タンデムの行先は……
そのままミキ達は、一旦会社に戻っていた。
「あのミキさん。ごめんなさい。でも、万が一の為に……」
ミキは、チラッと弁解する浅井を見た。
言いたい事はわかるが、結局無駄になったのだ。
「いいわよ別に。警察は頼りになるものね。私、七時ぐらいに現場の聞き込みに行ってくるわ」
「七時って夜の七時ですか?」
ミキは頷いた。
「そうよ。事件が起きた同じ時間帯に行ってわかる事もあるから。でも一人で行きたいから、浅井さんはここで写真の整理でもしていて」
「え……」
そう言ってムッとした顔で仕事をするミキに、浅井は何も言えなかった。写真の整理などもうとっくに終わっていたのである。
勿論ミキもそんな事はわかっていた。
○ ○
夜七時過ぎにミキは、一人で事件の取材をしていた。
「ありがとうございました」
ミキは、佐藤宅の向かいの佐々木宅をもう一度訪ね、話を聞いた。
ブルンっと自動車のエンジンを切る音が聞こえ見ると、隣の家の前にトラックが止まった。
配達員がトラックから荷物を取り出し、隣の家のベルを鳴らす。
「北カルガモ便です。再配のお荷物お届けにきました」
そういう声が聞こえて来た。
話を聞いた配達員の飯田だ。
――ちょうどいいわ!
荷物を渡し戻って来た飯田に、ミキは話しかける。
「こんばんは。飯田さん」
「あ、あんた! 警察じゃないんだろう? 騙したな!」
ミキを見た飯田の第一声は、文句だった。
やはりミキを警察だと思っていたようだ。
「騙しただなんて。私は質問をしただけで、警察だとは名乗っていませんけど?」
「……で、あんた何者? 俺に何の用?」
「私は、
飯田は、首を傾げる。
「見兎社? 何屋さん?」
「え! 知らないの? 記者よ。私は!」
「なるほど!」
飯田は、やっと納得した様子だ。
「取材だったのか! で、写真って?」
「あなたが見た男の人が、この人物か見てほしいの」
ミキは、家族写真から佐藤だけを拡大して、プリントアウトした写真を見せた。
「どう? 彼?」
飯田は、ジッと写真を見て、うーんと唸る。
「たぶんこの人だと思うけど、絶対という自信はないな。で、誰この人?」
「ご協力ありがとう」
飯田の質問には答えず、ミキはそう言うと頭を下げた。そして、顔を上げ更に質問を投げかけた。
「で、最終確認だけど、彼を見たのは木曜日で間違いない? 違う日だったって事は?」
「間違いないよ。しかし、あんた、警察より素早いな」
「それは、どうも。これで質問は終わりです。忙しい中ありがとう」
「じゃ……」
飯田は、トラックに乗り込むと、軽く手を上げその場を去って行った。
それをジッとミキは見送る。
「やっと、収穫があったわね。後はもう一度、佐藤さんに確認するだけなんだけどなぁ……。早くしないと、警察に捕まっちゃうわよね。その前に会いたいな。うーん」
ミキは、空を仰ぎ見る。
日が落ちた空には、星が瞬いていた。
「東京よりよく見える……。浅井さんに謝るか」
星空を見ていたら、そんな気分になったのである。よくある、ちっぽけに感じるというやつであった。
○ ○
「ただいま。はい、夜食」
ミキは、そう言って浅井に渡す。勿論、彼は驚いた顔をしていた。
「あ、ありがとうございます」
「悪かったわ。完全に八つ当たりよね。あなたの判断は、正しかったわ。ありがとう」
ミキは、軽く頭を下げ、それから、自分の席に座った。
その動作をまだ驚いて、浅井は見つめている。
そして、ボソッと呟く。
「よかった。僕、嫌われたかと思ってました……」
浅井はそう言ってからやっと、ミキから受け取ったお弁当に目を落とす。
