ダンジョンマスターは絶対に死にたくない
たまごかけキャンディー
第1話
俺はゲーム好きの31歳ニート、独身。
今日も日がな一日ゲームをして毎日を謳歌している訳だが、別にそれで困った事がある訳でもない。
ただ遊ぶだけの金があり、遊ぶだけの時間があるだけ。
両親に迷惑をかけない範囲でニートをし、そして金が無くなったらまた仕事をするという循環で生きている。
そんな俺が最近心血を注いでいるのがこの『ワールドマジックRPG』というコンシューマーゲームなのだが、このゲームは凄い。
まるで生きているかのような選択肢次第で変わるキャラの動きや表情、そしてセリフ。
さらにネットの回線をゲームに繋げば世界中のプレイヤーとコンタクトを取り、ストーリーの共同プレイや育てたキャラクター同士での通信対戦も出来る。
通信をしない一人プレイ用のモードでも十分に楽しめる要素が盛り込まれているので、飽きも来ない。
しかしそんなオンラインゲームとコンシューマーゲームの良いとこ取りをしたような神ゲーも、プレイ時間2000時間あたりでついに裏エンディングを迎えようとしていた。
「主要スキル熟練度MAX、理論上最強装備、隠しステータス解放でようやくクリアか。仲間からの装備のバックアップがあってやっと倒せたが、邪神パルタナ強すぎだろう」
ただのコンシューマーゲームとは思えない敵の強さっぷりに、俺は舌を巻く思いだった。
いや、本来このゲームをクリアするだけなら100時間もあれば可能なのだが、裏ストーリーとして用意されていた邪神を倒すにはそれだけの時間がかかったのだ。
もはや、やり込み要素が本編みたいな勢いの作品である。
ただ打倒出来ただけの充実感はそれなりにあり、発売から今日までのこの期間で邪神パルタナを討伐できたという話は聞かない。
おそらく俺が『ワールドマジックRPG』最速の攻略者だろう。
というか最速で2000時間かかるって、製作者はいったい何を考えてこのゲームを作ったのだろうか。
俺はそちらの方が気になる。
まあ、面白かったから良いけどな。
そうして俺がゲームに一段落し、そろそろ次の就職先でも探さなきゃなぁなんて思い立ち上がると、突如して強烈な眩暈に襲われた。
やばい、あまりにも眩暈が強すぎて平衡感覚が全く掴めない、というかだんだん意識が薄れて行っている。
これはもしや、徹夜で3日もゲームに集中しすぎたせいだろうか。
いや、もしかしなくとも間違いなくそれが原因だろう。
さすがに不摂生が過ぎたか……。
なんとなくだが、この時の俺には
これは助からない気がしたのだ。
そして死の間際、こんな声が聞こえた。
『いやぁ、まさか僕を倒せるレベルにまでキャラクターを鍛え上げる人間がいるとは思わなかったよ。おかげで良い実験が出来た。お詫びと言っては何だけど、君をこの世界へと案内するよ』
◇
気づくと俺は全体が白一色で覆われた密閉空間で倒れていた。
ここは一体……。
すると何も無かったはずの空間から、10歳くらいの歳をした金髪の少年が姿を現した。
「やあ、気づいたかい名もなきプレイヤー君」
「は? あんたは一体……。というか名もなきもなにも俺には日本人としての……」
あれ?
