真4章「軌道修正」

 -元の月第9日-


 ベルが目覚めると、そこには見覚えのない景色が広がっていた。


「目が覚めたか?」


 ゼノや仲間達が心配そうにベルを見つめていた。


「ガンデスとナーファは?」


 この部屋にいない二人の事を聞く。


「ガンデスは西と南の国王と会談している、ナーファは……」


 ゼノが言葉に詰まると仲間達も暗い表情になる。

 それを見てベルは悟ってしまう。


「助からなかったのか……」


 気を失う前の光景を思い出す。

 全てが光に飲み込まれていた。

 気を失う寸前の光景を思い出し戦慄する。


(あんな恐ろしい物が上位魔法と言われている光の魔法だと言うのか? あれは崇められてそうなったのではなく、恐れ故に今の形になったんじゃ……)


 自身の闇の能力とは比べ物にならなかった力に恐れを抱く。

 もし仮にあの力と戦う事になったら?

 考えただけでも嫌になる。

 あの大きさでここまでの力だったのだ、以前エデンの地下で受けたアルビオンの光も凄まじかったが、それとはまた違う衝撃を受けた。


「そういえばナーファの近くにいたガーネア姫も……?」


 ふと思い出し尋ねるが、答えは分かりきっていた。


「ああ、それで今ガンデスとノースク国王が話し合いしている」

「そこにパコイサスの国王まで参加して更にややこしくなってる」


 イデアルとゼノがベルに説明する。

 予想通りガーネア姫も巻き込まれていたようだ。


「ノースク側は姫様が死んだのは俺達が原因、あの巨大な奴も俺達が操っていたのではないのか、そもそも本当にそんな巨大な物体がいたのか……つまり自作自演じゃないのかって疑いをかけられている」

「そんな!何でそんな事する必要がっ……」


 ゼノの言葉に動揺を隠せないベルが吐血する。

 慌ててイデアルとリリーも寄ってくる。


「無理しないで、貴方は爆発の一番近くに居たのよ」

「二日間昏睡状態だったんだ、どっちみちロクに動けねえよ」


 イデアルとリリーから自分が二日間意識が無かった事を知る。

 リリーの言う通り、自分が一番近くに居ながら何も出来なかった、間に合わなかったというのが余計にベルを苦しめる。


 ――あの時少しでも巨大アンドロイドから離せていればもしかしたら助かっていたのかもしれない。


 そんな事は現実的に無理だと言うのは頭ではわかっていた。

 わかっていたが納得出来ない。

 責めても責めきれない、ベルは歯を噛みしめる。


「申し訳ない、少しよろしいでしょうか」


 ノースクの兵士が一人入ってくる。


「国王から2名ほど状況説明の為に来て欲しいと……」


 ベルは兵士の顔を覚えていた。

 マーロウだ、姫様を昔から護衛していた老兵士。

 その顔からは余り生気を感じられなく、無機質にベル達に伝達している。

 村での時とは違った生気の無さからどれだけ落ち込んでいるのかが伺える。

 悔やんでも悔やみきれないだろう。

 国王と同じようにガーネア姫が死んだのはオメガのせいだとも言いたいかもしれない。

 しかし、マーロウはそんな態度は出さずに、あくまで客として扱っているように思う。


「私が行くわ」

「俺も行こう」


 ゼノとリリーが名乗り出て、部屋から出て行く。


 部屋の中にはベルとイデアルだけになる。


「災難というには色々と不自然すぎるな……」


 イデアルが切り出す。


「お前も見ただろう?二体目のロボットが現れた時、明らかに何もない空間から現れた、おそらく」

「また魔法か……」

「そうだ、そうなんだが、四大元素とかあまりにかけ離れている、火でも水でも風でも雷でも無い。

名称を付けるなら空間転移とでも言おうか」

「アルビオンと同じ種類の魔法か、まさか今回のも?」

「ああ、同一人物の可能性が高い」


 確かにイデアルの仮説は正しい様に見えた、しかし、ベルは違和感を感じていた。

 もし仮に今回の出来事とアルビオンとが同一人物の仕業なら、それはブリッツでは無く、ループ設定を13日に変更し強引にループを発生させた何者かの行いではないだろうか?

