老賢者と人形たちの密室

犬子蓮木

プロローグ

 テレビではワイドショーが流れされている。どこかの芸能人が結婚したらしく、インタビューアーが街頭の一般人へそんなニュースについてどう思うかと質問していた。祝福する人、ショックだと叫ぶようにして笑う人、いろいろな様子が発信されていた。

 手元では携帯電話でゲームをしていた。カードを集めるパズルゲームで、お金を払えばくじ引きで、よりレアリティの高いカードを手に入れることができる。とてもとても低い確率であるのだけど。

 机の上にはノートパソコンが置いてある。画面上では多くの人間が発する言葉たちがリアルタイムで次々に流れていた。嘆いたり笑ったり怒ったり、ネットの世界は知らない人間の井戸端会議さえ可視化しアクセスできるようになった。

 机の端に置いてある雑誌をめくった。環境にいい暮らしをしようという特集だった。だけど何が本当に環境にいいのかはわからない。ほんの入口から見た景色がすべてに優先する大切なものであるかのような、そんな綺麗な空気があふれていた。

 世の中の情報たちはどんな人間を作ろうとしているのだろうか。

 バカな人間に向けて、よりバカな人間を作るためのエスカレータ。

 情報を得る対価に、人は知性を支払っている。

 悪いことではない。そうやって、何も知らず、考えず、考えることができているはずだと認識していられれば幸せだ。頭が悪ければ、それだけ簡単に幸せを得ることができる。何が不幸か判断ができないのだから。

 そうありたいものだなと思う。

 そのために試行錯誤している。

 効果がでているなと思えるものもあれば、そうでないというものも多い。単純に情報量だけで埋めようとするものでは、器を満たすには足りないらしい。

 もっと演じることができればよかったのだろうと思う。

 だけどそれは、周囲との軋轢を減らすことができたとしても本質的な成功にはならないとわかっている。紛れ込みたいのではなく、本当の意味で仲間になりたいと望んでいるのだ。

 たとえばそう、どこかの優秀な探偵に、事件を依頼してみたいものだと思った。

 なにが起こったのかまったくわかりません。この謎をどうか解き明かしてくださいと。

 水喰土礫は、笑った。

 そんな日の素敵な自分を思い浮かべて。

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