自分の名前が思い出せない。
自分がどういう奴で、今までどんな世界で何をしてきたのかは分かっているのだが、名前だけが思い出せないのだ。
これはどういう事だろうか。
しかし少年の唐突な登場と、未知の部屋、さらに自分の名前すら思い出せないという現状に置かれているのに、心が乱れない。
俺はこんな冷静な奴だっただろうか。
「ああ、それについては簡単さ。せっかく僕が招待した人間が壊れてしまわないように、精神に強制的なプロテクトをかけてるんだ」
「…………?」
「まあ分からなくてもいいさ、ただ僕の都合で安全装置をかけているとだけ認識してもらえればいいよ。ささ、座って座って」
そういって少年は俺の心を読みつつ、何もない空間からテーブルと椅子を取り出し着席を促した。
なるほど、良く分からないが俺がこの異常事態に混乱せずにいられるのも、この少年のいう安全装置とやらのおかげなのだろう。
冷静でいられるというのであればこれはこれでいい。
問題は現状が全く理解できていない事なので、その点についていくつか説明してもらえれば文句はないかな。
まず一つ目の質問は、何故俺がここにいるのかってことだろうか。
「うん。その事についてなんだけどね、君は『ワールドマジックRPG』をやっているとき、裏エンディングを迎えた後に体力の限界が来て死んでしまったんだよ」
「ん? ああ、そういう事か。なるほど、確かに死んだ記憶と自覚がある」
確かにあの時は確実に死んだって思ったな。
と言う事はここはあの世ということだろうか?
「まぁ、言ってしまえば現世とあの世の狭間ってところだね。だいたいその認識で間違いないよ」
「なるほどなるほど。それでは、あなたは神様か何かで?」
そう質問すると、少年は待ってましたと言わんばかりにニヤリと口角をあげ、頷いた。
「そう、僕は神様さ。遊戯と時空を司る、地球から見れば異世界の神様だね。名をパルタナと言う」
「ほうほう、異世界ね……」
ん?
パルタナ?
パルタナと言えば、『ワールドマジックRPG』の裏ボスだった、あの邪神パルタナを思い出す。
確か裏ボスとして変身するまえの彼の見た目は、こんな感じの少年だったような……。
「やっと気づいたみたいだね。そう、何を隠そう僕こそが『ワールドマジックRPG』の制作者にしてゲームの裏ボス、邪神パルタナさ。まあ、あのゲームで裏ボスとして君臨していたのは僕なりのジョークのつもりだったのだけれど、まさかそれを倒すプレイヤーが出て来るとは思わなかったよ」
「嘘だろ……」
そう言って彼はケラケラと笑い、楽しそうに机をパシパシと叩く。
というか、あのゲームって神が制作したものだったのかよ……。
俺はそっちの方が驚きだ。
「『ワールドマジックRPG』は僕が神の一柱として存在する異世界を舞台にしたゲームでね、うちの世界と交流のある地球神からお願いされて作った作品なんだ。君の所の地球神は娯楽が大好きだからね、多少の報酬と引き換えにこうしたサービスを提供してあげてるんだよ」
その後のパルタナの話によると、サービスとして制作したゲームにドハマリしてしまったうちの神様が、同じように遊ぶ仲間が欲しいということで秘密裏にあのゲームを流行らせ、地球で一大ブームを起こしたのだという。
「日常に気軽く介入しすぎだろ神様……」
「君達人間が気づいていないだけで、神様っていうのは結構ちょっかいを入れているものなのさ。だけどそれにしたって君の記録は凄いよ、まさか2000時間で僕を倒すレベルのキャラクターを育てるなんて、地球神だって出来なかった偉業だよ」
元々神仕様で遊べるゲームだったものを裏ストーリー、人間仕様として遊べる予定だったものを通常ストーリーとして住み分けていたのだが、まさかこの短期間で裏ストーリーをクリアする人間が出るとは誰も思っていなかったらしい。
「そう言われると、嬉しい気持ちもある」
「それは僕も同じさ。僕の世界を元にして作ったゲームをあんなに楽しんでくれるなんて、遊戯を司る神様としてはこれ以上ない喜びだよ。だからこそ君を此処に招待したし、死んだあとに面接の機会を設けているんだ」
「と、言うと?」
最初から気になっていたが、なぜ死んだ俺は地球神の下へといかずに、異世界の神様と雑談をしているのだろうか。
とても気になる。
「それはズバリ、君を僕の世界にスカウトするためだね。君が死んだ後に地球神と交渉してね、君の魂を僕の世界に転生できないかって相談したんだよ。地球神としては君のゲームにかける情熱も知っていたし、僕の世界に興味があるのなら転生してもいいという事らしかったから、面接したという訳」
そう言って彼は微笑み、手を差し出してきた。
「────どう? 『ワールドマジックRPG』の世界に来る気はあるかい?」
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