第12話

私は山奥の村で育った。


子供の頃は森が遊び場だったし、獣の通り道なんかも分かる。


私は、地面に四つんばいになって、鼻をスンスンさせた。




「こっちだべ!」




「おまっ、すげーな」




「よっしゃ、芋洗、先導頼むで!」




 みんな、興奮気味に走り出そうとした時だった。


山猫さんの冷静な声が響いた。




「みなさん、落ち着いて。 相手は猟銃を持っています。 追いかける前に、骨塚さんは警察に一報、入れましょう」




「……せ、せやな」




 流石、人生の先輩だ。


私らだけでどうにか出来る相手とは限らない。


めくっちも心配だけど、このまま全員あの世行き、なんてシャレにならない。




「芋洗さんと私、玲央さんで森林さんの後を追いましょう。 骨塚さんは、ここでトーマスさんを見ていて下さい」




「ワイは留守番かいな」




「私たちで、警察の到着まで時間を稼ぎます。 警察が来たら、誘導頼みますよ」




 私らは、骨塚さんを残し、森の深みへと足を踏み入れた。














 めくっちの匂いが近い。


私は、後ろに続く山猫さんを置き去りにして、一気に駆けだした。


 開けた道に出た。


そこには、めぐっちと、猟銃を担いだ男が一人。




「めぐっち!」




 私が叫ぶと、めぐっちがこちらを向いて、驚いた顔をした。


すぐに、男が銃口をこちらに向けてきた。




「何だ、おめぇっ!」




 心臓が跳ねる。


男が冷静さを欠いた殺人鬼なら、呆気なく殺されてしまうだろう。


だけど、まだ生きている。


話し合いの余地は、あるだろうか。




「わ、私は、怪しいもんじゃねぇべ。 ただ、友達を迎えに来ただけだ」




「……おめぇ、そのしゃべり方。 青森か?」




 ……!


この男の訛り、同じ青森出身か?




「青森の、芋洗村出身だべ。 おめぇも、青森だべか?」




「まさか同郷とここで会えるとはなぁ。 東京さ出て来て、世知辛れぇことばかりでよ。 俺ぁ、やっぱり山で暮らすのがいいわ。 だけども、こいつら……」




「きゃっ!」




 再び、めぐっちに銃口を向ける。




「東京モンは、冷てぇ。 上京してきた俺を馬鹿にして、ハブりやがった。 俺ぁ、もう人間が嫌いになっちまったよ」




 それで、ここに隠れるようにして、暮らしていたのか。


世捨て人。


そういう人かも知れない。




「分かるよ。 でも、怒りの矛先、違うと思うよ」




「……おめぇ、東京モンを庇うのか?」




 その時、後ろから何かが飛び出してきた。


玲央さんだ。




「ウオオオオーーーッ」




「な、なんだっ」




 玲央さんは姿勢を低くして、猟銃を構えた男に飛びかかった。


何て無茶な人だ……


命がいくつあっても、足りないよ。


目の前で、玲央さんと男が揉み合う。


玲央さんが、猟銃を取り上げた。




「コノヤロッ」




 猟銃の持ち手の部分で、男を一発、殴りつける。


男が怯んで尻餅を着くと、上乗りになり、ここぞとばかりに何度も殴りつけた。




「クソッ、死ねっ、このっ、このっ……」




 玲央さんが立ち上がり、こちらを振り向いた。




「もう、大丈夫……」




 そう言って、崩れ落ちる。




「えっ」




 私は、固まった。


男が、短刀を玲央さんの背中から引き抜いた。 




「はあっ、はあっ……」




 男は、そのまま向こう側へと、走り出した。


つんざくような悲鳴が、森に響いた。


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