断簡零墨(ベータ版)
茜町春彦
湯器具に
東京の長い鉄橋を渡ると、そこは埼玉だった.
段々と暗闇が迫ってくる.
そんな時刻だった.浩はボンヤリと辺りを眺めていたが、諦めてトボトボと駅の方へ歩き出した.雨が少し降り出したようだったが、本降りになる前に駅に着くことができた.ホームに上がると電車が入って来た.
雨の中を電車は走った.
川崎駅につくと、浩は降りた.改札を出て、南の方へ歩き出した.路面は濡れていたが、雨は上がっていた.数分歩くと、浩は一軒の店の入口へ近づいて行った.ドアの前に立つと、ドアが開いた.自動ドアではない、中から外を見ていた店員が開けたのである.中へ入ると店員に希望を告げた.
「耳の長いウサギさんをお願いします」
「少々お待ちください」
店員は奥に消え、暫くすると戻って来た.
「こちらへどうぞ」
浩は黙って男の後を付いて行った.
奥の廊下でウサギが待っていた.
「雨が降ってたみたいだけど、濡れなかった?」
「大丈夫、電車で来たのだけど、降りたら、もう止んでいた」
「それは良かったわ」
ウサギと一緒に部屋の中に入った.
浩は埼玉まで行ってきたことを告げた.
「委員会は埼玉で勢力を伸ばしているわ」
「どうやらそのようだね.残念だけど」
「委員会の仕組みは、存在しないものをあたかも存在しているかのように見せかけているだけだわ」
ウサギは委員会の話を続けた.
そのあと本題に入ったが、時間が少し余った.ウサギが自分の話をしだした.
「あたしの耳は左右で長さがちょっと違うのね.生まれつき、左の方が長いのよ.生まれつきと云うより、成長するにつれてと言った方が正確だけれどね」
「非対称と云うのも、それはそれで魅力がある」
「ありがとう、・・・触ってみる?」
「・・・折角だから、長い方を触らせてもらう」
予定の時刻が来たので、浩は店の外に出た.
南風が吹き始めていた.雨は完全に上がったようだ.
(了)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます