兵士バール大魔王になりかける。

秀典

第1話 恐怖の大魔王の誕生?!

 王国の伝令役のバールは、手足を伸ばし、槍とする事が出来る兵士である。

 そんな彼は何時も通りに仕事をして真面目に働き、皆に感謝されていた。

 王からも褒められ、仲間からも信頼の厚く、皆の頼みを聴いたり、親切を繰り返したりする優秀な兵士だ。

 全く非の打ち所の無いイケメンであるから、女の子にもモテモテで、歩いた端から声を掛けられたりする。

 そう、彼こそ究極の男なのだ!(大嘘)


バール(王国の伝令役) レネン(占い師)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 この俺は、しがない伝令役の兵士のバールという男だ。

 まあ一応、この俺を知らない奴の為に、少し説明をしておこう。

 戦いの地や、各兵士達に指令を伝える役割をしている、そんな仕事をしている兵士だ。

 決してトーナメントで戦ったり、洞窟を調べたりとか、まして戦場の前線で戦う役割ではない。

 暴走した仲間を助ける為に戦ったりとか、治療の為に何十回も戦わされる羽目になるのは俺の仕事じゃない!


 そんな俺でも、一応戦う力は持っている。

 この体はキメラ化されていて、自身の手足を伸ばして槍化させ伸ばしたり、体の硬化も中々のものだ。

 頭を伸ばすのはあまり恰好が良くないからやりたくないが、出来ない事もない。

 最近は股間の巨大化にも成功させたりと、もしかしたら、女性と付き合うのには持って来いの能力なのかもと思って居たりする。


 今俺は王国各地に伝令に走り、何か疲れたので、ほんのちょっとだけ休憩をしている所だ。

 誰にも見つからないちょっとした隠れ家で、一時間ばかりの休憩と、ちょっとした食事と、ほんの少しの睡眠をとっている。

 ちょっとばかり寝すぎて、もう夜を回ってしまっているのは、愛敬あいきょうとして受け取って欲しい。


 もう急ぎの仕事は午前中にやり終えている。

 細かくどうでもいい物は、明日に回しても大丈夫なのだ。

 俺が居なくても、夜勤の別の人がやってくれるし。

 だから俺は、家に帰ろと歩き出した。


「よし、帰ろう!」


 そんな帰路の途中、俺は変な占い師のお婆さんに出会った。

 紫のローブを被って、なんとなくあやしい雰囲気だが、占い師なんてそんなもんだろう。

 

「そこのお方。貴方の顔には破滅の相が見えておるぞ?」


「はぁ? 俺の事ですか?」


 水晶玉もあるし、なんかへんな棒もあったりする。

 間違いなく占い師だろう。

 もしこれで違ったりするのなら、詐欺師か何かだとは思う。


 この道は、俺が何時も通る道だ。

 何時もは見かけないのに、こんな場所にいるとは、少々興味を引かれた。


「うむ、少し占っていかんかね? お安くしておくぞぃ」


「じゃあお願いしてみましょうか」


「では、占ってしんぜよう! キエエエエエエエエエエエエエエ!」


 水晶玉の上で手をグリグリ動かしている。

 よく分からないが、台に置いてある棒の一本を上空に放り投げた。


「お主には破滅の相が出ておる! このまま暮らしていては十日もせずに破滅してしまうじゃろう!」


「あの、それはさっき聞きましたよお婆さん。他にはなかったんですか?」


「まあ慌てるでない。そんな運命を変える為に、お主に、この薬を譲ってやろうと思ってな」


「薬?」


「うむ、これじゃ」


 お婆さんが取り出した物は、瓶に入った液体だった。

 これを飲むぐらいなら、泥水をすすって飲んだ方がマシぐらいの色をしている。

 例えるなら燃える水に、色々な色を混ぜ合わせるのだけど、結局混ざらなくて点々と元の色が残っているという状態だ。

 これは毒とみていいかもしれない。


「すみませんお婆さん。俺ちょっと仕事が忙しいので、また来年ぐらいに声を掛けてくれまっせんか? もしその日に会えたら、気が向いたら話しかけるか考えてみて、やっぱり止めようと思います」


「ふぅ、見た目に騙されてはいかんぞぃ。こんな見た目だが、これは途轍もなく美味いのだからな。ペロッと舐めるだけ舐めてみたらどうじゃ?」


「こ、これが…………?」


 確かに、気持ち悪いのは分かるが、味の想像はつかない。

 だがどう考えても美味そうには見えない。


「二度と巡り合えぬ究極の味なのじゃぞ?」


「きゅ、究極?」


 究極、その言葉に俺は気の迷いが生じてしまった。

 指の先にほんの一滴垂らされたそれを、舌の先に落として味をみた。

 舌の先から強烈な旨味が体中に行き渡る。


 今まで味わった事がないものだから、上手く表現が出来ないのだが、ジューシーな肉の様な味と、果物の甘味の様な感覚に、奥深い後味が来て、それが一瞬で消えるという、何だか本当にわからないのだが兎に角美味い。

 

「お婆さん分かった、じゃあそれを貰おう!」


「一つ一万じゃ」


「…………金を取るのですか? まあ払えない額ではないですが、ちょっと高い様な?」


「二度と味わえぬ味じゃぞ? それを一万で買えると言うのだから、安いとは思わんか? 二度と買えぬのじゃぞ?」


 まあ美味かったし、俺の運命を変えると言ってるのだから、それを買う事にした。


「お買い上げありがとうございますじゃ! ではまた見かけたらよろしくなぁ!」


 金を払うと、直ぐに何処かへ消えて行ってしまったお婆さん。

 占いはまあ占いだから、当たらないかもしれないけど、この薬が美味いから良いだろう。

 俺はその場でチビチビと薬を飲み干すのだが、その時、俺の体に変化が起きた!


「な、なんだこれは! 力が、力が満ち溢れる! ふおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 体の筋肉が盛り上がり、圧倒的な力がみなぎる。

 体内の血がドクドクと脈打ち、頭の中が空っぽになっていく。

 そして、最大の変化は、俺の股間が、かつてない巨木へと変化した!

 意識を失った俺は、立ち上がった巨木と共に、王国の町の中をズンズンと歩き出した。


「ふおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 その高さ、約二百五十メートル。

 あまりの巨木を支える事が出来ず、両手両足でブリッジをしてノッシノッシと歩き出した。

 そして、王国中に警報が鳴り響き、大勢の兵士達が集まって来ている。


 この日、王国にとって最悪で最狂の敵がこの国に現れた。

 隠そうともしないでその逸物を晒しながら。

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