第12話 量の話

あちゃー、という顔をするサミュ。

どうやらゴンはマズイことを聞いてしまったようだった。


しかしリンダは、「ま、仕方ないか」と言いながら説明を始めた。


「あんたも巻き込まれたんだから知る権利はあるでしょうよ。

この国を旅する限りは、状況を把握しといた方が良いだろうしね。


この世界とあなたがいた世界、人間は二つの世界を交互に転生しているってことは言ったわよね?」


リンダの横を歩きながらゴンはコクリと頷いた。


「大抵の人間は〝量〝が100であると考えて。

量っていうのは、説明しにくいんだけど、魂の大きさというか、そんなものなんだけど。


で、極々まれにとても〝量〝が巨大な人間がいるの。


そういう人が英雄になったり極悪人になったりするの。そう、量が多いから良いことばかりってわけじゃない。


ちなみにこの世界で比類なき、と言われている大予言者のカーラおばさまが量で言えば1000、ちなみに私は500ぐらいかな。

300を超えると歴史に名を遺す人物になるわ。


そして勇者タイガさまは…」


「は?!」

面白くなってゴクリと息を飲むゴン。


「10万って言われてる。」


「じゅうまん〜〜!!」

あまりの桁違いに大声が出てしまう。


「そう、量が巨大になりすぎてしまったの…。


勇者タイガさまはどちらの世界でも、どの時代でも英雄として生きていた。


それに伴い、量が大きくなっていった。


あ、量っていうのは、その人の生き方によって増えたり減ったりするの。


だいたいの人間は一生を通じるとプラマイゼロみたいになるんだけどね、タイガさまはどんどん増えていった。

そういう素晴らしいお方なのよ。」


(す、すごい人と友達だったんだなぁ…)

少し嬉しくなるゴン。


「あ・・・、でも増えすぎてしまったって、どういうこと・・・?」


リンダは酷く難しい顔をした。

「増えすぎてしまった量が、二つの世界に分かれてしまったの。


つまり、タイガさまは2人になってしまった。


しかも、


正義と悪に分かれてしまったのよ。」


「えっ・・・!じゃあ・・・!」


「そう、この世界にいるのが”悪”、あなたの世界にいたのが”正義”。


”悪”は世界を壊そうとしている・・・そして、悪を止められるのは正義だけだったのに・・・。」


「じゃあ、加西が正義だったんだ・・・。」

ゴンの足は止まってしまった。そういう事情ならば、リンダが怒っているのも無理はない。


「・・・まあ、あなたのせいじゃないのは分かってんのよ。

”悪”の力を持ってすれば、あなたがあの場にいようがいまいが事態は変わらないわ。


ただ、”正義”であるタイガさまが簡単にやられてしまうのはおかしいと思ってるの。」


「もしかして、加西は生きてるの?!」


「かもしれない。・・・じゃないと困る。」


リンダとゴンの話はここまでとなった。

なぜなら、いつの間に原っぱに布を広げて、サミュがお茶の用意を始めたから。


「ちょっと、サミュ!休憩には早すぎない?

まだ1時間ぐらいしか歩いていないわよ!」


「まあそう言わないで、今のうちに休んでおこうよ。

この先は山道に入るから普通の人間には少しきつくなるよ!


四つ耳族のボクなら平気だけどね!」


「山道?」


ゴンがふと前方を見ると、今までなぜ気が付かなかったのか分からないほどの大きな山がそびえ立っていた。


「これを越えるの・・?今日中に・・・?」


「ああ、言ってなかったっけ?アナイスの火山のふもとの村への入口は秘密扉になっていて、この山のてっぺんにあるんだ。


大丈夫、険しいし獣も山賊も出るけど、このボクが付いているんだから平気だよ。


さ、とにかくお茶を飲んで。このお茶は足の筋肉を増強させる効能があるんだ・・・」


サミュが言い終わらないうちに、ゴンはサミュの手からティーカップをひったくってごくごくと飲み干し、その後もありったけお茶のお替りをしたのだった。

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