第5話 川辺のサミュ

「ボクが、最強のドラゴンソードのジュード?」


ゴンの胸は高鳴った。

さっき、この女の子、リンダがしたように、剣からカッコ良くドラゴンを出せるかもしれないのだ。


そして(自分は手を汚すことなく)悪い奴をなぎ倒せる…男子なら誰でも憧れるシチュエーションではないか。


(でも…)

ゴンはふと考えた。


(ボクがドラゴンに、人間を食べろと命令出来るかな…ちょっと無理な気もする…。それに、この女の子がさっきからボクのことを呼んでいる、タイガさまって誰のことだろう?)と。


リンダは心を読んだように言った。


「タイガさま、急ぎタイガさまのドラゴンソードを受け取りに参りましょう。

こちらの世界は何かと物騒ですから、身を守る術が必要になります。…あ、私はあちらの世界のを知りませんけど、場所によっては随分平和だと聞いております。」


「あ、ああ、そうだね。日本はかなり平和だよ」

ゴンはちょっと愛想笑いしながら答えた。


(タイガって誰?ボクのこと?ああ…でもどこかで聞いたような名前…)


リンダのドラゴン、グーはいつの間にか剣に収まり、リンダとゴンは2人で森の中を少し歩いた。

リンダは適当なおしゃべりをしながらも、常に周りに気を配っている。


「追っ手は、さっきグーちゃんが食べた5人で全部だと思うんですけど。

時が時なので用心するしかないんです。

こちらの世界には勇者タイガさまの反転生を良く思わない輩が沢山おりますので。」


「そのことなんだけど、リンダ、ボクは本当にその、勇者タイガなの?」


リンダは目を丸くしてゴンを見た。


「あの時あの場所に現れし若者が勇者タイガさまだと、大予言者である私の叔母のカーラが言ったので間違いありません!」


(うーん…)

間違いないと言われても全くそんな気がしないゴン。


「とにかく、大予言者カーラにお会いください。彼女が勇者さまのドラゴンソードもお預かりしているのですから。

カーラ叔母さまの口から説明があるでしょう」


「うん…」

ゴンは自信なさげに返事をした。


(ドラゴンとか、予言者とか、いよいよすごい世界になってきたけど、ボクに特別出来ることなんてないよ…)

胸の高鳴りはどんどん不安に変わる。


2人が30分ほど歩いた先に大きな川があり、川の側に小さな小屋が建っていた。


リンダは扉に向かって


「サミュ!サーミュー!」


と大声で呼びかける。


「なんだいリンダベィビー」


ギィと扉が開き、中から長身を折り曲げながら青年が出てきた。


「わっ」

青年を見てゴンが思わず声を出す。


その青年は、背が高くて、肩まである髪が緑色で、イケメンで、


耳が4つあった。


普通の人間の耳が2つ、その上に毛が生えた動物の耳が2つ。

どちらも偽物ではなさそうだ。


「村までの船を出して。頼んでおいたでしょ?なるべく早く行きたいから急いでちょうだい!」


「もちろんキミのためならこの命を削ってでも急ぐよベィビー。

おや、こちらの可愛い子は?」

サミュはゴンをチラリと見た。


「可愛い?」

リンダもゴンを見る。マジマジと見る。


「ヤダ本当、勇者さまったらものすごーく可愛い顔してる…。どうして今まで気がつかなかったのかしら?

うわ、可愛いわ…」


ゴンは顔を赤くしながら俯いた。

(可愛いって言われても…ボク男なんだし…)


サミュはゴンに近づいて、匂いを嗅ぐように鼻をクンクン鳴らした。


「んー、何か魔法の匂いがする。この子にはどうやら魔法がかかっているね。もしくは、魔法のかかっているね何かを持っている。

でしょ?」


「え?魔法?そんな事はないと思います」

ゴンは焦った。魔法なんて身に覚えがあるはずもない。


しかしリンダはケロリとして言う。

「勇者タイガさまは反転生の魔法でこちらの世界には来たのだから、魔法の名残があるのは当然でしょ。

さ、いいから早く船!」


サミュは肩をすくめながら移動して、どこからか琥珀色の小瓶と麻袋を出してきた。


「お茶とおやつをゆっくりテーブルで食べる暇はないようだから、それは船でのお楽しみにしようか。

さ、行くよ」


3人は川辺に立つ。

しかし、船らしいものは見えない。


ゴンがキョロキョロしていると、すぐ横にサミュが来てポン、と小瓶のコルクを抜いた。


小瓶から何かが飛び出したかと思うと、目の前に小さな船が現れた。


「わっ!なにこれ、凄い!船が出てきた!」

驚くゴン。


サミュはウインクしながら言った。

「可愛い人、ボトルボートを知らないの?

さ、乗ってみて!見かけより乗り心地がいいんだよ!」













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