第7話 呼ばれた意味

 いろいろ話あった結果、結局私とコロネはコロネを捕まえたと偽装して、城に乗り込んできたわけである。


「貴様!!エルフの回し者だったのか!?」


 ずんぐりむっくりの国王が鎖に巻かれたまま唾を飛ばし私に叫ぶ。


「んーまぁ、結果的にはそうなるかな」


 私がぽりぽり頭をかきながらいえば


「なら容赦はいらぬ!!プレイヤーよ!この者を殺せ!!」


 国王が叫び――城の奥の方に控えていたのだろうか。

 プレイヤー3人が姿を表す。


 鑑定すれば全員レベル200。確かにプレイヤーだ。


「勇者様達やってください!!」


 鎖にまかれたままお姫様が叫ぶが――


「よくも人を騙してくれたな!」「いい加減にしろよお前らっ!!」「ふざけやがって!」


 と、3人のプレイヤーが青筋を浮かべながら国王達を睨んだ。


「え……」


 固まる国王・王妃・お姫様。


「ああ、すみません。

 あなたたちが猫様と楽しくおしゃべりしている間に、魔道具は外させていただきました」


 と、コロネがニコニコ顔でジャラりと効果の切れた魔道具のブレスレットを見せつけた。


「……えーーと」


 その場の空気がしばし固まり――しばらく後に国王達の悲鳴が響くのだった。



 

 △▲△


 わぁぁぁぁぁぁぁ!!


 国中に歓声が響きわたった。

 そう悪政を敷いていたベルブ国王を倒した事で国民から歓声の声が沸き起こったのだ。

 元々センテール王国は善王と呼ばれたランス・テル・センテールが治めていたのだが、どこからか従属の腕輪を手に入れた弟のベルブ・テル・センテールに乗っ取られてしまった。

