614 空襲の夜

 そんなわけで、大変なことをしでかしてしまった私ですが……


「どうだ、輝力は十分に得られたか?」

「たぷたぷ」


 体の中にあり得ない量の輝力が渦巻いているのを感じる。

 桁外れ、圧倒的、空前絶後……どんな言葉でも表せられないほど。


「そりゃよかった。これでしばらく闘っていけるな」

「よくないよ……」


 その代償が輝工都市アジールひとつと考えると素直に喜べない。

 明日からあの街、機械マキナが使えなくなって大変だろうな。


「っていうか、エヴィルに襲撃されたらヤバいよね?」


 この国のほとんどはすでにエヴィルに支配されている。

 そんな中、あの輝工都市アジールは一年間、陥落せずに闘い続けていた。 

 きっとあらゆる手段を使って、エヴィルの猛攻に耐えていたはずだ。


 けど、機械マキナや結界、輝術師の力の源がなくなったってしまったら?


「確実に滅ぶな」

「それだけはダメーっ!」


 私のせいで都市が滅ぶとか、ほんと悪夢でしかない。

 あの規模の街なら数万人は住んでるだろうし。


「あっ……」

「どうした?」

「そう言えばさっき来る途中、エヴィルの大軍を見かけたよね」


 流読みで感覚を前方に伸ばす。

 都市攻略のための軍勢が居座ってるのを確認する。

 三万以上のエヴィルが、二キロ先の草原でキャンプを張っている。


 明日になって、結界が消えてると知ったら。

 こいつらは間違いなくブルーサに攻め込んでくる!


「今夜中にやっつけなきゃ……」

「三万以上もいるんだろ? やれるのか?」

「大丈夫、できると思う」


 私は炎の翅を広げ、エヴィルの軍勢がいる方角へと急いだ。




   ※


 空から見下ろすと、篝火に照らされたエヴィルのキャンプが見えた。

 エヴィルたちは簡単な陣地を築いた拠点を作っている。

 主に獣人タイプの部族で構成された軍勢だ。

 上空の私には気づいていない


「前みたいに敵のど真ん中に飛び込んで片っ端から白蝶ビームで撃ち殺すのか」

「ううん。今回はちょっと違う方法を試してみる」


 それだと効率悪いし、何より時間が掛かり過ぎる。

 ここは神話映像で見た『アレ』をやってみようと思うよ。


「三つ、新しい術を使うね」

「ほう?」

「ちょっと待ってて」


 気合いを集中……

 ……うーん

 みょーん。


 ……


 てやあ!


「ふう、できた……」


 桃色の蝶を三つ作った。

 これだけ作り出すのに一分くらい掛かったよ。

 スーちゃんも呆れてるかなと思ったら、目を丸くして驚いてた。


「おい、なんだよコレ」

「新しい術だよ?」

「じゃなくて、なんなんだよこのとんでもない輝力は!?」


 この桃色の蝶。

 一つにつき、閃熱白蝶弾ビアンファルハ(略しました)の約千倍の輝力が込めてある。


「まさか、敵の真ん中で爆発でもさせるのか?」

「違うよ。こうやって使うの」


 私は桃色の蝶を自分から少し離れた場所に移動させた。


 そして、頭の中でを下す。

 桃色蝶の周囲に無数の白蝶が現れる。


司令桃蝶弾ローゼオファルハ。私の代わりに輝術を使くれる術だよ」


 うん、思い描いてた通りにできた。

 この桃色蝶を使えば私が複数人になったのと同じ事ができる。

 どの程度まで調節できるのかは、これから試していかなきゃいけないけどね。


 とりあえず周りの白蝶は消して、桃色蝶ローゼオちゃんを移動させる。

 エヴィルのキャンプを中心に、私を含めて四方を取り囲むような場所に配置。


 ……うん、十キロくらいなら余裕で動かせるっぽい。


 それじゃ、次!


