神隠しってほんとにあるのかな

「そもそもそれも俺が関与したところで失敗するような杜撰なものだったんだろ!?俺に責任ないだろ!」

「いやいや、普通俺が失敗するとかあり得ないことなんだって。今までもなかったしな。ということでこの世界になにか残していけ」

そんなこと言われてもなぁ…。着の身着のままでここに放り出されたわけだし何も持ってない。落ちてくる過程で命すら落としかけたわけだし。

道具袋にもなにも入ってない。俺から離れないアシスト・ロッドだけだ。こいつは捨ててもいつの間にか袋に戻ってるからな…。


「うーん、ちなみになんだがなんでここは日本みたいなんだ?」

糸口を見つけるためにそんなことを聞いてみる。

「あ?日本?あぁ、ここはお前の出身地に似てるのか。だが、なぜそんなことを聞く」

「ほら、嗜好がわからないと何をあげたらいいかわからないだろ?」

「まぁ、単純なことだ。他のやつの世界を覗いていた時に気に入ってな。頼んで持ってきてもらったというわけだ」


「どうやって?」

「どうやってって…。気に入ったのをこっちに移動させただけだぞ」

「…勝手に?」

「…神には許可とってるぞ」

当人たちは関係なしか。さすが神様。

これは神隠しというやつの一端が明らかになった瞬間なのではないだろうか。実際には神が盗ってただけだが。


「で、最初は俺のとこだけだったんだが、他の奴も真似しだして今に至るというわけだ」

なんで寝殿造りを真似して武家屋敷になるんだ。

「いや、バンフリオンちゃんが持ってった家があるだろ?あれとここを持ってきてたんだが、こっちの家はあんまりみんな住みたくないようでな…」

まぁ一世帯だけで住むような仕組みにはなってないからな。利便性の面からみて、妥当な判断だと言えるだろう。


となるとだ。日本固有のもの、もしくは名物みたいなのが喜ばれるのか?

といっても日本料理とかはできないし、他にあてもない。結局どうするかは未確定のままだな…。


「ねぇねぇ。お姉さんも弟君について行っていいー?」

え?

「なに!?パパは許さんぞ!?そんな得体のしれぬ男についてろくでもない世界にいくなど…」

「ほう…?」

圧を感じて振り返るとヘスティアさんが嗤っていた。

「私の世界がろくでもないと…?」

キレていらっしゃる。


「い、いや…」

「あなたとは見解の相違についてすり合わせる必要がありそうですね」

あまりのプレッシャーに俺もリオンもしゃべることすらできない。

「ということなので、バンフリオンさんのことは保留ということでよろしいですか?」

アンリさんの首根っこをつかんで引っ張っていきながら笑顔で確認してくるヘスティアさん。

声もでないので必死に頷く俺とリオン。

魔王はもう抵抗すら諦めてこの世の終わりのような絶望的な顔をしている。いや、あの世の終わりか?


「ま、まぁ、俺に時間ができるのはいいことだな」

ヘスティアさんが奥に消えていったので気を取り直して今後のことを考える。

「そ、そうだねー。今のうちに考えておくといいよー」

リオンも極めて普通にしようとしているが、声が震えている。

奥のほうからは虐殺の音と断末魔の悲鳴が聞こえてくる。魔王…。

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