第二王子の誕生祝賀会2
――いったい、どうしてこんなことに。
ジャスティーナは第二王子ケイデンに捕まっていた。
正確にいうならば、故意的に二人きりにさせられたようだった。
ケイデンは従兄弟だけあり、シュリンプによく似た美男子で、彼女は自然と尻込みしていた。
「僕のこと怖い?」
外見はよく似ているが、ケイデンはシュリンプのように自信過剰ぎみではなく、少し気弱そうな雰囲気だ。たれ目の瞳で子猫のように聞いてくる。
「そんなことはございません」
早くイーサンの元に戻りたいと思いながら、ジャスティーナは答えた。
王登場で夜会は沸き、王の挨拶、そして第二王子ケイデンからの言葉が伝えられ、祝賀会は舞踏会へ移行にした。
まず驚いたのは、ケイデンがジャスティーナに最初に声をかけたことだ。隣のイーサンは顔を強張らせていた。
王子からのダンスを断ることは不敬だ。なのでイーサンともまともに踊ったこともないのに、彼女はケイデンの手を取るしかなかった。
貴族達の反応は様々で、ジャスティーナはイーサンが気になりケイデンと踊りながらも隙を見て、彼を探す。すると、イーサンは王女からの誘いを受け、踊り始めていた。
そこからが奇妙だった。
まるで、わざと二人を裂くように、第二王子、第一王子に誘われ、仕上げは王アレンだ。
不敬とわかっていながら、彼女は知らずに態度が冷たいものになっていた。
それをわかっているアレンは笑いながら、彼女と踊る。
「まあ、怒らないでよ。今日は、ケイデンの失恋記念も兼ねてるんだよ。彼には君のことをあきらめてもらおうと思っているから。まあ、君が心変わりしたら別だけど」
「ありえません」
「そうかな」
アレンとのダンスが踊り、やっと自由になれると思ったら、イーサンの姿が消えていた。
探していたら、ケイデンが現れたのだ。イーサンのいる場所に案内すると言われ、彼女は大広間から連れ出され、中庭に来ていた。
「もう少し、僕に付き合って。お願い」
同じ年齢なのに、彼はとても子供っぽかった。
弟などいないが、いたらこのような感じなのかと思うくらいで、彼は可愛らしかった。
「ジャスティーナは、イーサンのどこが好きなの?」
「どこって、彼は本当の私を見てくれますから」
ケイデンはシュリンプと同じ新緑の瞳を瞬かせる。
「君が姿を変えられたとき、僕が傍にいれば君の呪いを解いたのに」
彼は口元を少しだけ動かし、笑みを作った。
「僕は君の外見だけを見ていたわけじゃないんだよ。僕は君をシュリンプより先に見つけた。だけど……。呪いの話を聞いた時も君に会いたくてたまらなかった」
彼の告白をジャスティーナはただ聞いていた。
切なさが交じる声、胸が突かれる。
けれども、心は動かなかった。
「本当は、私は呪いなど解きたくなかったのです。殿下。私はできれば呪われた姿のまま、イーサン様の傍にいたかった。私のこの顔のため、彼や母が傷つくのを見たくなかった」
「ジャスティーナ?」
「本当の呪いはこの顔だったと思っています。沼の魔女は私に素敵な魔法をかけてくれた。顔を変えられイーサン様に出会えたことで、私は自分を知り、母の苦悩も知った。もし顔を変えられた時、あなたに会っていたとしても、私の「呪い」が解けたからはわかりません」
「……君の想いはわかったよ。イーサン・デイビズ。出て来て」
「イーサン様?!」
急にケイデンが声を張り上げ、後ろの木々が揺れる。
すると、イーサンそして王アレンが出てきて、ジャスティーナは恥ずかしさのため、逃げ出したくなった。
「残念。僕のケイデンの可愛さに、ころっと気が変わると思ったのに」
「まあ、それでこそ僕が好きになった方です」
そんな親子のやり取りに、ジャスティーナは図られたことに気がつき、恥かしさなどはどこかへ行き怒りがこみ上げてくる。
「あー怖い。怖い。イーサン。後はよろしく。もたもたしていたら、王の権力を使って婚約破棄させるからね」
「ああ、それいいですね。父上。王命がありました」
「ご安心ください。俺はもう迷いませんから!」
軽口をたたき始める二人にイーサンが答え、ジャスティーナはもう混乱で何がなんだかわからなくなってきた。
「ジャスティーナ」
二人がいなくなり、中庭に静寂が戻る。
邪魔をしないように人払いもしっかりされているようで、音楽と人々のざわめきが建物から漏れてくるだけだった。
「騙したのね?」
やっと落ち着いて、彼女はこの茶番に彼も絡んでいると思って詰る。
「そんなつもりはなかった。ただ、あなたがとても綺麗で、優しくて、俺の妻よりも妃になったほうがいいのではないかと、不安を持ってしまったんだ」
――陛下ね。
反省したっきりのイーサンは俯きがちで、ジャスティーナに告白する。彼の不安をあおったのは紛れもなく、王アレンだ。
彼女に第二王子ケイデンから愛の告白をさせ試したように、イーサンにも揺さ振りをかけた。
「イーサン様。私はあなたを愛している。相応しいとか関係ないの。どうしてわかってくれないの?」
「わかっている。今はとてもわかっている」
「本当に?」
「ああ。だからジャスティーナ」
イーサンは片膝を地面につき、彼女を見上げた。
その手には指輪が握られている。
「遅くなってすまなかった。あなたを愛している。最初から惹かれていた。俺の生涯最初で最後の恋だ。どうか俺の妻になってほしい」
「はい」
ジャスティーナが返事をすると、彼は左手の薬指に指輪を嵌め立ち上がる。そして彼女を引き寄せると唇を重ねた。
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