episode 5

校門を出て彼は緩やかな坂を下ってきた。大きな通りまで出てバス停の時刻表を見ると、次のバスまでまだ10分以上あったので、彼は右手の交差点を渡りコンビニに入った。


いつものチョコバーを買おうと陳列棚を探したが、ちょうど売り切れてしまっているようだった。代わりに何か腹の足しになるものは無いかとその陳列棚を時計回りに回ると、パンの棚の前で両手に一つずつパンを持ってどちらにしようか悩んでいる彼女がいた。近づいていく彼に気がつかない彼女のすぐ横まで来て、彼は「左手に持っているやつの方が美味しい」と言った。


「うわぁ、驚いた。ちっとも気がつかなかった」と彼女は笑った。「私も左のにしようかと傾いていたところなの」と彼に言い、右手に持っていたパンを棚に戻した。

「ここで会うなんて珍しいな。部活の帰り?」と言う彼に彼女は頷き、二人並んでレジに向かった。彼女はレジの横にあるケースから温かいお茶を取り出し、それも一緒に買った。

「俺は肉まんにしよう」


二人でコンビニを出てバス停まで戻り、ベンチに座ってパンと肉まんを食べ始めた。


3口ほど肉まんを食べたところで、彼女がじっとこちらを見ているのに気がついた。

「たべる?」と彼がいうと、彼女は「うん。だってとっても美味しそうなんだもん」と笑った。

「じゃあ温かいお茶と交換ね」

彼は「一口だけだぞ」と言ってから、受け取ったお茶を飲んだ。

大きな口を開けて肉まんを食べ「うん、美味しい」と言うと、彼女はさらにもう一口食べた。


「あ、ずるい」と言う彼に「さっきの一口は交換したお茶の分」と彼女が言った。

「じゃあ今度の一口は?」と彼が問うと「間接キスの分」と答え、彼の目を見てにっこり笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る