第3話 緑

まばゆい光の中に、加西の5つに千切れた体。


ゴンは言葉を発する暇もなく、光と風の渦の中に飲み込まれた。


まるで巨大な扇風機が目の前で、最大出力で回っているかのような強風だったが、不思議と少し暖かい。


ゴンはふと、オズの魔法使いの、竜巻に飛ばされるドロシーを思い出した。


(ボクはオズの国へ行くのだろうか・・・)


前後左右も分からないが、自分は確かに飛んでいる。


体が重力から離れた時、意識が体から離れて、ゴンは気を失ってしまった。


………


お守り。


深緑のお守り。


亡き母が、ゴンに遺したもの。


ゴンの両親が亡くなったのは、ゴンが10歳の夏だった。


父と母が乗っていた軽自動車に、3ナンバーの大きな車が突っ込んできて、

2人はその運転手とともに死んでしまった。


それは疑いもなく相手の過失であり、突然の事故だったにも関わらず、


不思議な事に、


両親は事故の前に色々と自分たちがいなくなった後のことを整理していたようだった。


ゴンに遺す通帳、保険、不動産、


しかし何よりも、事故の1週間前に


〝オレ達に何かあった時はゴンのことを頼む〝


と、父が弟であるシュウジに何度も頼んでいたことはあまりにも不可解だった。


そして父がもっともシュウジに念押ししたのは、

ゴンに緑色のお守りを常に付けさせて欲しいということ。

決して、肌身離さずに。


理由は言わなかったが、すぐに分かるからとだけ言った。


果たしてシュウジはゴンと暮らし始めて間もなくその言葉の意味を理解するのだが、

ゴンにはただ、両親がいつもそばで守ってくれるから付けておきなさい、と伝えていた。


お守りはほとんどいつもゴンのそばに…



………



「うう…う」

ゴンが目覚めたのは、飛ばされてどのぐらい経ってからだろう。


朦朧とした頭で体を動かすと、カサカサ、と音を立てる草の音がした。


(学校の中庭の花壇…?)


手元には枯れた薄茶色の草。


ゴンは徐々に視界を上に上げる。


「えっ?」


目の前にあったのは、


濃い緑が広がる森だった。


「え?」


学校か、学校の近くに森なんてあったっけ?

ゴンは辺りをキョロキョロしながら考えた。


しかしそれより先に、


「加西くん!!」


目の前で5つに分かれた加西の事を思い出した。


「加西くん!加西くん!」


まだ意識と体が追いつかないので、立ち上がれずに這うようにして辺りを探すが、加西も、加西のかけらも落ちてはいなかった。


「夢かな…でも…」


草の感触も、森の匂いがする空気も、とても夢とは思えない。


ゴンは試しに右手で思いきり左の手の甲を叩いてみたが、ちゃんと痛みをかんじた。


叩いたところはジンジンとして、色白の肌がピンクに染まる。


そしてゴンの首には、加西がくれた赤いマフラーが巻いてあった。


「暖かい…夢…夢じゃないみたいだ…でもどういう事…?」


ふと、少し先の木の陰に人の気配を感じた。


男だ。


中世の騎士のような、RPGのヒーローのような服を着た男が立ってゴンをジッと見ている。


「あのっ…」


ゴンは慌てて声をかけた。


「あの、すみません…」


その時後ろで、


カンカンカン!


という金属音が聞こえてきた。


振り向くと、数人の人間がこちらに向かって走ってきている。


正確には、1人が先頭で、後に続く5人がその1人を剣で攻撃していた。


「タイガさまー!!」


先頭の人である女の子の声が、ゴンに向けて発せられた。


「殺せ!2人を殺せ!」


後方の5人の男たちは物騒な事を言っている。見るからに人相が悪い。


(2人って、ボク入ってます?)


ゴンは突然の状況に、アドレナリンが噴出すほど焦った。


”タイガさま”と言った女の子が慌てるゴンのそばに来ると同時に、5人の男たちが2人の周りを囲んだ。


「タイガを殺せ!」


5人は大きな剣をゴンに向かって一斉に構える。


「え?うそっ」


まだまだ寝ぼけているような、全然今この自分の状況がつかめていない頭でゴンは必死に考えた。


「殺される・・・?」


「殺させません!」


唯一の味方であろう女の子も剣を構える。


ゴンは初めて女の子のちゃんと姿を見た。ゴンをかばうように立っているので後ろ姿だが・・・。


小柄なゴンより小さな身長、小枝のように華奢な腕、腰まであるサラサラの髪は凄く薄いミルクティー色。

黒いミニスカートから黒いブーツまでのぞくすらりとした脚。


女の子としては魅力的だけど、5人の男たちを相手にするには頼りなく思える。


「女も殺せ!」


一斉に男たちが襲い掛かってきた。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る