第五幕 映画
「ねぇねぇ、今週末、映画付き合って」
週末の突然のお誘いは、多くは陽愛からもたらされる。
「今週末? いいよ」
「大丈夫」
「うん、私もいけるよ。けど、なに見るの?」
瀬里やえりが、由依の言葉に頷いてみせる。すると、陽愛はスマホを見せながら話し始めた。
「それがこれなの。『アドベンチャーズ』って映画」
「『アドベンチャーズ』? これってSF映画で、今人気あるやつだよね?」
「あれ、陽愛ってこういう系統の、しかも洋画って好きだったっけ?」
「洋画で好きな作品もあるんだけど、正直この系統は得意じゃなくて……。でもね、甥っ子がこういうのすっごい大好きで、『観て、観て』ってせがむから」
「あぁ、なるほど。陽愛ちゃんも大変だ」
えりが苦笑すると、陽愛も困ったように笑って見せた。
「ただ、一人で観に行くにはハードルが高いなぁって。だから、一緒に観に行かない?」
「うん、いいよ。ちょうど気になってて、私も観に行きたいと思ってたから」
「私もいいよ。そもそもこの映画知らないから、気になる」
「私も好き嫌いないから、全然オッケーだよ」
「わー、三人ともありがとう」
陽愛はとても申し訳なさそうに手を合わせて、謝意を示した。
週末。彼女たちの姿は映画館のエントランスホールにあった。
「私、映画館来るの久々だよ」
「私も。なんだか、綺麗になった……?」
キョロキョロと浮いた調子で辺りを見回す由依とえりに、瀬里は小さく溜め息をついた。
「少なくとも十年くらい前からこうだよ。て言うか、一年ちょっと前にも同じ場所来てるから。浮くから、見回すのやめて」
「ふふっ。雰囲気のせいかな? なんだか映画館ってドキドキするよね」
「陽愛まで……もう、チケット買いに行くよ?」
四人はチケットと飲み物、それからチュロスやポップコーンを買うと、案内に従って入場した。
しばらくして映画が始まると、四人は購入した飲み物や食べ物を食べるのも忘れて映画の世界に没入した。
「いやぁ、大迫力だったね……」
ようやく一言目、瀬里が口を開いたのは、映画終了後、入出ゲートから出て少ししてからであった。
「……フフッ、私ら、全員放心してんじゃん。しかも、ぜんっぜんポップコーン減ってないし」
「仕方ないよ、事実すっごい圧倒されたからね」
「これさ、例の4D何とかってやつだったら、もっと凄いんだろうね。私、心臓もたないや」
「そうだ、陽愛。観てみてどうだった?」
楽しげに盛り上がっている由依とえりを静かに見ている陽愛を見て、瀬里は話を振った。普段から白い彼女の肌が、放心しているからか、余計に白く見えた。
「んー、ちょっと疲れちゃったかな? でも、心地よい疲れ。この映画は、私、ちょっと好きかも」
「お、幅が広がった?」
「甥っ子ちゃん、喜ぶだろうね」
陽愛はえりの言葉にこくりと頷いた。頬はほんのり血の気が戻っていた。
―後日―
「ねぇねぇ、今度は『アイムブレイカー!』って言うのを――」
ノリノリで映画を勧める陽愛と、それにたじろぐ瀬里を尻目に、由依とえりが小声で会話する。
「これは陽愛ちゃん。さてはハマった……?」
「うん。絶対、甥っ子ちゃんからの紹介じゃない」
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