 ベルはエデンでの出来事を伝えた上でイデアルの仮説を否定する。


「管理しているのは別人……正直見当がつかないな」


 話は振り出しに戻る。

 もしかすると、とイデアルが続ける。


「リリーが関係しているかもしれない」

「何故だ?」


 突然出てきた意外な名前に驚きつつも詳しく話を聞こうと身を乗り出したのがまずかった。

 弱り切っていた身体は自分の体重を支え切れなくなりベットからずり落ちてしまう。


「ベル!」


 慌てて助けようとするが間に合わず、ベルは固い床に身体を打ちつけることになる。

 鉄と鉄がぶつかり合ったようなと鈍い音が部屋に響く。


「おい大丈夫か!?」

「ああ、大丈夫だ」


 ふらふらになりながらも立ち上がろうとするが、なかなか立ち上がれない。

 イデアルが無理するなと言いたげに黙って肩を貸しベットに座らせる。


 考えていた以上に身体が動かない。

 そこまでダメージが大きかったのか?


 ベルが途方に暮れているのにもかかわらず話を続ける。


「リリーは爆発の時ナーファと姫様以外で一番近くに居たのはベルだといっていたが、俺が見た限りでは二人抜きで一番近かったのはリリーだ、間違いないと思う」

「は? じゃあリリーが嘘をついているって事か?」


 そんな事に対して嘘をつく理由が無い。

 率直な感想だった。

 しかしイデアルの顔は真面目で冗談を言っている風には見えなかった。

 そうだろうイデアル?と尋ねるのをやめる程に。


「本当にそうか?あの時俺達はロボットを倒す事に夢中で誰がどこにいるなんて気にも留めなかった。

リリーがいつの間にかナーファ達の方に向かっていたのだとしても気づけなかっただろう・・・」


 確かにあの時は夢中で、周りのことなど見えてなかったかもしれない。

 だとしても何をしにあの場を離れたのだろうか?


「もし本当にそうだとしても何をしにナーファの方に向かったんだ」

「それはわからないが、俺はあの巨大なアンドロイドとアルビオンの件が無関係とは思えない。

もしかしたらその二つを結び付けているのはリリーかもしれない」


 どうしてそうなるんだ。

 いくら嘘をついたからと言ってここまで疑われる程の事だろうか?

 それにイデアルの見間違いかもしれない。

 なんにせよ仲間を疑う事はしたくない。


「だがな、ベルの距離でそのざまだ。それより近くにいたリリーは無傷で、しかも一番最初に目覚めたのもリリーだった。ああなる事を事前に知っていたんじゃないか?」


 確かにあの時俺より近くにいたとしたら、ナーファと同じように死んでいたのかもしれない。

 だがリリーは生きている。

 ベルにはこじつけにしか聞こえなかった。


「いい加減にしろよ!リリーも奴らの仲間だってのかおかしいだろ! 今までリリーは8日目に何回も死んでるんだぞ!? リリーが敵だって言うんなら毎回裏切られている事になるぞ」

「だが今日は9日目だ、リリーが本当に敵じゃないのならもう既に死んでいるはずだ。

それこそあの時に……」


 それは挑発に聞こえた。

 お互い平行線をたどる会話にイラつきを覚えたんだろう。

 それはこちらも同じだ。


「ふざけるな!!」


 思わず手が出ていた。

 殴りつけは訳ではないが、身体のダメージの事など無かったかのように怒りで我を失う。

 殴るのも時間の問題だった。


 しかし、イデアルは胸倉をつかまれたのにも関わらず笑顔でこう言った。


「それだけ元気なら大丈夫そうだな」


(わざと怒らせたのか)


 そうと分かった瞬間怒りも収まる。

 やり方がめちゃくちゃすぎる。

 だがおかげで少しは身体が動かせるようになった。

 気合でなんとかなるとまでは言わないが、少なくとも気の持ちようというのは大事らしい。


「とにかく、お前は安静にしていろ。

それに今回は今まで通りに出来事が進んでないんだ、何が起こるかわからない気をつけておけ」


 そう言い残し、ゼノが部屋から出て行く。


「はあっ」


 ため息交じりにベットに寝直しながら再び眠りにつく。

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