episode 2 - 1 of 6
左脇に本を抱えて、彼女が廊下を歩いている。
休み中に何か読もうと放課後図書館に寄ってみたら、新しい本が入っていたので2冊借りてきた。
もう少しで教室の後ろの入り口にさしかかる頃、右目のふちがかゆくなったので、彼女は眼鏡の内側に人差し指を滑り込ませた。右目を閉じて目をこすりながら教室に入ろうとした時、飛び出してきた男子とぶつかった。
バランスを崩した彼女が伸ばした右手が眼鏡を跳ね飛ばした。尻餅をついた彼女の右手のすぐ横で、レンズの割れる音がした。彼の右足が眼鏡の左のつるの付け根を踏んでしまっていた。
「ごめん、大丈夫だった?」
と彼が差し出した手に引かれ、彼女はゆっくりと立ち上がる。
彼は年明けの席替えで彼女の斜め後ろの一番窓際になった。日頃あまり話をしたことはないけれど、休み時間になると友人達と楽しそうな笑い声をあげている。
「私は大丈夫。でも眼鏡が…」
そう言い終わる頃には、彼はフレームが歪んでしまった眼鏡と、いくつかに割れてしまったレンズをを拾い上げていた。
「本当にごめん。俺、弁償するよ」
「え、いいの?」
「ぶつかったのも踏んづけたのも俺だから。それに、今日はちょうどバイトの給料日だし」
「なんだか悪いみたい…」
「今からバイトなんで今日はダメだけど、明日眼鏡を買いにいこうか? 都合はどう?」
「明日は本を読もうと思っていただけだから… でも、本当にいいの?」
「うん。朝10時に駅前で待ち合わせでどう?」
「わかった。明日の朝10時、駅前で」
「本当にごめんな。じゃあまた明日」
そう言うと、彼は廊下を走って行った。
自分の席に戻り、2冊の本と壊れた眼鏡をバッグにしまった彼女は、ふと窓の外を見た。
ちょうど校門を走り抜けて行く彼らしき姿を見つけ、彼女は思わず笑顔になった。
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