20話

「《包み込む死デス・エンケース》」


ランドールの声と共に残っていた兵たちの周りに球ができる。


「そちらの球は衝撃を受け流すようになっております。全員分の衝撃を受け止めるには心許ないですが、それなら個別で囲ってしまえばよいだけの話です。犬死でも構わないという方だけそのまま詠唱を続けられてください」


絶対的に優位であるランドールは一々自分のスキルの説明をしてあげている。

いや、これはランドールを心配しているキィラへの気遣いか?


「くそ、詠唱中止……!」


先ほどから指示を出していた男がそれを告げると、ほとんどの者が詠唱をやめた。

そう、


「隊長は間違えておられる! 我らのこのスキルが破られることなどあり得ない!」

「近衛兵にだけ与えられるこのスキル! とくと見よ!」


「キィラ、見るな」

「え?」


俺はキィラの目を塞ぐ。

一部の兵はランドールの言葉が嘘である可能性にかけて詠唱をやめなかった。

その結果、


ズズウゥゥン!


兵士たちは自らの体ごと爆発。

しかし、その威力はランドールの《包み込む死デス・エンケース》を破壊するには及ばず、ただ本人が塵と化しただけに終わる。



その様子を見ていた他の近衛兵たちにも絶望の色が広がる。

基本的に、自爆を伴う技というのは威力が高い。

なにしろ、本来魔力を犠牲にすればよいだけのものを自分自身を犠牲にして放つのだ。

これで威力が増さないわけがない。


しかし、それもランドールにしてみれば些事でしかない。


「どういたします? まだ続けられますか?」


ランドールはそれでも笑顔を絶やさず近衛兵たちに問いかける。



「……王よ、申し訳ございません。こやつらは、我々が叶う相手ではございませんでした……」

「何を言っておる! お前ら、その命が尽きるまで戦わぬか!!」


今まで目の前の出来事に理解が追い付いていなかった王様も、近衛兵に呼びかけられてやっと我に返り、わめく。

実に目障りだ。


「いいえ、無理です、王よ。なにしろ、これは戦いですらなかったのですから……」

「何を言っておる! わしがどうなってもよいのか!?」


「おや、皆様、ようやく理解されたようで」


肩を落とす近衛兵たちにランドールが呼びかける。


「どうです? おとなしくしておられるなら、安らかにしてさしあげますが」

「あぁ、それで頼む……」

「では。《限りある生をリミテッド・ギフト》」


ランドールが唱えると、近衛兵たちは眠りに落ちるように倒れていく。

その顔はとても安らかで、この一連の戦いで負っていた傷も癒えている。


このスキルは命と引き換えにその者の体を最大限元に戻し、遺族のもとに綺麗な状態で返してあげられるようにするものである。

どうやら、こういった背景がわかるところを鑑みるに、俺が作った魔法らしい。



「くそ! わしは皇帝じゃぞ! わしにこのような真似をして、ただで済むと思うなよ!」

「もういい、消えろ」


みっともなくわめく自称皇帝を腕の一振りで消し去り、《創造》で創った檻を取り払う。



「ユウト様、皇帝への即位、おめでとうございます」

「……そういうつもりはなかったんだが?」

「こうなってしまってはユウト様がこの国を治めるのが最善だと思われますが?」

「いや、そうは言っても俺はまだ10歳だぞ。認められるとは思えんな」

「そのあたりはご心配なく、わたくしが動かせていただきますので」


また物騒なこと言ってるな。

だが、


「それもいいかもしれないな」


キィラに目をやり、今後のことを考える。


「よし、ここに皆を集めろ」


玉座に向かいながらランドールに指示を出す。


「では……!」

「あぁ」


玉座に腰を下ろし、俺は嗤う。


「ここは、俺の国だ」

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