ミズホ⑰
元からミズホに対しては、感謝はしていたが、尊敬はしていなかった。
酒はその人の人間性を悪くするのではなく、その人本来の悪の部分を表に出すだけだ。
「酔ってたごめん」
と言うのは本来成り立たない。
酔ってもだめなものはだめ。
酔って素の部分が出ただけだ。
酒に溺れ、もらったばかりのネックレスを相手の目の前でちぎる人間を、許容できる程、広い心は持っていなかった。
ネックレスをちぎった瞬間、俺は怒鳴ったりはしなかった。
「怒り・憎しみ」といった感情はなかった。
ただ、その瞬間、俺はミズホのことを一人の女、いや、人として見る事が出来なかった。
ミズホは色々なホストから見放されていた。
金を使うのに見放されるということは、それだけ精神的に耐えれないなにか問題があるということだ。
それはわかっていた。
しかし、俺はどこかにミズホに期待してたのかもしれない。
とはいえ、ミズホにも良い部分はあるだろう。
金を使う以外で。
しかし、ガッツリ裏切られた。
いや、裏切られてなどいないのかもしれない。
俺が勝手に期待して、俺が勝手に裏切られたと思っているだけか。
人類は人類に期待し過ぎている。
ヒトはヒトのことをすごいものと過信し過ぎている。
ヒトはそんな良くできた生命体ではない。
スティーヴン・ウィリアム・ホーキング博士を知っているだろうか。
「車椅子の物理学者」としても知られる。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)という難病のため、車いす生活を余儀なくされたが、数々の偉業も成し遂げている。
俺は、そんな彼のこのエピソードが心に残っていた。
宇宙についての研究も行っていた彼は、ある日記者にこんな質問をされた。
「人類以外にも、地球以外にも高知能生命体がいると思いますか?」
つまり、宇宙人はいると思うか?という質問だった。
「人類が高知能生命体じゃないよ。」
と、笑いながら言ったらしい。
その後に真面目に答えたそうだが、これはただのジョークではないと俺は思っている。
違うインタビューでも、
「人類は進化した猿にすぎない」
とも言っている。
実際そうなのかも知れない。
睡眠欲、食欲、性欲。
この3大欲求すべてに勝った人間を見たことがない。
むしろ、これで揉めてる人間しか見たことがない。
いまだに戦争をしている国がある。
この日本ですら、数百年前、数十年前には戦や戦争をしていた。
アメリカほどではないが、裁判も常に行われている。
人類などその程度の生物なのだ。
そのことを思い出したと同時に、ミズホに何も期待はしないと心に決めた。
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