「あなた変わってるわね。普通なら、怒ってるところでしょう」
「怒る?」
浅井は、不思議そうな顔をした。
「本来なら感謝されるべきなのにって」
「僕、ヤクザに立ち向かえるほど強くないし、警察の人がいた方が安全かなって思って……。でもミキさんは、最初から佐藤さんから話を聞くだけのつもりだったようだから、余計な事したんだなって……」
「まあ、あそこに組長の息子がこなければね。でも、あんなタイミングで来たんだし最初から鉢合わせするように、はめられたのは確かよ。佐藤さんも知らなかったみたいだし。あなたがした事は、結果正しかったのよ」
「ありがとう、ミキさん」
浅井は、嬉しそうに言った。
ミキは頷いて、ニコッと微笑む。
「さあ、食べましょう!」
「はい!」
二人は仲良く、弁当を食べた。
○ ○
次の日、出勤日ではないがミキは出勤した。
「おはようございます」
「おはよう……」
「仕事を持ち帰るなと言われていたので、休日出勤したのですが宜しいでしょうか?」
何も聞かれていないが、ミキは見谷に問う。
「あぁ、勿論。あ、俺は、朝食に行ってくる……」
見谷は、ササッと出て行った。時刻は、七時半。
取材をしろと言った手前、ダメだとは言えなかったのだろう。逃げる様に事務所から出て行った。
ミキは、席に座るとコンビニで買ったおにぎりを頬張る。
――佐藤さんと全然連絡取れなかったな……。って、もう警察に捕まっていたりして。
ミキは、昨日から佐藤に何度も連絡をとろうとするも『電源が入っていません』とメッセージが流れ、佐藤はスマホの電源を切っていて連絡が取れなかった。
ブーブーと鞄から音が聞こえ、ミキはスマホを取り出した。
ディスプレイには、公衆電話の文字。
――公衆電話? もしかして、佐藤さん!?
「もしもし」
『………佐藤です』
ミキの予想通り佐藤だった!
やっと連絡がついたと、ミキは話しかける。
「佐藤さん! よかった。もう一度お話をしたかったのよ!」
『あの俺、八羽仁組に追われていて……』
「え! 何で?」
『まあ、それは昨日の件で……。その、ミキさん、今、自宅ですか?』
――何故、私の居場所を?
そう、思うも素直に伝える。
「会社よ。あなたこそ、今どこにいるのよ?」
『あ……』
そこで、ブツッと切れた!
「もしもし!」
――私じゃなくて、佐藤さんが八羽仁組に目をつけられた! って、もしかして八羽仁組に捕まった?
ミキは、警察に連絡した方がいいか考える。その場合、遊佐に連絡した方がいいのか……。
佐藤が目をつけられたのは自分のせいでないにしろ、そのせいで遊佐に迷惑がかかる。
――どうしたものか……。何で、こうなるのよ!
頭を抱えていると、会社の電話がなった。
「はい、見兎社です」
ミキは、電話を取った。
『そちらに、ミキさん、いらっしゃいますか?』
――私? あ、それとも三木さん宛て?
一瞬そう考えるも先ほど、佐藤から連絡があった事だし、自分だろうとミキは踏んだ。
電話はまるで、誰かに切られたように通話が切れた。
逃げている最中にミキに助けを求めて来たが捕まったのではないか。
そうミキは思い、震える声で答える。
「私ですが……」
『佐藤の件で話がある。誰にも言わずに、宮の森にある森の泉公園に十一時にこい』
それだけ言うと、電話は切れた!
まさか脅迫電話が掛かってくるとは思っていなかったミキは、もうこれは警察にと思いながら受話器を置く。
「……やっぱり、佐藤さん捕まったんだ」
「捕まったって、警察にですか?」
「きゃ!」
独り言に返事が返って来て驚いたミキは、声を上げ振り向いた。そこには、ライダージャケットを着た、浅井が立っていた!
「浅井さん! もう、びっくりさせないでよ」
「何故、今日は休みなのに会社に来てるんですか? 僕、家に行ったんですよ!」
ムッとして言う浅井をミキは、パチクリとして見つめた。
家に来る予定になっていなかったし、そんな話もしていない。
「何故、家に?」
「こっちに来て早々に色々あったから、気分転換にタンデムにでもって」
「こんな朝っぱらから? って、しかもバイクでしょう?」
ミキは、浅井の行動に驚いた!
ドライブの誘いに行ったが家にいなく、会社を覗くとミキがいたという事らしい。
「そうですけど……。朝早い方が空いてるし。で、誰から電話ですか?」
「え? あ、えーと」
咄嗟に出てこなかった。
警察に捕まった事にするにも、どこからかかって来た事にするか思いつかなかったのである。
「もう勝手に遊佐さんには連絡しませんから! だから、一人で行動しないで下さい! 僕じゃ頼りないかもしれませんが……」
「頼りないだなんて。十分頼りにしてるわよ……。ただ、今度の事は私の責任も少しあるし……」
「やっぱり……。佐藤さんは、警察に捕まったんじゃないんですね? 僕も協力します!」
ミキは、小さな溜息をもらす。
これ以上は隠しきれないと、ミキは観念した。
「佐藤さんは、もしかしたら八羽仁組に捕まったかもしれない。佐藤さんの件で、宮の森にある森の泉公園に十一時こいっていう電話だったの。捕まるなら、警察に捕まってくれた方がよかったんだけどね……」
ミキは、そう苦笑いをした。
何のために、ミキを呼び出そうとしているのかは不明だが、佐藤が捕まったのは確かだろう。
「そこ、昨日のマンションの所にある公園です……」
不安そうに浅井が答えた。
ミキもそうではないかと思っていた。
「……行くけど、会いに行くわけじゃないわ。十一時だから今から行って、隠れて相手を確認するのよ」
「え! 二時間ぐらい隠れてる事になるけど……」
「張り込みってそういうものでしょ? 大丈夫よ。相手がヤクザだったらすぐに遊佐さんに連絡するわ」
ミキの言葉に浅井は頷いた。
それなら大丈夫だと思ったのだろう。
ミキは、佐藤の安否確認をしたかった。
「じゃ、僕のバイクで行きましょう」
「そうね。いざとなったら逃げやすそうだし。お願いするわ」
浅井が提案すると、ミキは頷いて答えた。
もし追いかけられたとしても、狭い路地もバイクなら走りやすい。
ミキは、パソコンを入れた大き目の鞄から、財布とスマホを出した。
二人はバイクまで行くと、ミキがライダージャケット来て、ヘルメットをかぶると出発した。
○ ○
二人は、公園に着くと周りを一周し、隠せる場所にバイクを停める。
浅井とミキは、ヘルメットを取った。
「公園内は誰もいなかったみたいですね」
「まだ、九時前だし。遊具もない公園みたいだからね……」
ミキは、公園を見て言った。
泉と名が付く公園らしく、中央に噴水が見えた。
周りに木が多く、公園内にはベンチはあるが遊具はない。
お散歩をする場所らしい。
「隠れるの場所は、いっぱいありそうね」
「でも、公園といってもちょっと広くないですか? どこで見張ります?」
「うーん。ここら辺でいいんじゃない?」
ミキは、今いる場所のすぐそばの木の影を指差す。
もし万が一、逃げるような場面になった時に、バイクの側がいいと思ったのである。
ミキ達は、バイクから少し離れた大きな木の側にしゃがみ込む。
公園の周りには、背丈が低い気が植えられていて、大きな木も等間隔に植えられていた。
「ここなら、公園側からも道路からも見えづらいわ」
二人は頷くと、そっと公園内を覗き込む。
もし、二人の姿が見えたなら、とっても怪しい人物である。
ドサ!
隠れて間もなく、突然後ろから音がして、二人は驚いて振り向いた!
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