208 治療
「えっと……本当に、やるんですか?」
「そうだよ。早く終わらせて、私のカーディを返して」
私が文句を言うと、煮え切らない態度のラインさんはしょんぼりと頭をうなだれた。
「せっかく元に戻してあげるって言ってるんだから、ぶちゅーとやっちゃえ」
ラインさんの表情が一転し、いたずらっぽい女の子みたいになる。
現在、カーディはまたラインさんの中に戻っていた。
昼間だから黒衣の妖将モードにはなれないけれど、ラインさんの体を通して意思を表すことはできる。
せっかく超かわいい幼女の姿になったのに、またラインさんの中に入っちゃった。
仕方ないとは言え、早く終わらせて私のかわいいカーディを返してよね。
「そうじゃぞライン。輝力伝達のデータが取れれば研究も格段に進む。ここは心を無にして、さっさとやってしまえ」
「ありだと思います……とっても、ありだと思いますよ……」
博士もラインさんに対して冷たい。
というか研究のためなら彼の純情とかどうでもいいと思っているみたいだ。
そしてフレスさんはなんかヤバい。
ここは高層棟の中にある博士の部屋。
この場にいるのは私と博士、ラインさんとその中のカーディ。
それからベッドで眠っている吸血鬼被害者のみなさん。
ジュストくんたちはお城へ向かって、事件の解決を知らせに行っている。
これから吸血鬼被害者たちを目覚めさせる。
治療法は簡単。
カーディが私から吸い取った輝力を使い、ラインさんの体を通して吸血鬼被害者に渡すだけ。
彼女が言うには、私の輝力容量があれば、普通の人なら数百人でも回復させられるらしい。
自分で言うのもなんだけど、天然輝術師ってすごいんだな。
「わ、わかりましたよぉ……けど、恥かしいから見ないでくださいね」
「そうはいかん。データを取らなければいけないからな」
「目を瞑ればわたしは見えないけど、感触はばっちり伝わってくるから無駄だよ」
「今後の参考にさせてもらいます」
「いいから早くカーディを返して」
四人からに責められ、ラインさんは泣きそうになりながらベッドで眠るビッツさんの顔を覗き込んだ。
奪うにしろ、返すにしろ、輝力の受け渡しは唇を重ねて行う。
つまり、キスをするってこと。
本人が元々微弱に持っていた輝力を補填するだけだから、後遺症は残らないらしい。
カーディも自分で輝力のスペシャリストとか言ってたし、任せておけば大丈夫でしょう。
男の人とキスしなきゃいけないラインさんは気の毒だと思うけど、頑張ってね。
相手は一人を除いて綺麗な男の人ばっかりなんだから。
でも、ジュストくんが被害者になってなくて本当に良かったな。
「で、でもやっぱりこんなのは……」
「いいから早くやれよ。男のクセに躊躇するんじゃない」
「男だから躊躇してるんじゃないですかぁ」
この場に及んで煮え切らないラインさん。
このままでは私の幼少カーディが帰ってこない。
私は彼の肩を叩いた。
「あ、ルーチェさん。やっぱりこんなのいけませんよね。他の方法がきっとあるはずです、あなたからも考えるように言ってあげて」
「――いいから黙ってやれ」
みょーん。
「う、うわあっ! ご、ごごご、ごめんなさいっ! やります、やりますからそんな目で見ないでくださーい!」
ラインさんは慌ててベッドを覗き込むと、覚悟を決めて一気に眠っているビッツさんに顔を近づけた。
うわ……自分でけしかけたとは言え、本当に男の人同士でキスしてる。
ラインさんも中性的で結構な美男子だから、思った以上に背徳的……
「うええっ、初めてだったのにぃ」
唇を離すと同時に、女の子みたいに泣きじゃくるラインさん。
災難だとは思うけど、あなた一応この国で十三番目にすごい輝士でしょうに。
「上手くいったの?」
「輝力の受け渡しは問題なく成功した。明日までには目を覚ますはずだよ」
私が尋ねると、パッと表情を変えたラインさんがカーディの声で言った。
このカーディの時とのテンションとの違い。
「計器は正常な輝力の流れを表示している。確かに問題なさそうじゃな」
博士は
専門家の二人が言うんだから、本当にビッツさんはもうすぐ目覚めるだろう。
眠ってる間に男の人にキスされちゃったビッツさんもかわいそうだけど、前に私に無理矢理した罰だよね、これは。
彼が目覚めたら教えてあげよう。
それで、前のことは許してあげてもいいかな。
「ほら、いつまで泣いてるんだ。あと十四人、さっさと済ませてしまえ」
「うええっ」
笑ったり泣いたり忙しいラインさんを見ていると、さすがに可哀想に思えてきた。
けど、これもみんなを救うためなんだよ。
がんばれ、
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