第2話 UFO馬鹿とモケーレ・ムベンベ、あと一人UMA動物園
翌日
UFO馬鹿こと、宇佐美大和(うさみやまと)は、アフリカの熱帯雨林、テレ湖湖岸で蛮刀を握りしめていた。
肩で息をしており、止めどなく流れる汗が十七歳の若い頬を伝い落ちた。
致命傷ではないが、迷彩服が所々切り裂かれて血が滲んでいる。
目の前には、巨大な恐竜。敵意も露わに大和を殺そうと吼えたけっていた。
奴は首長竜、モケーレ・ムベンベ――アフリカに君臨する巨大恐竜型UMAだ。
(くっ、さすがに強い)
逆手に握りしめた蛮刀は、モケーレ・ムベンベの岩のような肌に負けて刃毀れしていた。もう使い物にならないかもしれない
(ならば――)
蛮刀を捨て、腰に下げていた棒を引きぬいた。
片側についたスイッチを押すと、ブォンと電子的な音を立てて光の刃が伸びた。――フォトンソード(光剣)だ。エジプトで発掘した。多分、UFOが落としたオーパーツだと思う。俺は詳しいんだ。
フォトンソードを構え、再びモケーレ・ムベンベに相対する大和。
こいつを仕留めないと、長年の夢が叶わない。大和は必死だった。
「すまんな、アンタに恨みはない。だが、UFOに会うためには、アンタの血が必要なんだ!」
上段の構えでジリジリと間合いを詰める。こめかみを一筋の汗が伝った。
モケーレ・ムベンベも応じるように殺気立っていく。
斬りかかろうと、足に力を込めた、まさにその時
――腰の石板が振動してぴぴぴと鳴った。
重心を引いて反射的に飛び退いた大和。モケーレ・ムベンベは大きな瞬きをした。
「あ、石板切り忘れてた」
お前、決闘の前には携帯(?)の電源は切っとくべきだろ――とモケーレ・ムベンベから声なき声が聞こえたような気がする。
大和がちらりと恐竜を伺うと、不機嫌そうに顎で石板を指された。早く出て済ましてしまえと言いたいらしい。
大和はやらかした新人サラリーマンのようにペコペコと頭を下げた。取り出したのは、手のひらサイズの黒い石版である。ちょうど、スマホと同じ位の大きさだ。
「Hi,ヤマト」
……電話だった。まごうことなく石板だが、どういう仕組みか電話として機能していた。大和がしゃべるたびに、石板に刻まれた文字が青白い燐光を発した。これもエジブトで発掘したもので、UFO由来のオーパーツだと大和は考えていた。俺は詳しいんだ。
『Hi,アメリアよ~。国連超常現象局の弔旗使いの~』
「あ、姐さん。お久しぶりです!」
この間延びした声の主は大和にとって、恩人である。
大和が喉から手が出るほどほしいUFO情報を流してくれ、大和がルーキーだったころから何くれと世話を焼いてくれた女性だ。青い髪のおっとり死神。
実のところ、『宇佐美大和』というコードネームですら、彼女に名づけられたものである。
「あの、今立て込んでいるんで後で掛け直してもいいですか?」
『え~? こっちは非常事態なのに~。あなた今どこにいて何をしているの~?』
「アフリカの熱帯雨林でモケーレ・ムベンベと決闘中です!」
『どうしてUMA狩りなんかしてるのよ~?』
「UFOを呼ぶのにモケーレ・ムベンベの血が必要なんです。ヴォイニッチ手稿にそう書いてあったので……」
『未解読だったヴォイニッチ手稿を解読して、幻のモケーレ・ムベンベと戦って……。そこまでして会いたいのは、ただのUFO~? やっぱりUFO馬鹿ね~』
「だって! 俺、生まれてから今までの十七年間もUFOを目撃してないんですよ! 今じゃ、UFOが未確認飛行物体と言われなくなるほど頻繁に目撃されてるのに! 俺、世界中の誰よりUFOを愛してるのに、不公平じゃないですか!」
大和の心の叫び。だが、アメリアは一ミリも同情してくれなかった。
「うーん、まぁそんなことより~、こっちの非常事態を優先してくれないかしら~。世界の存亡がかかってるの~」
「やですよ。世界が滅ぶのと、俺のUFOランデブーどっちが大事だと思ってるんですか! UFOでしょ!?」
世界をUFOと天秤にかけて、あっさりUFOを取る男! 大和!
アメリアはあっさりと黙殺した。
「迎え送ったから~、おとなしくこっちにおいでなさいな~。ちゃんと、UFOにも会わせてあげるから~。血を取るなんて、罪のないモケーレ・ムベンベが可愛そうでしょ?」
「うぐ……」
罪のないモケーレ・ムベンベ……。ちらりと首長竜を見上げると、前脚のヒレで素振りをしていた。ブオンブオンと空気をぶん殴る音がする。あいつヤル気満々なんだけど……可愛そう?
「姐さん俺……!」
「じゃあ、ニューヨークの国連本部ね~。待ってるわ~」
ブツリと音を立てて石板は沈黙した。文句をいう暇もない早業だった。これはもういかないとお仕置きされる。だが――。
完全にヤル気で鼻息も荒いモケーレ・ムベンベをどうしよう。なんか目も血走ってるし……。
これやめますっていったら肉塊にされるパターンや……。かと言って戦ったら、遅刻は当然として腕の一本二本はもってかれる覚悟をしなくてはならない。姐さんのお仕置きも不可避だ。
もう、どうしようもない。こうなったら数合打ち合いつつ、隙を見て逃げ出すしか――。
大和が、覚悟を決めてフォトンソードを構えた時。
――モケーレ・ムベンベが、更に大きい竜に体当りされて吹き飛んだ。
一人UMA動物園来たる!
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