アンドロイドの人間情報は全てゼノを基準に作られている、言動や仕草が似ているのはそれが原因だ」


 その場にはもう一人、アンドロイドに押さえつけられている男がいた。


「だが、今お前を押さえつけているアンドロイドは少し性格が離れすぎているんじゃないか?」

「こいつは、ブリッツのデータを元に作られているんだ、ゼノとは別人だ!」


 余り抵抗を見せずに答える。


「さあ! 私が知っている事は話した! もういいだろう!」


 男が叫ぶ。


「ネシア本部局長!」


 そう叫んだのはアンドロイドを管理しているアルビオンという人口AIだ。しかし、今目の前にいるネシアを押さえつけているアンドロイドの制御は出来てはいない。


「ブリッツ! ネシア本部局長ヲ離シナサイ!」

「無駄だよ」


 男の言うようにブリッツと呼ばれたアンドロイドはアルビオンの命令を聞く事はない。


「さて……あんたには最後にもう一つだけやって貰う事がある」


 そう言って男は懐から一つの物体を取り出す。


「それは?」

「あ? 知らないのか? 初代は熱心に調べてたみたいだが」

「初代だと!? アルノウスが一体……」


 言い終わる前に男は取り出した物体をネシアに突き刺す。


「あっあああああ!」


 苦しいとも痛いとも取れる感情がネシアを襲う。

 それだけではない、人間のあらゆる負の感情が一度にネシアを襲う。

 そして、瞬時にそれは消える。収まるのではなく、消えたのだ。


 いつのまにかブリッツの押さえつけも無くなっており、身体に違和感を覚えながらも、ネシアは顔を上げた。


「うわああああ!」


 ネシアが見たものは自分。

 自分自身と全く同じ見た目をしている者。

 鏡と言っても差し支えない程同じだった。


 ただ違うのは、そのネシアは本物よりも、邪悪で、まるでネシアから負の感情だけを全て抜き取ったかの様な存在だった。

 ネシアも違和感の正体を確認する為に口に出す。


「そいつは私の……」

「その通りだ!」


 待ちきれないと言った様子で男は喋る。


「奴の……アルノウスのトゥルーパーに対する探究心は相当なものでな、ここに書いてある事はほぼ全てあっているんだよ」


 男の手には『トゥルーパーについての調査報告書』と書いてある一枚の資料が握られていた。


「そんなもの何処を探しても……」

「見つからないよなあ! 俺が全部処分したからな!」


 男は手を叩いて大笑いする。


「その資料と今やった事に何の関係がある!?」


 ネシアが男を睨みつけながら言う。


「まあまあ、そう焦るなよ」


 なおも笑いながら言う男が徐ろに資料を読み始める。


「えー、何々? トゥルーパーに死という概念は無い。ヒュー! 正解だ。んで、次に対象者が死んだ場合にはトゥルーパーも消滅する……これも正解だ」


 男から笑顔が消える。


「このルールが非常に厄介でな、どうしようかと悩んでいた時に丁度いい案が浮かんだんだ、向こうの世界で」

「向こうの世界!? まさか科学の」

「勘がいいな、正解だ!」


 男がネシアを蹴り飛ばす。

 次の瞬間男の横にいたもう一人のネシアが男に襲いかかる。


「ほら、この通りだ! アルノウスの予想通り、本来トゥルーパーは対象者を守ろうとする」


 男は片手でネシアのトゥルーパーを投げ飛ばすと、話を続ける。


「だが、それもトゥルーパーの本来の目的では無い」

「ゴホッ……トゥルー……パー」

「まあその話は別にいいか」


 男は咳払いをする。


「オルギアって言ったかな? この機械なんだけどな? なんとある程度の適性があれば誰でも魔法が使えるって代物なんだ!」


 男はまた新たに懐から一つの機械を取り出す。


「オルギアも一つ一つ魔法の内容が違ってな、このオルギアの中身は『事実改変』の魔法が入っている」

「お前、まさか!」


 ネシアには男が何をしようとしているのか分かってしまった。

 男がやろうとしているのはトゥルーパーのルールの改変、対象者が死んだ場合トゥルーパーも消滅するという事実を無かった事にしようとしていた。


「魔法の発動にも効果に比例して魔力が必要になる、事実改変なんざ大量の魔力を消費する。たが幸いここにはその大量の魔力があるだろう?」


 男はにやけヅラでアルビオンを見る。


「やめろ!」


 ネシアは決死の覚悟で男に飛びかかるが、直ぐに跳ね除けられる。


