隠遁生活ってやることないよね

どうやらリオンは俺が魔王に浅くも確かに一撃を入れた時点で決闘の終了を宣言していたらしい。

俺は魔王の攻撃をどうにかできないかと考え、できないということを悟ることに必死だったため全く気付いていなかったが、恐らく魔王は気付いていただろう。

っていうかたぶんあいつだけ今回の一件が「決闘」じゃなくて「粛清」って言葉に成り代わってただろうからな!あれだけ余裕のある動きをしていた人がリオンの声が聞こえていなかったとは考えにくい。聞こえていても俺を葬るために無視していたのだろう。むしろ聞こえないほどに俺への殺意が漲っていたというならそれはそれでどうかと思う。


「ほんとにごめんねー?パパにはきつく言っておくから!!」

リオンは魔王ともあろうものが決闘で先に一撃を入れられて何のプライドもなく続けようとしていたことにプリプリ怒っていた。

そこではないだろと思いながらも、是非きつく言っておいて欲しいものである。


さて、魔王が三度目の気絶をした際、リオンは今までとは違い、かなり本気で殴っていた。

それはいくら魔王でもすぐには復帰しないことを意味し、俺が魔王の眼前からいなくなることが出来るということを示していた。

「でも意味ないんだよなぁ…」

ここに来る前と俺の状況は全くもって変わっていない。むしろ魔王と決闘したとか悪くなってるまである。さんざん煽ったし。


という既にどうしようもない域にまで到達している悩みを胸に俺は余生を過ごしていた。

魔王様側にも頭を冷やす期間が必要だろうということでリオンが自室に俺を匿ってくれているのだ。加えて魔王には自分の部屋に入ったら親子の縁を切るとまで脅している。魔王が恐れていることは何よりも自分の娘に嫌われることである。つまり嫌われるような愚行は犯さないが、俺がこの部屋を出た瞬間に斬り捨てることは禁止されていないとばかりに部屋の前で待機している。本当に俺の生命はぎりぎりのところで保たれているのである。


「うーん、せめてパパが部屋の前で出待ちしてる間はやめておいた方がいいかもねー」

それどころか会うのすらやめたいまである。

だってこの部屋に匿われてることすら絶対マイナスに働いてるからね!?「俺が入れないのにバンフリオンちゃんの部屋に入り浸りやがって…!これでなんか間違いでもあった日にゃあ地獄に送る程度でも生ぬるいわ!」って感じで思われてるんだろうな。

そこは安心していただきたい。俺にそんな度胸はない!!これを誇るのもどうかと思うが俺がリオンの寝込みを襲っても文字通り返り討ちに会って帰らぬ人となるだけである。

そもそも興味はあっても色欲はないし、どうこうなる気もない。


ここで死ぬのは俺も普通に嫌なのだが、レインの親に不義理を果たすということである。いかに俺の手に負えることではないとはいえ、努力もなくただ犬死にしましたとなったらほんとに殺される。矛盾してるけど。


それからさらに数日が経過…。


なんにしろ魔王様の怒りは峠を越したらしい。

「じゃあ、もう一回会ってみようかー」

…いざとなったら全力で逃げよう。

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