第17話
翌日、リリィたちは魔の森へと向かう。
魔の森に着くまでの道中、彼女たちは軽口を開く。
「しかし、本当にここにいるのか?」
「今までの痕跡から判断すると、魔物が豊富にいるところに居つくというのはわかっています。そのことから推測すると、魔の森にいる可能性は高いと思いますが、ここは魔物がかなり強い、ということが気がかりです」
「危険を避けて別の場所へ向かった可能性もある、と?」
「ええ。ですが、私の予想ですと、昨日でも言ったように、最低でもAランクになっていると思ってます。それだけの強さになっていれば、ここにいる可能性は十分にありえます」
「ヴィオ、それは言い過ぎじゃないか?俺はせいぜいBランクだと思うんだがなあ」
「ジェフ、あまり過小評価しないほうがいいですよ。なんせ、カラミティという名前が付いているんですから」
「そうそう、それも気になっていたんだよ。昔、その名がついていたというドラゴンの話しは、どこまで本当なんだ?俺が調べたものだと、どれもこれも凄すぎて信じられないんだが」
「私も、ちょっと、ね。作り話と言われたほうが信じられるな」
「アンリもそう思ってたのか」
「……確かに、残された話しには、信じられないことばかりですが、少なくとも、1つは本当のようですよ」
「へぇ。それってどんなやつだ?」
「大地の裂け目、と呼ばれている裂け目を作ったという話は、本当のようです。そこからの推測で、カラミティの大きさは、数百mはあったと考えられています」
「はぁ〜、なんじゃそりゃ!?そこまで大きさとなると、どうやっても倒せないだろ。いったい、どうやって倒したんだ?」
「いくつかの仮説はありますが、一番有力視されているのは、倒したのではなく、なんらかの理由でいなくなった、という話です」
「ああ、なるほど。そう言われてみると、カラミティを倒した、という話は聞いた覚えがないな」
「ええ。ですから、いなくなった、という話が有力視されているのです」
「そうなると、なんでいなくなったんだ?」
「わかりませんよ、そんなこと」
と、そこで話が途切れた時、リリィが口を開く。
「長い眠りについた、もしくは、寿命で死んだ、という説があるみたいです」
「へぇ。よくそんなことを知っていましたね」
「……調べましたので」
と、リリィは悔しそうな顔で口にする。
もし、あの時、カラミティの事を、魔物に名前をつけるとはどういう事なのか、その両方を知っていれば、と。
父親であるアランによって、力づくで離された後、色んな人に聞かされたし、自分でも調べた。
なので、カラミティというドラゴンがどんなものだったのか、今では理解している。
文字通り天災で、
そして、魔物に名前をつける場合、その由来が大きく影響することも。
過去に従えたゴブリンに、ふざけ半分でカラミティと名付けたことがあったそうだ。
そのゴブリンは、通常では考えられないほどの早さで成長し、凶暴化した。
最後には、1つの国を滅ぼしかけた、という話しがあるほどだ。
もちろん、全ての魔物がこうなるわけではないみたいだが、由来に沿った成長になりやすいことは、周知の事実である。
リリィがカラミティと名付けたトカゲが、必ずしもそうなるとは限らないが、なってしまう可能性が高い、と判断されてしまうのは仕方がなかった。
仮にそうなったら、リリィは自分の手で止めなければ、と思っていた。
その時のために私は、この子を強くさせる!
リリィは、すぐそばを歩いている魔狼を撫でる。
リリィは狼のことを「リル」と呼んだが、それは通称で、本当の名は「フェンリル」である。
由来は、魔を滅する神狼、または狼王である。
カラミティが、世界を滅ぼすという由来なら、その反対の由来である名前をつければ対抗できると考えたのであった。
その考えが正しかったのか、フェンリルと名付けられた魔狼は、まだ半年ほどまえは体長1.5mだったのが、2m近くとなっている。
しかも、いまだに成長を続けているので、これならなんとかなるかもしれないと。
リリィは、自分が囮になり、その隙をついてフェンリルに倒してもらう、と考えていた。
その様子を見ていたジェフは、リリィの頭を乱暴に撫でる。
急にそんなことをされたリリィは、驚き戸惑う。
「あの、ジェフさん?」
「変なことを考えるな。まだどうなっているのか、わかっていないんだ。今からそんなんじゃ、保たねぇぞ」
リリィは、ハッとしてジェフを見る。
ジェフは心配そうな顔つきをしていた。
それはジェフだけではない。
他の3人も同じような顔つきで、リリィを見ていた。
「そう、ですね。まだ見てもいないのに。私だけでも、ラミィのことを信じないといけないですよね」
「おう、そうだぞ。お前から聞いた話だと、人に危害を与えそうなことはしていないんだろ?なら、それを信じろ」
「はい!」
リリィは、ネガティブな考えが取り除かれたのか、嬉しそうな顔をする。
それを見たジェフは、これなら大丈夫そうだな、と判断した。
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