第17話 剣の舞い

カミシモの店は大通りから少し離れたところにあった。


ぎゅうぎゅうとおしくらまんじゅうをしているような、木製の古めかしい建物たちの中の1つ。


いつ磨いたのか分からない、ゴツくて汚れたショーウィンドウの青いガラスが目印だ。


「ここがドラゴンソードのお店…」

ゴンはかなりウキウキしていた。

「ホントにボクにもドラゴンソード、買ってもらえるのかなぁ!」


3人がお店に入ろうとした時、中から十数人の男たちが飛び出してきた。

かなり慌てた様子だ。


最後にクマみたいな大きな男が出て来る。

強面の白髪モヒカンで、百戦錬磨のプロレスラーみたいだな、とゴンは思った。


「カミシモ!」

「…」

リンダがそう呼んだモヒカンの大男は無言で3人を見る。


(この人が店長さん?)

ゴンが相変わらずボーっとしていると、カミシモの肩に小さなドラゴンが飛んできて喋り始めた。


『店に入ってはダメだ!ドラゴンソードたちがかつてないほど騒いでいる!

とても危険な状態だ!

さがれ、にげろ、出来るだけ遠くへ!』


「喋るドラゴン!賢いなぁ!」

ゴンが呑気なことを言っていた時、


パリーン!


と店の青いガラスが砕け散った。


かと思うと、店の中から無数のドラゴンソードが飛んできた。


ドラゴンソードは一斉に上空に登り、一瞬滞空する。


その、全ての刃先がゴンに向かっている。


「ヤバイ…」

サミュがゴンをかばおうとしたが遅かった。


ドラゴンソードたちは一直線に、ゴンに向かって降ってきた。


ゴンは何が起こっているのか理解できず体も動かない。


…あの日、加西を千切った光…


「ゴン!」

リンダの叫びと同時に剣はガッガッガッガッと何かに突き刺さっていく。


「ゴン!!」

誰もが、ゴンは剣たちに突き刺されていると思った。


全ての剣が向かっていったので、ゴンの5メートル四方は剣の山になっている。


砂埃が落ち着くと、中央に立っている影が見えた。


「え…?」



真ん中に茫然としているゴン。


そこを中心に、少し距離を開けて円形に突き刺さるドラゴンソードたち。


みなゴンの方に傾いている。


まるで、お辞儀をしているように。


「すごい…」

サミュの口から咄嗟に出た言葉。


「ホントにすごいわ!」

リンダが大声を上げた。

「勇者タイガさまのご加護がこんなところにまであるなんて!

ゴン、セーフだったわね!あんたドラゴンソードたちのオヤツになる所だったわよ!」


「お、オヤツ…良かった…加西のおかげかな…」


ゴンは腰を抜かして座り込む。


「驚いたな…」

カミシモが剣を慎重にかき分けて近づき、ゴンに手を差し伸べながら言った。


この一言にリンダもサミュも、周りにいた男たち…各地のドラゴンソードのジュードたちも仰天した。


「驚いたのはこっちの方よ!

喋らずのカミシモが喋った!

誰もその声を聞いたことがないカミシモが喋った!!」


リンダとサミュも駆け寄る。


「ぶ」

ぴょこっとバッグからぶーちゃんが顔を出した。


「あ、ぶーちゃん、大丈夫だった?」

ゴンが頭を撫でる。

ぶーちゃんは嬉しそうに目を細めたあと、ぽよんと飛んでカミシモの腰に付けてある古い短剣を引っこ抜いた。


「こらこらぶーちゃん!人様のモノを勝手にとっちゃダメでしょ~」

ゴンが止めようとすると、ぶーちゃんはぶーぶー言いながら短剣の中に消えていった。

短剣はスッとゴンの手の中に納まる。


「ええ?!」

驚くゴン。リンダとサミュも動きを止めた。


「なんてことだ・・・」

カミシモはゴンをじっと見据えた。


気のせいだろうか、ゴンにしか見えなかっただろうが、カミシモはその時涙を一筋、流した。


「ぶーちゃんって、ドラゴンだったのーーー?!」

またもや静寂を破るのはリンダ。


「じゃあ、ゴン用のドラゴンソードはそれで決まりね。なんかお似合いよ。

って、カミシモ、これ貰っていい?おいくら?」


カミシモは再び口を閉ざし、代わりに肩に乗っている小さなドラゴンが答えた。

「お代はいらないよ!どうせペーパーナイフ代わりに使っていたなまくらさ!

それよりこの剣たちを店に戻すのを手伝ってくれ!」





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