第6話・鵜ノ澤吾音の考え方
「つまり、誰もいない教室で逢い引きしてた伊緒里の相手が、その二課研の男が持ってきた写真に写っていた男だったと」
言葉にするとやや生々しい物言いに呆れかえった次郎を、吾音はジロリとひと睨みすると、いくらか言葉に棘を含ませて重ねて言った。
「…次郎、あんたアホ?こっちの手札見せないで情報入れるんなら、その佐方とかいうおっさんに追従するくらいすりゃ良かったのに」
「無茶苦茶言うなよ。姉貴だったらケンカしてお終いだろーがよ、あのおっさんの態度じゃ」
「ケンカのしかたってものを知らないわね、あんたは。感情的になりつつ相手の言葉尻とらえて思うように話を操る手練手管というものがあるわけよ」
あんたはケンカ下手なんだから、自分に合わせたやり方でやりなさいよ、と畳み込むように言われては、次郎としても反論は出来なかった。
両親が今日は仕事で不在。祖父母も旅行中に何をやってんだか、という状況ではあるが、旅行が趣味の祖父母とあっては別に珍しいことでもない。
三人は吾音の作った夕食を間に、今日起こったことの報告を行っていた。
「で、伊緒里の逢い引きの相手…二課研のおっさんの持ってた写真に写ってたのが同一人物だとして、あんたたちに見覚えはあったの?」
小柄なりに小食の吾音はさっさと自分の食事を済ませ、皿を先に流しに置いてきてからまだ皿の空になっていない次郎と三郎太に問う。
「…俺はないな。次郎が心当たりあるようだったが」
「俺も自信はねーよ。覗きがバレないようにチラッと見ただけだったし。んでも、ありゃ大学部で知られた顔だったな。あんまいい噂じゃなかったけど」
「ふーん。どんな?」
「女癖が悪い」
吾音は、あちゃーと天を仰いで慨嘆する。
「…伊緒里も男運が悪いわねー。そんなんばっかりに声かけられてんじゃないの」
気まずそうに目を逸らす次郎。
「次郎は別に女癖が悪いわけじゃないだろう。単に飽きっぽいだけだ」
「全然フォローになってねー。大体あんときゃ俺が会長にフラれただけだろうが」
「振った側がいつまでも気に病んで、フラれた側がさして気にもしてないってのは話が逆な気もするけど。まあいいわ、この際伊緒里の弱み握ったのは褒めてあげるから、二課研とその男がどういう関係なのか、そっちを追いましょ」
手がかりも無い状況で無茶を言う吾音だった。
「…まあそれはいいんだが、姉さん。文化部会の方は繋ぎとれたのか?」
「あー、あっちはシロ確定ね。お金の問題で支援受けてたみたいだけど、学外の助成だけだったし、経研と繋がりのある団体じゃなかった。ま、突っついたら何か出てくるかもしんないけど、調査の体裁はとれたから問題無いでしょ」
それはご苦労さん、と三郎太の抑揚の無い労いをさらっと受け入れる吾音だった。
「で、これからどうするつもりなのさ」
「は?何言ってんのあんたは」
あほを見るような目つきの吾音に、次郎と三郎太はイヤな予感、というものの隆起を強く覚える。
「…舎弟が世話になったんだから、親分としてはアイサツが必要ってもんでしょ」
そして不敵にそう笑う吾音の顔を見て、やっぱりな、と頭を抱えるのだった。
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