真20章「舞台裏」

 あれから数日後、ゼノ達はエデンへと足を運んでいた。

 相変わらず警備の一人もいない事にも慣れたゼノは躊躇なく中へと進んでいく。


「ちょっとゼノ!」

「大丈夫だ、どうせ誰もいない。アルビオンとブリッツ以外は……」


 ゼノを止めようとしてリリーが先に進む。


「おい! 待てよ」


 釣られてイデアルが、その後を警戒しながらガンデスとナーファが後を追いかける。


「ここって……」


 ゼノを追いかけて長い通路に出たリリー。

 見た目はかなり変わっていても、トラウマは直ぐに呼び起こされた。

 ――ここでガンデスが……。


 ゼノもリリーの様子に気づいてはいたが、あえて声を掛けない。


(これは自分で乗り越えなきゃならない……)


 ゼノ自身もまだ完全にはぬぐい切れていないトラウマを感じながら決意を固める。


「随分ボロボロだな」

「信号が停止しているアンドロイドが沢山……」


 トラウマが蘇るリリーに遅れてガンデスとナーファが現れる。

 昔馴染みと同じ顔をしている二人が、全くの別人、さらには人間ですらないと言う事は分かっていても安心する。

 リリーはなんとか平常心を保つことが出来ている。


「行きましょう」


 リリーがゼノに言う。

 ゼノも少し安心したと同時に気合を入れ直す。


(今回こそ終わらせる!)


 ゼノ達はアルビオンが居る地下へと進む。


---


「また貴方達ですか……」


 ゼノ達を待ち構えていたのは、うんざりといった様子を全面的に押し出すブリッツだった。


「諦める理由なんてないからな!」


 ゼノの様子を見てさらにため息が出る。


「アルビオン、あれを実行しましょう」


 ブリッツが『あれ』と言った直後、アルビオンがけたたましい雄叫びを上げる。


「ヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲ!」

「な、なんだこれ!」


 見ると、イデアル・ガンデス・ナーファの三人は酷く苦しんでいる様だった。

 対して、ゼノとリリーは五月蠅いと思うぐらいだった。


「どうしたんだ!?」

「この声は何!?」


 状況が呑み込めないままに、尚もアルビオンの雄叫びは大きくなる。

 耳が張り裂けそうな程の音に思わず耳を塞ぐ。


 こんな騒音の中、ブリッツは笑っていた。

 笑い声は聞こえないが、両手を広げ、笑顔で大きく口を開いている。

 ――いよいよ始まる。

 ゼノ達には聞こえていないブリッツの呟きは、アルビオンが騒音と共に放つまばゆい光と共に消えていく。


---


「はあっ!」


 ベットから飛び起きたゼノ。

 気が付くとアジトのベットで寝ていた事に疑問を抱く。


 確か俺はエデンに居たはず……あれは夢だったのか?

 自分の記憶を疑いながらも部屋から出る。

 皆が集まるリビングにはいつも通りの面々が座っている。


「おはよう、ゼノ」


 気さくに挨拶するガンデス。


「相変わらずの寝坊助ね」


 からかい半分で言うナーファ。


「今日はガーネアの護衛の日だぜ? しっかりしろよ」


 『護衛』という覚えのない事を言うイデアル。


「ああ、おはよう……」


 そうだった、今日はガーネア姫を護衛する日だった。

 重要な事を忘れていたなんて自分らしくないなと思ったが、考える。


 護衛ってなんだ?ガーネア姫とは?そもそも俺達はエデンに居たはず……。


「リリーはどこだ?」

「リリー? それならさっき外に出て行ったけど……」


 ゼノは慌てて外へ出る。

 何処だ?何処にいる?

 明らかに異変が起きている。

 ゼノは確信した、アルビオンいやブリッツが何かを仕掛けたのだ。


 (とにかくリリーと情報共有しなければ……)


 ゼノは走る。

 林の奥にリリーを見つける。


「リリー!」


 急いで駆け寄ったリリーの傍には見慣れない人間が一人。

 いや、よく見ると見覚えがある。


「オー?」


 その見た目はオーそのものだった。


「オー? 誰だよそれ」


 オーではない誰かが笑う。


「貴方知り合いなの?」

「ああ、前に話した仲間のオーだ。でも中身は違うようだがな……」


 アルビオンによって送り込まれていたのは明白だった。

 オーの身体を使い、仲間だと言い張る彼の名は『ベル』

 念のため右腕を確認するも、オーの識別番号と一致する。


「駄目だ壊せない……」

「壊せないって、ゼノもかよ! なあどうしたんだ? リリーもゼノもちょっとおかしいぜ?」


 おかしくなったのはこの世界の方だろうが!

 と、叫びたい思いを飲み込んで、ただ一言『ああ、そうだな』とだけ言い残し、ゼノはその場を去る。


「待って!」


 すぐにリリーに引き止められるも、ベルには聞こえない様に場所を変える。


「一体どうなってるんだ!」


 ゼノのイラつきはピークに達していた。

 リリーも答える事が出来ない。

 結局納得できる答えは出ないまま翌日を迎える。


---


「さあ、行こうか」


 ガンデスが戦闘に立ち、ノースク近くの村へと歩き始める。

 数時間後に着いた村は特に変な場所は無く、事前情報からただの護衛だと聞いていた通りの様だ。

 だが、二人が安心する間も無く自体は急変する。


 初めにナーファがガンデスにアーファルスの兵士がここに向かっていると伝える。

 ガンデスがベルに呼びかけ、村の入り口へと向かう。

 すると、先程まで慌てふためいていたナーファやイデアルだけでなく、村人までその場にいる全員が、生気の抜けた顔で動かなくなる。


「ど、どうした!?」


 いくらゼノがイデアルの身体を揺すってもびくともしない。


「こっちも駄目だわ……」


 同じくリリーも他の者に呼びかけても一切反応が無い。


「なんなんだよ!」

「しっ!」


 リリーはゼノを連れ物陰に隠れる。

 直ぐに何名かのアンドロイドがマーロウの付近にやってきたかと思えば、突然マーロウが動きだし、

周りの村人共々切り伏せていく。

 その中にはイデアルやナーファも含まれている。


「やめろ!」


 ゼノは思わず飛び出していた。

 マーロウの矛先は直ぐにゼノに向き、その剣先をゼノに振るう。


「はやっ……」


 ゼノはマーロウの剣技に為すすべなく倒れる。


「ゼノ!」


 リリーも思わず飛び出す。

 当然マーロウの剣技がリリーを襲う。

 リリーも反応する事が出来ず、その場に倒れ込む。


「ぜ……の」

「り……」


 やがてベルとガンデスが戻ってくる。

 二人はこの惨事を嘆くようにマーロウに襲い掛かる。

 そんな事を考える余裕もなく、リリーの元へと這いずるゼノ。


「りりー死にたく……ない……」

「ぜの……」


 少しだけリリーが笑って見せた。

 ベル、ガンデスとマーロウの戦いもマーロウの勝利で決着がつく。


 ゼノは薄れゆく意識の中で前にも見た事がある眩い光を感じながら目を閉じる。

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