第25話




 ゴブリン集団は、召喚人達による度重なる銃撃で恐怖を感じたのか、

 ザーと波のように奥へと引いていった

 とは言え、その半ばのゴブリンか射殺されて無残な死骸となっていて

 辺りは地獄絵図の様だ

 だが、その中には息も絶え絶えでのたうち廻っているゴブリンの

 存在も ある

 本来であればトドメを刺さなくては、のちのち傷は癒え、疲労も

 すっかり消え失せたゴブリンが憎悪と復讐の『倍返し』をしてくる

 ナナシは付近に視線を向けると、のたうち回っている手頃なゴブリンを

 見つけると、ゆったりとした足取りで目標まで歩を進めた

 そのゴブリンは左右の足を撃ち抜かれており、 その傷口から

 大量の血液が噴出していた。

 ゴブリンは近づいてくるナナシに気が付くと、這って逃げようと試みた

 だが、それは無駄な努力でしかなかった。

 ゴブリンは必死にナナシから離れようともがいているが

 その速度は遅く、ナナシに簡単に捕まってしまう。

 ナナシの右手には、いつの間にかナイフの一種、西部開拓時代に武器と

 作業用の道具を兼ねて盛んに使われボウイナイフが握られている

 そのナイフは、ナナシが『召喚』した代物なのだが一見『現世界』で

 普通に 売っているボウイナイフその物に見える。

 間髪入れずにナナシは、ボウイナイフを軽く一振りした

 すると、ゴブリンの両腕が一瞬で削られた。


 ゴブリンは絞殺される際の鶏の様な声を発して、口から泡を

 吹いて意識を失った

 だが、ナナシは気絶したゴブリンを楽にしてやるつもりはないのか、

 懐からある物を取り出す

 それは『現世界』から持ち込んだライターオイルとチャッカマンだ。

 ナナシはゴブリンの傷口にライターオイルをかけると、人指し指に付けた

 火で点火する

 焦げた肉と皮脂の異臭が辺りに広がった。

 途端、まるでゴブリンは火がついたかのように絶叫して

 意識を取り戻した

 芋虫の様に身体をくねらせてもがき苦しみだした。




「次はどうやって苦痛を味わせてやろうか?」

 ナナシは無表情のまま感情のない声で呟く

 ゴブリンは平クモの様に平伏しては、『ゴブリン語』らしき

 言葉で許しを乞う

 その光景を目の当りにした女性冒険者ギルド職員と濃いワインレッド髪は、

 ゴブリンに対してのあまりにも苛烈な仕打ちに貌色を無くす

 それなりの修羅場を潜ってきている2人でさえ、ナナシのゴブリンに

 対応するやり方をマトモだとは思えなかった

 何故ナナシはそんな残酷な真似をしていられるのか?

 2人はそう思った

「この『世界』の者じゃないのに、あいつはそこまで

 駆り立てられるほどゴブリンを憎んでいるのか?」

 濃いワインレッド髪は、自身の口から出た疑問に対する答えが

 まったくわからず、ナナシの行動をただ見守るしかできなかった

「それに関しては私も気になっています。

 モンスターも魔獣もいない『異世界』から来たのに、なぜあのように

 平常心を保っていられるのか?と

『ゴブリンの狂軍』を経験したからだという説明だけでは、

 納得が いきません」

 女性冒険者ギルド職員は、濃いワインレッド髪の男性へそう答えた

「 『ゴブリンの狂軍』から命からがら生き延びた者は、大半が

 ゴブリンを心底憎んでいる。

 だが、ナナシは・・・

 もといナナシ達は『ゴブリンの狂軍』の生き残りとはとても

 思えないほど冷静だ」

 濃いワインレッド髪の男性冒険者は、女性冒険者ギルド職員にそう答えた


『ゴブリンの狂軍』で辺境地域一帯が混乱している中、ナナシ達が辺境地域の

 各『冒険者ギルド』から掲示板に張り出されていた集落や村などから

 取り残された生存者の捜索、 救出を要請する依頼書を見ては次々と

 引き受けて現地に赴いていた事は冒険者同士の情報交換などで、濃い

 ワインレッド髪の男性冒険者は聞いていたりしていた

 その噂話では、各防衛線の補給物資が運悪く滞っている時にも 自ら赴き、

 調達して各防衛線への補給を行っていたなどとあったという

 その他にも避難民の炊き出し、怪我人への治療、さらに慰問品

 病人への薬の手配も自ら行っていたという噂もあった。

 それらを知った濃いワインレッド髪の男性冒険者は疑問に思う

 事があったのだ。

(あいつらは、なぜ危険な場所へ率先して動くのか?その資金を

 何処から捻出しているのだ?)

 そんな疑問を濃いワインレッド髪の男性冒険者は持っていた。



 この『異世界』では、回復魔法を使える冒険者は少なく

 重傷者の治療を行える者は、さらに少ない。

『蘇生』魔法となれば寺院の司祭などの限られた者にしか使えない。

 しかも死亡して間もない者でなければ効果はなく、『蘇生』に

 対する値段はそうそう集められる金額ではない

 大抵の冒険者は復活を諦めて遺体を埋葬し生き残った冒険者が

 新たな仲間を募るか、引退して堅気になるか、選択肢を迫られる


 それゆえに高位冒険者以外はパーティー内に負傷者が出た際の

 治療や回復薬などで代用したりしている

 その回復薬も貴重で、値段も『蘇生』値段よりは安いといっても

 駆け出しの冒険者 では、そう多くは手が出せない程の高価なものだ

 中には高潔な意志や立派な目的を持って冒険者になる回復士居るのだが、

 それは稀だ


 辺境地域一帯が『ゴブリンの狂軍』と死闘を繰り広げている期間、

 回復薬類や補給物資の値段は高騰し冒険者の懐を圧迫した。

 食料に関しては避難民や集落の生き残りにも影響があった

 冒険者パーティー内で負傷者が出た際は、傷が悪化し死亡する

 ケースが相次いでいた

 だが、ナナシ達の事が各防衛線など情報交換などの場で話題に

 上るにつれて、それらの問題が徐々に解決されつつあった

『ゴブリンの狂軍』が落ち着く頃には、ほぼ解消されていた


 後々噂話などで濃いワインレッド髪の男性冒険者が聞き及んだ範囲では、

 どうやらナナシ達は中央諸国群から余剰物資を全て一括で買い取り

 それらを辺境地域の各防衛線や避難民のいる各村や集落に配布し

 その物資で辺境地域の復興と防衛を賄ったらしい

 この事実を知った濃いワインレッド髪の男性冒険者はナナシ達の

 行動力と判断力の早さに驚きを隠せず また同時に感心していた

 回復薬類に至っては中央諸国群の大手商店から莫大な金額で仕入れ、それらを

 回復薬不足で前線が崩壊の危機にあった各防衛線へ赴いて

 全て無償で提供したと言うのだ

 そんな手持ちの資金を何処から調達したのか、そんな噂話をワインレッド髪の

 男性冒険者は耳にする事がよくあった


 だが、それらの真相を知っていると思われる辺境地域一帯の各

『冒険者』ギルド関係者はまるで緘口令を敷いているかのように

 口を噤んでいる

 まるで緘口令を敷いているかのように口を噤んでいる

 しかし、どんな手品を使って資金を調達したのかは不明だが、それにより

 辺境地域一帯が『ゴブリンの狂軍』で崩壊を辛うじて免れる事が

 できたのは事実だ。

 しかも、本人達はそれらについては特に語る事もない。

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