焼夷紅蝶弾ロッソファルハ!」


 私の周囲一〇〇メートル圏内に、合計で一二九の紅い蝶を発生させる。

 遠くに移動させた桃色蝶ローゼオちゃんの周囲にも同じように一二九の紅い蝶が現れた。


「ただの火蝶弾イグ・ファルハとは違うのか?」

「パワーアップ版だよ。中に燃えやすい油が入ってて、ぶつかったら燃え広がるようにしてあるの」

「……おい、お前まさか」

「さて、それじゃスーちゃん。ちょっと良いかな?」


 私は顔を引きつらせているスーちゃんに確認した。


「ちょっと私の心を読んで。口に出していうのは難しいから」

「別に良いけど……なにする気だよ」

「決意表明」


 目を瞑ってコホンと軽く咳払い。

 そして、私は心の中で思う。




 私は人間の味方。

 エヴィルは人間の敵。

 みんなを傷つける、邪悪な侵略者。


 侵略者は悪。

 人間を傷つけるのは悪いこと。

 悪いやつらは、やっつけなきゃいけない。


 私は。

 敵を。

 ――ころす。




 ぞわっ!


「お、おい……」


 ああ、いい感じ。

 気分が高まってきたよ。

 大丈夫、理性は失っていない。


 落ち着いて、冷静に。


「やるよ、スーちゃん」


 戦闘ぎゃくさつを開始する。




   ※


 ぐるりと円軌道を描くように移動。

 スタート地点から、東側に移動させた桃色蝶ローゼオちゃんの所まで。

 三つの桃色蝶ローゼオちゃんたちも同じように、大きく弧を描きながら九十度移動する。

 生み出した紅蝶焼夷弾ロッソファルハを次々と大地にばらまきながら。


「よし」


 地面に落ちた紅蝶は、可燃油をまき散らしながら、草原に炎の道を描く。

 気付けば炎は綺麗な円形となって、エヴィルのキャンプを取り囲んでいた。


「……!」

「…………!」


 地鳴りのような叫び声がうっすらと聞こえてくる。

 上空五〇〇メートルにいる私には、言葉の内容まではわからない。


 中には意を決して、勢いをつけて炎の輪から飛び出そうとするエヴィルもいた。

 けど、炎に触れたら最後、可燃油が全身に付着して燃え移る。

 もうエヴィルたちに逃げ場はない。


「さあいくよー、桃色蝶ローゼオちゃんたち!」


 私は再び周囲に一二九の焼夷紅蝶団ロッソファルハを展開する。

 三つの桃色蝶の周りにもそれぞれ一二九ずつの紅蝶を出させる。


 逃げ場を失ったエヴィルたちの上空を飛び回りながら、紅蝶を次々と落としていく。


 一二九すべて使い切る前に新たに展開し、いくつもいくつも落とす。

 最初に作った炎の円、その中のすべてが炎に包まれるように。


「マジで文字通りの空襲かよ」

「この方が安全で確実でしょ?」


 神話映像の中で見た戦い方だもんね。

 まあ、ちょっとズルいかなーとも思うけど。


 あいつら敵だし別にいいよね?


 さて、それじゃ。

 仕上げといきますか。


 見下ろす光景はすべて炎に包まれている。

 けど、流読みを凝らせば、まだ数千のエヴィルが生きているとわかる。

 耐久力が強いやつがいるのか、あるいは地面を掘ったりしてやり過ごしてるのか……


 ひとりも逃がす気はないからね。

 だって、生かしておいたら人間を襲うでしょ?


烈風蒼蝶弾アズロファルハ


 次に私が展開したのは蒼い蝶。

 八色の蝶で唯一のウェン系統の術だ。


 一二九の蒼蝶を炎に飛び込ませる。

 炎の中で膨大な風を起こし、巨大な上昇気流を作る。

 それと同時に周りの新鮮な空気を集め、さらに炎の勢いを高めていく。


「……!」


 巻き起こる炎の暴風が、竜巻のように渦を巻いて中心部の温度を際限なく上げていく。

 舞い上がる風に乗って炎に焼かれるエヴィルたちの雄叫びが聞こえてくる。

 何を言ってるのかはよくわからない。


 炎の渦はますます大きくなる。

 それはいつしか私のいる高さにまで迫ってきた。

 流読みで感じるエヴィルの残数が、ものすごい勢いで減っていく。


 三五二……二〇六……八一……

 うーん、なかなか死なないやつがいるね。

 よおしローゼオちゃんたち、トドメをさしておいで!


 残りの輝力も少なくなった桃色蝶ローゼオちゃんたちを炎の中へと飛び込ませる。

 まだ生きてるエヴィルに接近させ、爆炎黒蝶弾ネロファルハで直接爆撃。

 しぶとい敵には特に念入りに。

 何度も何度も。


 エヴィル残数、二五……一三……九……二……


 ゼロ。


「はい、おしまい」  


 戦闘終了せんめつかんりょう

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