売れないホスト物語

リニューアル⑤

セラが内勤か。　

確かに合ってると思う。

内勤の仕事は酒作り、ホストに着く席の指示、会計、片づけなど。

一番大切なのがホストへの席の指示。

「席回し」と言う。

内勤て楽そうだなと思ったこともある。

しかし、この席回し、とても大変だった。

俺が内勤になりたくないと思ってる原因の業務である。

掃除もやりたくなかったが。

席回しがうまくないと店は回らない。

「指名してるホストが全然戻ってこない。」

「好きじゃないヘルプ着けないで。」

「なんで○○は私の席に着いてくれないの。」

「さっきから新人しか私の席に来ない。」

客からクレームがくることはよくある。

全部席回しのせいにさせられる。

客からのクレームならまだよいが、ホストからのクレームも多い。

これはこれで鬱陶しい。

金を使ってる客、売れてるホストなら言う権利はあると思う。

しかし、売れてないホスト側からのクレームもしょっちゅうある。

こっちが厄介そうだった。

もちろん俺も含めてだが。

ホストをやってる自己中が言うことを素直に聞くわけない。

売れてない奴ほどその傾向が強い。

というか、売れてるホストの言うことは承認されるので文句もでない。

新人の内勤は文句ばっか言ってくる売れてないホストからのクレームも

売れてるホストからの要望も聞かなければいけない。

全て聞くことは出来ないので、売れてないホストが従うことになる。

ここで内勤の仕事力が出る。

同じセリフ、同じ言い回しでも相手によって意味が変わる。

言い方も大切だが、その発言に至るまでの過程も大事だ。

それは、人間関係など日々の積み重ねが大事だ。

その点セラはすごく内勤に向いてると思った。

プライベートはだらしないし、問題もよく起こす。

ダメ人間の典型的なパターン。

しかし、上司、部下からも信頼されてるし、客からの人気もある。

マスコットキャラクターみたいな存在だった。

異性として魅力はないが。

ヒカリとセラは仲が良かった。

俺はヒカリとちゃんと話したことがなかった。

なので、セラの内勤向きの能力を見抜いていたのだろう。

セラは情に熱く、義理とか人情といったものを大切にする。

店とか仕事ではなく、長年世話になったヒカリに着いていったんだろう。

「異動か…」

この店で売れなければホストを辞める気持ちだった俺は、新たな選択肢を見つけたような気がした。