795 駆けつける仲間たち

「待てっ!」


 私は逃げる天使の背に閃熱白蝶弾ビアンファルハを次々と撃ち込みながら後を追いかけた。

 ダメージは蓄積しているはずだけど、それでもまだ敵のバリアは破れない。


「クソっ、クソクソクソぉ! 絶対に殺してやるからなァ!」


 天使は涙声で悪態をつきながら逃げるように飛び続ける。


「世界を破壊するとか言うのやめて! そしたら攻撃するのもやめるから!」

「誰がやめるかボケが! ゼッテー破壊してやるからな! ビシャスワルトもミドワルトも全部だ!」


 なんでそんな意地になってるのよ!

 それじゃやっつけるまで止めないからね!?


「……見えた!」


 やがて天使の行く先にウォスゲートが見えてきた。

 知らない間に随分と遠くまで来ていたみたい。


 天使は一直線にゲートへと向かっていく。

 もしかしてミドワルトに逃げる気?


「このっ!」


 私はさせまいとして四方八方から火力を集中させる。

 爆炎黒蝶弾ネロファルハとか焼夷紅蝶弾ロッソファルハをとにかくぶち込んでやる。

 嵐のような爆発と火炎が天使を逃げ場なく包み、もう一息で倒せるかもってところで……


「うああああああっ!」


 天使は叫び声上げながら一気に加速する。

 結局、ウォスゲートの中に逃げられてしまった。


 私は仕方なくゲートに飛び込んで天使を追いかける。

 あっちの世界でさっきの技を使われたら大変だ。


 大きな被害が出る前に、絶対にあいつを止めなきゃ!




   ※


 全速力でゲートを突っ切る。

 あっという間にミドワルトへと戻って来た。

 こちらはすでに夜中で、雲一つない月明りが廃墟となった神都を照らしている。


 天使はどこに……


「!」


 敵の姿を探していると、途端に感覚がスローになった。


 私は直感で上を向く。

 巨大な白い槍を振りかぶった天使がそこにいた。

 彼女は凶悪な笑みを浮かべ、それを私に向かって放り投げてくる。


 避けるのは簡単。

 でもそしたら神都に直撃するする。

 あそこに人が残っているかどうかはわからない。


 受け止めるしかない!


 私は防陣翠蝶弾ジャーダファルハを六十五個同時に展開。

 中央をくぼませる形に配置して、天使の放った白い槍を爆発させないよう受け止めた。


 ……?

 なんか違和感が――


「おらよぉっ!」


 上空からの攻撃に集中していると、今度は前後左右の四方向から剣が飛んできた。

 私の閃熱白刃剣フラルスパーダに似た白い剣で、こちらもすごい輝力が秘められている。


 私は追加で防陣翠蝶弾ジャーダファルハを展開させ……ようとしたけれど、なぜか生成速度が追い付かない。


 四つの白い剣に紛れて天使が襲い掛かってくる。

 そのうちの一つを空中で掴み、そのまま私に斬りかかってくる。


「……っ」


 私は攻撃を受け止めるべく閃熱白刃剣フラルスパーダを構えた。

 そして、靡いた髪が元の桃色に戻っていることに気づく。


 え、魔王化が解除されてる!?


「死ねやァ!」

「ちょっ、ちょっと待っ……あぐっ」


 待ってくれなかった。

 天使の剣が私の体を両断。

 残り三つの白い剣が突き刺さる。


 さらに防御を抜けてきた上の白槍が大爆発。

 私は肉片ひとつ残らず消し飛ばされた。


「あっはっはっは! 見たかクソアマがァ! 天使をナメてるからそういうことに――」


 ……

 …………


 ふっかつ!


 光が集まって体を形成。

 今のは本当に死ぬところだった!

 危うく塵にさせられる程度で済んだよ。


「……ちっ。変身が解けても逸脱者ステージ1相当かよ。しかもウゼエくらいに強烈な不死身体質だな、バケモノめ」

「バケモノとか言うな!」


 ルーちゃんはちょっと完全消滅させられても死なないだけの普通の女の子ですよ。


「まあいい、殺せなくともテメエを苦しめてやる方法はいくらでもあるからな。つーか、こっちの世界じゃさっきまでみたいな力は使えねえんだろ?」


 んー?

 そうなのかな。


 輝力を周囲から吸収……

 うん、たぶん魔王化できないことはないと思う。

 でもなぜかビシャスワルトに比べたら輝力の吸収効率が非常に悪い。


「つまり、こんどこそあたしの≪天を埋め尽くサウザンドハンドレす億の軍勢ッドレギオン≫を妨害することはできねえってことだ」


 ……あっ。


「テメエの育ったこの世界を滅ぼしてやるよ! 今さら泣いて詫びても遅ぇからなァ!」


 待って、それはダメ!

 絶対にそんなことさせないから!


