第14話 やさしくない世界

ブルブルブル・・・


リンダのドラゴンソードは、尋常ではない震え方をしている。


「こんなこと初めてよ・・・!グーちゃんがこんなに震えるなんて・・・。」


リンダがドラゴンソードからドラゴンのグーちゃんを呼び出そうとしたが、拒否している。出てこない。




「グーちゃん!どーしちゃったのよー!

…そんなにヤバイ奴が来たの…?」


リンダとサミュは背中合わせになって辺りを見回す。


ただごとではない緊張感に、ゴンは思わず緑色の生き物を抱きしめた。


ガサ

「ぶぶー」


ほぼ同時に、草の揺れる音と緑色の生き物の鳴き声…


ビュ


細く鋭い音がゴンの耳の横をかすめて、サミュの心臓の方向へ飛んだ。矢だ。


ガッ!


その矢の先がサミュの皮膚に触れる前に、サミュは矢を右手で掴んで投げ返した。


「ぐあっ」


ゴンの後方でガサガサと音を立てながら草と小枝がなぎ倒され、1人の男が這い出てきた。


サミュが放った矢が男の脇腹に刺さっている。


その男は弓を持ち獣の皮の上着を着て、何かの骨のネックレスをつけ、見るからに野蛮そうだった。


「うーん、毒を塗ってましたか。

せっかく急所は外したんだけどねぇ。


あと数分ともたないな…ね、アンタは何者?」


サミュが優しい声色とは裏腹に、死にかけの男の襟首を掴んで話しかける。


リンダは男の顔を覗き込んだ。


「んー?

こいつのタトゥーは、山賊マダラたちのものじゃない?

アイツらならただのコソ泥みたいなもんよ。

しかも下っ端っぽいし、別にグーちゃんが震えるようなお相手じゃないけどな。」


ぐぐぐぅ…

自分の矢の毒を受けた男は、首を押さえて口から泡を吹きながら酷く苦しみ始めた。


「息ができなくなる系の毒かー。苦しいよねー。

ね、どうする?どうせ結構な時間苦しんだ上に助からないでしょ?トドメさしてあげようか?」


「え?」

サミュの喋り方があまりにも普通…まるで朝学校で友達に挨拶するようなトーンだったので、にわかには言ってることの意味が理解できないゴン。

(トドメ?え?え?)


男は泡を吹きながら首を縦に振った。


「祈って」

サミュがそう言った瞬間、素早く腰の短剣に布を巻いて男の首をスパッと切りつけた。


ゴンは何が起こったのか分からない。


ただ、白い布がみるみるうちに真っ赤に染まり、


ポタポタ


と岩だらけの地面に血が滴り落ちる。


男は数十秒の間、肢体を右、左と痙攣させ、動かなくなった…


ゴンは言葉が出ないまま緑色の生き物をギューっと抱きしめる。

(これって本当に現実・・・?!)

さびた鉄のような血の匂いを嗅いでも、現実味がわかないのだ。


目の前で体がちぎれた加西の死を信じていないように。



サミュは短剣を抜いてピュンピュンと数回空を切る。

短剣は何事もなかったようにサミュの腰に帰った。


リンダは真っ白だか真っ青だかになって震えているゴンを冷ややかな見て言った。


「なっさけないわね!腰でも抜かしてんの?

この男を殺したことがそんなに怖い?

だってこの男は私たちを殺すつもりだったのよ!

生きるために奪う連中に話し合いなんて出来ないの!自分が生き延びたければもっと、ちゃんと強くなりなさい!!


この世界はやさしくないのよ!」


「そ、そんなこと言ったって・・・。」

ゴンは途方に暮れて緑色の生き物をいっそう強く抱きしめた。





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