 善王と呼ばれた兄ランスは従属の腕輪をつけられ、幽閉されてしまったのだ。

 彼が一体どこでプレイヤーすら操れる腕輪を手に入れたのかは、これから調査するらしい。

 弟のベルブが国王になった途端、税金は高くなり、暴利をむさぶる役人達が横行するようになった。

 そして本来なら同盟関係にあったエルフとの協定を一方的に破棄してしまったのだ。

 気まぐれに新しい法案を作っては城下の者たちに強いた事で国は廃れる一方だった。


 そのベルブ国王が捕らえられ、善王が再び王位についたことで国中が歓喜に湧く。


「ランス国王は猫様にお礼を言いたいと言っていましたが……。

 本当にこのまま何も言わずに立ち去っても宜しいのでしょうか?」


 城壁からその街の様子を伺いながら、コロネが私をチラリと見ながらそう言った。


「えーめんどい。国王陛下と謁見とか面倒だからやりたくないし。

 助けたプレイヤー達も魔導士3人組みもこの国で雇ってもらえるって話だから自分がでる幕ないだろ?」


 と、私。

 そう国を救った功労者として、やたら国王達に歓迎を受けたのだが――考えてもみて欲しい。

 ついこの間まで普通に日本で暮らしていた一般人が。

 いきなり国を挙げてお礼を言われるとか物凄く恥ずかしいじゃないか。

 基本引きこもり体質の私には大勢に囲まれて歓迎されるとか無理ゲーすぎる。

 ヒッキーの私にはある意味拷問に近い。


「無欲ですね。

 せめて礼品だけでもと言っていましが、それも辞退なさるとは」


 コロネがため息混じりに言うが、そもそもコロネに聞いた話だとゲーム通貨とこちらの通貨は同じ物らしい。

 普通にゲームで儲けた金貨があるのだ。

 ちなみに私はガチ廃人だったため、ゲームでお金を溜め込んである。

 コロネに手持ちの金額を教えた所、そのお金貨を全部流通させれば、金貨の価値が暴落するから気を付けてと言われたほど。

 つまり、これ以上手持ちの金額が増えた所で使えない事が確定しているのだから、正直お金もいらないし、領土なんてもっての他である。


 それにしても、と、私はため息をついた。

 プレイヤーのうち誰か一人くらい一緒に帰る方法を探してくれるかと思ったが、全員に打診はしてみたが皆に断られてしまった。

 なんでも彼らは全員ターン制のガイアサーバー出らしく、マジもののモンスターと戦うのは怖いらしい。

 そして何よりプレイヤーを抱え込んでいる国は、他のプレイヤーに乗っ取られた国に狙われにくくなるらしく、国を挙げての大歓迎なのだ。

 国王の至れり尽くせりの説得で国に残る事を決めたようだ。


「にしても、何でコロネは当然のように自分の隣にいるわけだ?」


 そう――コロネにも気づかれないようにこっそり抜け出して来たはずだったのに、何故かコロネにはバレていたようであっさりと捕まってしまった。


「はい。猫様のお供をさせていただきたく」


 と、にっこり微笑むコロネ。


 ……うん。前から思っていたのだが


「何でコロネは自分の事を様付けだったり、やけに友好的なんだよ?」


 と、私が言えば


「はい!よくぞ聞いてくださいました!」

 

 と、コロネが身を乗り出す。

 ……うん。あれコロネってこういうキャラだったっけか?


 △▲△

 



 その後約1時間にわたり、コロネは何故私に惚れ込んだのか熱く語った。

 やれ、戦い方が美しかったなど、たった二人の護衛で自分を守ろうといろいろ試す探究心に惚れただの、言葉で飾ってはいたが……

 私からすると



 乱暴に扱われているうちに、Mに目覚めてしまった。



 ……という風にしか聞こえない。


 うん。まともな人かと思ったらわりとこの人変態だわ。

 なんつーもんに懐かれてしまったのだろう。


 これは全力で一緒の旅を断る理由を考えねばいけないかもしれない。

 でもなぁ、ゲーム化以前の記憶がある貴重な存在だし、無碍に断るのも気が引ける。

 何か元の世界に帰れるヒントを握っているかもしれないのだ。


「でも、自分についてくるにしてもエルフの国はどうするんだよ?

 一応偉い立場にいるんだろう?」


 私の問いにコロネは微笑んで


「いえ、猫様もご存知かと思いますが私は一度、人間の国で仕えていた事があります。

 そういった経歴の持ち主はエルフの国では国に仕える事はできません。

 今回は緊急自体だったため、高レベルの私が手伝ったまでです。

 聖杯もすでに他の者に頼みました。何ら問題ありません」


「なんつーか、ついてくる気満々だな」


「はい。猫様となら、この世界の真実も見えるかもしれないと思いまして」


「世界の真実?」


「はい。猫様には確かお話した事があったかと思いますが……。

 『この世界が一度ゲームの世界になってしまった』と、いうことを覚えてる人物が私を含め数名しかいません。

 それも、300年経つうちに、覚えていた人間や獣人は寿命で居なくなってしまいました。

 NPCだった記憶があるものが今では私しかいないのです。


 私は知りたいのですよ。

 何故一度、世界がゲームと呼ばれる世界になってしまったのか

 そして、何故システムから開放されたのか」


 言ってコロネは遠くを見つめ


「ゲーム化する前とした後では、植物や、言語、魔法など大幅に仕組みが変わってしまいました。

 レベルもゲーム化する前は存在しませんでした。

 食事や水分をとってもトイレに行く必要のない身体になったり、以前なら考えられない事です。


 それなのに、誰もがこんな大きな変化を何事もなかったかのように受け入れている。

 ゲーム化する前とは違うという認識すらないのです。


 知りたいと思いませんか?自分の記憶が間違っているのか。

 それとも世界が本当に変わったのか。

そして、もし自分の記憶が正しいなら、何故自分だけ覚えているのか」


 そう、語るコロネの目は真剣で、何となくその気持ちはわかる気がする。

 何故この世界に自分が呼ばれたのか。そこに何か意味を求めてしまうのは――たぶん私も一緒だから。

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