閃熱フラル――」

「ウゼぇァ!」


 天使が白い剣を放つ。

 私は右手を吹き飛ばされた。


「くっ……」

「黙って見てろよ、そこで……世界が終わる様をなァ!」


 ちぎれた手は即座に元通りになるけど、そのせいで初動が遅れた。

 回復中の私を横目に天使は再びあの十字ポーズをとる。


 天使の体を中心に無数の白い分身が出現し――


 ある程度まで増加したところで、すべてがとつぜん斜めに裂けた。


「なっ!?」


 私は何もしていない。

 すでに分身は百体を超えていた。

 その全部を、一瞬で消滅させるなんて……


「おい、やけに神々しい姿してるけど、あいつが敵だよな?」

「知れたこと。ヒカリヒメに仇成す者こそが我らの敵に相違あるまい」


 現れたのは巨大なドラゴン。

 そして、その背中に乗る黒髪の剣士。


「ダイ!?」




   ※


 絶妙なタイミングで駆け付けたのは、頼れる仲間の少年剣士だった。


「ようルー子。また面倒そうな敵と戦ってんな」

「えっと、今のは……」

「お喋りはあとだ。こいつを倒すんだろ?」


 物わかりのはやい子で助かるよ。


「ちっ。ふざけた真似してくれんじゃねえか……」


 ダイを睨んで悪態を吐く天使。

 そんな天使をまっすぐ見返してダイは言った。


「ESがビンビン告げてるぜ。あいつをさっさとこの世界から追い出せってな」

「大五郎、あれは紅武凰国の支配者のひとり第四天使エリィだ。今度ばかりは生半可な敵ではないぞ」

「だったらどうするよ冬蓮ドンリィェン。尻尾を巻いて逃げるか?」

「愚問だな。ヒカリヒメを守ることこそ我が使命」


 あ、このおっきなドラゴンってドンリィェンさんなんだ。

 というかいつの間にか二人すごく仲良くなってない?


 仲が良いことはいいことです。

 それじゃ、仲良くなるのを拒否する天使をやっつけましょう。


「ダイ、ドンリィェンさん、悪いけど少し時間を稼いでくれる?」

「何するんだ?」

「力をためる」


 さっきの攻撃はすごかったけど、ダイ自身はあくまで普通の輝攻戦士。

 もし天使の白剣や白槍の一撃でも食らったら、間違いなくやられてしまうだろう。


「あいつは本気でヤバいから、絶対に無理しないで気を付けてね」

「心配すんな。つーかオマエはもっと仲間を頼れって」

「あはは……」


 私はみんなを巻き込みたくないと思って、ドンリィェンさんと一緒にビシャスワルトに向かった。

 ダイの言葉はそんな私を責めているようにも聞こえた。


 そういえばドンリィェンさんがなんでこっちでダイと一緒にいるのかわからないけど……


「うん、任せた」


 ここは頼りにさせてもらうよ。




   ※


「クソガキがァ! 天使をなめてんじゃねぇぞ!」

「戦闘中に敵を侮るようなやつには負けねーよ!」


 天使の白い槍がダイとドンリィェンさんを襲う。

 ドンリィェンさんは身を翻しそれを回避。

 そのまま天使を迂回するように飛ぶ。


 ダイが剣を振った。


「ぐっ!?」


 天使の体を斜めの線が走った。

 どうやらあれがダイの持ってる剣の力らしい。

 刃を当てなくても敵を斬ることができるインチキ武器だ。


「大五郎。お前の破輝とやらではあの攻撃を防げないのか」

「無茶言うな。あんなスピードで飛んでくる技を散らせねーよ」


 それでも、天使はあれくらいのズルがないとどうしようもない相手だ。

 私はしばし二人に相手を任せ、魔王化のための輝力を溜めることに集中する。


 周囲の輝力を……

 世界中の輝力を……


 あ、先にミドワルトに放っておいた司令桃蝶弾ローゼオファルハちゃんたちも呼び戻して吸収しておこう。

 何体かダイたちの援護に向かわせてもいいかもしれない。


 ダイたちなら時間を稼いでくれる。

 これは、そのことを前提とした上での作戦だった。

 けれど私のそんな考えは、あまりにもあっさりと覆されてしまう。


「ぐわああああああああーっ!」

冬蓮ドンリィェン!?」


 ドンリィェンさんが天使の投げた白剣に翼を貫かれ堕ちていく。

 白槍にばかり集中して陰から投擲された攻撃に気づかなかったらしい。


「トカゲ風情が図に乗ってんじゃねえよ! 次はテメエだ、ガキ!」


 天使が白槍を振りかぶる。

 輝攻戦士は空中で思うように動けない。

 足場を失ってしまったダイは真っ逆さまに落下中だ。


「ちっ……!」

「ダイ!」


 私は輝力吸収を中断してダイを守るため翠蝶を展開した。

 けど、ここからじゃたぶん間に合わない――と思った直後。


 ダイの周囲の空間が赤い四角に切り取られた。

 白槍はその縁に触れた途端にスッと消えてしまう。


 一体何!?


「大五郎!」

「おわっと!?」


 そして、落下していたダイをを《・》きた黒髪の女性が両腕で受け止めた。


「間一髪、といったところかな」


 赤い空間の上にブロンドウェーブヘアの女性が降り立つ。

 そして。


「オラァッ!」

「ぐごっ!?」


 背後から天使に近づいて後頭部を思い切り殴りつけるのは、燃えるような赤い髪の女戦士。

 彼女たちは三人とも足に奇妙な機械マキナのブーツを装着している。


「怪我はありませんか、大五郎?」

「はっ、天使って言ってもたいしたことないわね!」

「久しぶりだな。ルーチェ」


 ナコさん!

 ヴォルさん!

 それにベラお姉ちゃん!

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