「はしゃぐなよ、黙って見てろ」


 男がオルギアにめがけ、起動と呟く。

 瞬時にオルギアは稼働しアルビオンの魔力を高速で大量に吸収し始める。


「あ、ああ、ああああ!」


 嘆くしか無いネシアを見下ろしながらまた笑う男。

 やがてオルギアは止まり、動かなくなる。


「ん? 何か変わった所は無いが、ちゃんと変わってるんだろうな」


 誰に言うでも無くぶつくさと文句を言う男。


「まあ、試してみればわかるか」


 男の手は形を変え、鎌の様な形になる。


「君もトゥルーパーなのか」

「正解だ!」


 正解のご褒美と言わんばかりに鎌を振り下ろす。

 鎌はネシアの心臓を一突きし、ネシアはそのままその場に倒れ込む。


「おお! 上手くいった!」


 男は歓喜の声を上げる。

 対象者は死んだのにも関わらず、ネシアのトゥルーパーは消える様子が無い。

 その結果に満足げに笑う男。


「アルビオン!」


 大声と共に一体のアンドロイド、イデアルがやってくる。

 突如部屋に入り込んできた人物に不快感を隠さずに男は言う。


「ノックぐらいしようぜ」

「なっ!? 誰だあんた!」


 見覚えのない人物に警戒するイデアル。

 次に周りを確認すると、ネシアが倒れ込んでいるではないか。

 一瞬で敵だと認識し、襲い掛かる。


「おっと! その判断の速さは良いね」


 しかし、簡単に吹き飛ばされてしまう。


「その判断の速さに免じてお前は見逃してやろう」

「くっ……」


 男はいくつか転がっているアンドロイドの中から、一体のアンドロイドを左手で拾い上げ、何か細工をする。

 するとアンドロイドが動き出した。アンドロイドの右腕には『P-2001-type-O』と書かれている。


「こいつの名前は……そうだなベルだ!」


 男の右手にはベルナンドが握られている、おそらくそれから捩った(もじった)のだろう。

 同時に、イデアルは自分が持っているベルナンドの事を悟られない様にする。


(こいつ、ベルナンドの事を知っているのか!?)


「さてと、俺もこれから自分の仕事を片付けなきゃいけない」


 そう言いながら、男はアルビオンを操作する。

 「まだ動くのか、すごいな」等と呟きながら操作し続ける。


「よし、これで晴れてベルもオメガの仲間入りだ」


 自分の仕事は終わったと言わんばかりにネシアのトゥルーパーを抱える。

 男は満足げにネシアのトゥルーパーを抱えたまま扉の中へ消えていく。


---


「なんだったんだよ……」


 圧倒的な力の差を見せつけられ、その場に立ち尽くすイデアル。


「いで……ある君?」


 ばっと振り返るイデアル。

 なんと、ネシアにはまだ息があった。


「おっ、おい! 大丈夫かあんた!」

「私はもう駄目だ……最後にこれを……」


 ネシアの手には一枚のメモリーチップが握られていた。

 イデアルがそれを手に取るのを確認した後、ネシアは息絶えた。


「おい! くそっ……」


 そのまま動かなくなったネシアを置いて、謎の男がしたようにイデアルも適当なアンドロイドにメモリーチップを入れる。


「お前はどうするんだ?」


 イデアルはその場に立ち尽くしているベルに向けて言う。


「俺は……」


 ベルはかなり戸惑っている様子で、何をするにも踏ん切りがつかない。


「なら俺と来いよ」


 イデアルの言葉に頷き、後をついていく。

 イデアルは『どうせ全部忘れる』とは言わなかった。


---


「はーっ! 怒られちった」


 何もない場所から突然扉が現れる。

 その扉から先ほど消えたはずの男が現れる。


「ネシアが本当に死んだか確認して来いってさ!」


 男は返事が返ってこない事を知っていながら、ネシアに向けて言う。


「やっぱちゃんと死んでんじゃねえか」


 ネシアの髪の毛を掴み大雑把に生死を確認する。


「はーめんどくさ!」


 そのままネシアの死体を投げ飛ばす。


「あ、いい事思いついた!」


 そう言うと男の姿はガンデスと同じ姿になる。


「楽しい事は一つより二つ、二つより三つだろ?」


 誰に確認するでもなく呟く男。


 こうしてこの終わった世界に一人のトゥルーパーが潜り込む事になる。

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