浴衣は日本人用です

「やめとけって! おい、こら!」

「しかし、洗いませんと……」

「そこだけは! そこだけは自分で洗うから! だから、そのよだれをとめろ!」


何かに取りつかれているかのように俺の下腹部に手を伸ばす3人。

押さえつけられていて逃げられない俺は身をよじってかわす。


「リオン! 助けて!」

「はーい。こらっ!」

「きゃんっ!」


ペシッとリオンが3人の頭をはたくだけで尻餅をつく。


「リブレを困らせちゃダメでしょ?」


その怒り方ならそもそもこの状況事態に困っているのだが、今は言わないでおこう。

折角助けてくれてるんだし。


「さ、リブレ、いこうー」


手を引かれ、湯船に浸かると今度は両隣にリオンとその母親がくる。

メイド3人衆は中々のプロポーション、いや、一般的に言えば最高のプロポーションを持っているのだが、それを上回るのがこの2人だ。

出るところは出ていて、それでいてしっかりと引き締まっている。


「名前も知らないうちにこうしてお風呂でお会いしているのは些か謎なんですが……」

「あらー、いいじゃない。名前は後で夕食の時に教えるけど、今はバンフリオンの母親ってことだけわかっていればー」


5000歩ほど譲って、リオン、アン、ドゥ、トロワはいいとしよう。

面識があるし、それほど浅い仲という訳でもないのだから。

しかし、リオンの母親に関しては初めて会ったのがつい先程である。

その上、人妻。

これ、アンリさんに今度こそ殺されないかな?


「そんなことより、うちはどうかなー?」

「……凄く過ごしやすいとは思います」


薄々気付いていたのだが、至るところに日本の最新技術が用いられている。

メ○ットのシャンプーだったし。

俺としては、懐かしいと感じると同時に、その便利さを実感しているのだ。


「それはよかったわー」

「ちょっとママ! リブレは私と話すんだから!」

「あらあら、ごめんなさいねー」


リオンが俺を引き戻そうと腕をぎゅっとしてくる。

うーん。

腕が埋もれてんな。

どこにとは言わないが。

というか。


「そろそろあがってもいいか? のぼせそうだ……」

「あ、そうだよねー。あがろっかー」


いつもならお風呂なんていつまでも入ってられるのだが、今回は心臓が過剰に働いたため、血の巡りが良すぎるらしい。



「なんでこれもあるんだ……」


俺に着替えとして用意されていたのは浴衣であった。

いつもドゥに用意してもらっているのだが、このパターンは初めてだ。

これもエンマ家のものか。


「素晴らしくお似合いですよ、ご主人様……」


見とれたかのようにため息をつくメイドたちだが、なんせ俺は日本人。

本家である。

そりゃしっくりくるだろう。


「リブレ、ご飯だよー」


迎えにきたリオンも、メイドたちも浴衣である。

しかし、メイド3人とリオンにあった浴衣なんてあるはずもなく。

明らかにサイズが合っていない。

溢れそうである。

うん。

なんか、もう、凄いや。

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